19日に開催された「マツダ技術説明会」でパワートレイン開発本部長 主査 鈴木敬氏は、開発中の「マツダREレンジエクステンダー」に関する技術の詳細を紹介した。
航続距離という課題を克服
マツダはデミオのEVを自治体や企業向けにリース販売を行っているが、それらのアンケートなどからEVの最大の課題は「航続距離」にあると見ている。EV全体の課題としては、他にも充電インフラの整備、充電に6~8時間かかるという問題、電池のリサイクル、そもそも発電所の排出するCO2があるので、ゼロエミッションといっても社会全体では「ゼロ」ではないといったものまであるが、航続距離に対する不安や不満はユーザーの声を代表するものといっていいだろう。
航続距離を伸ばすための技術アプローチは、充電インフラの整備やバッテリーの革新や容量拡大といったものがあるが、これらに加え、EVに発電機を実装するというアプローチもある。発電機を実装するという考え方で注目されているのは燃料電池車(FCEV)だろう。もちろん発電機という意味では、従来からあるエンジンの発電機でもよい。
レンジエクステンダーは、EVの平均消費電力と同じくらいの発電ができればバッテリーは減らないはずという原理に基づいている。ただ、せっかく排気ガスのでないエンジンから電気モーターにしたのに再びエンジンを搭載するのでは本末転倒ではないかという疑問もある。しかし、内燃機関による発電機は、既存インフラが活用できる点や実用化コストが低い点はメリットである。石油代替エネルギーとして、ガスやバイオ燃料などが注目され、国や地域ごとに利用価値が高い燃料が多様化してきておりマルチフューエルへの要求にも応えることができれば、EVの充電用に小型のエンジンを搭載するというアイデアは一概に否定できない。環境問題を考えるにしても、PHVやHVがエコであるなら、それより十分小型のエンジンがエコでないはずはない。
ロータリーエンジンにこだわる理由
マツダは、ロータリーエンジンによる小型発電機をEVに搭載するというアイデアをデミオEVに適用し、試作車両を開発した。マツダがロータリーエンジンにこだわるのは、それが同社のブランド資産であるという理由もあるが、レシプロエンジンより小型化が可能で静粛性に優れているという点が大きい。
マツダが開発した発電機は、シングルローター330cc、ペリフェラルポート、ローター横置きのロータリーエンジンだ。出力は22kW/4500rpmとのことで、これはおよそ30馬力に相当する。また、発電効率を上げるためジェネレータをベルト駆動で2倍増速して発電させている。横置きで薄型の設計にしたのは、既存のトランクスペースなどを犠牲にしないためだ。REレンジエクステンダーによってデミオなら航続距離をおよそ2倍の400km位まで伸ばすことが可能だそうだ。燃料タンクの容量は9リットル。
技術説明会では、REレンジエクステンダーを搭載したデミオEVの試乗も行われた。試乗車は試作第1号の車両が利用された。運転した感覚は、発電機を積んでいるだけなのでEVとしての完成度は変わらない。違和感などはない。ただデミオクラスに大人4名乗車でも発進などにトルク不足を感じないのはやはりEVならではの特性だろう。
発電機の動作音は、意識して聞いていないとわからないレベルだった。エンジンが起動されるときに若干の音がするが、ヒーターのモーターが回り始めるくらいレベルで、ファンが高回転で回る音よりはるかに小さい。通常走行では、タイヤのノイズや風切音でかき消されるレベルだろう。
ちなみに、発電機として設計されたエンジンだが、EVに載せる発電機ということで、試作車には触媒やマフラーもついている。排気ガスも自動車エンジンの規制をクリアさせているそうだ。
災害時用発電機への応用も
鈴木氏は、「この技術を応用すれば、マツダならプロパン、ガソリン、カセットボンベなどに対応したマルチフューエル対応の災害時用発電機などが作れます。」とEV以外の可能性も示唆した。
現在EVデミオには100W程度のACアウトレットが装備されているが、これの容量アップも発電機を搭載すれば簡単だろう。現状でも、レンジエクステンダーの発電能力で、コンビニ一軒くらいならまかなえるという(常務執行役員 藤原清志氏)。災害時に避難所や家庭用の非常電源として利用できそうだ。
また、現状ではレンジエクステンダーの出力はバッテリーの充電に使うだけで、直接モーターを駆動するようにはなっていない。ただし、これは小型エンジンではモーターを駆動させる発電能力がないということではなく、設計しだいでは非常用の補助動力源として自宅やサービスステーションまでの発電機とする使い方も考えられるという。走行中充電と非常時発電とどちらが効率がよいか、実用的かは今後の実験やデータが必要だが、可能性としては興味深い。
REレンジエクステンダーの市場投入や市販車への搭載予定を聞いたところ「まったく未定ですが、われわれはこれを決して唯一の解決策とかゴールとは考えていません。市場のニーズや状況をみながら、そのときに対応できる技術のひとつして開発を進めています。」(同前)という返事だった。
EVの航続距離についての不満や不安は、文字通り不安であって感覚的な要素が多いと思う。買い物や日常の足なら1日100kmも走ることは少ない。理屈でいえば、現状のEVの航続距離が足りないということはない。エアコンをいれたり多少ラフな使い方をしてもバッテリーがなくなることは少ないだろう。しかし理論だけでは、漠然とした不安や万が一のトラブルが解消されるわけではない。精神的な不安を払拭するには、燃料電池や高性能バッテリーといった高度で複雑な技術(=わかりにくい技術)より、「発電機を搭載しているから大丈夫」といったわかりやすい対策やソリューションのほうが効果的だろう。
EVそのものがまだ高価ではあるが、市販化を期待したい技術だ。