独ベルリンで開催されているe-モビリティウィークスは、フォルクスワーゲン(VW)主催による電気自動車(EV)の訴求イベントだ。”electirified!(電化せよ!)”というスローガンの下、同社が考えるEVの姿を提案する。
◆"走り"をアピールしたプラグ・イン・ハイブリッド
VWはジュネーブモーターショー14で『ゴルフ』ベースのプラグ・イン・ハイブリッド(PHV)である『ゴルフ GTE』を発表した。その車名が、そしてクラウス・ビショフ氏率いるVWブランドデザインチームによるアグレッシブなデザインが、この車がゴルフのスポーツモデルである『ゴルフ GTI』および『ゴルフ GTD』の延長線上にあることを示している。
実際に試乗してみると、GTEがスポーツモデルであることを実感させられる。市街地ではEV特有のトルクが車体を軽々と前進させる。一歩アクセルを踏み込むと、GTI同様の野太いエグゾーストノートとともに、爆発的な加速を見せる。システム最高出力204PS、0-100m加速7.6秒というスペックもこの体感を裏付ける。
とは言え、PHVとして、エコカーとしての資質も十分に兼ね備えている。GTEは電気のみで50kmの距離を走行可能な上、欧州複合モードによる燃費は1.5リットル/100km(=約66.7km/リットル)を誇る。それだけのスペックを兼ね備えた上で、スポーツモデルであることをアピールするのは、EV/PHVに新たな価値観が生まれている証左かもしれない。
◆すべてのパワートレインを手に入れたゴルフ
"GT"の名に恥じない運動性能を誇るGTEであるが、VWが最もアピールするのは、PHVであるGTEの登場により、ゴルフが現在可能とされている全てのパワートレイン(ガソリン/ディーゼル/EV/PHV)を備えた世界初のモデルとなったことだ。
シリーズ累計販売台数が3000万台を超えるゴルフは、言うまでもなくVWの最重要基幹車種であり、VWは当初からゴルフを中心とした次世代パワートレインの車種展開を想定していた。しかし、EVであるe-ゴルフのすぐ後にPHVであるGTEを発表したのはなぜだろうか。
◆必要なのは"インターシティ"の概念
この点は、VWグループ傘下のアウディ研究開発担当取締役ウルリッヒ・ハッケンベルグ氏の言葉がヒントになる。ハッケンベルグ氏は3月11日に行われたアウディグループ年次記者会見の場において「BMW『i3』のような航続距離が100-200km程度のピュアEVは、アウディの考え方とは異なる」と述べた。
ハッケンベルグ氏は続ける。
「アウディが重視するのは"インターシティ"と呼ばれる概念、すなわち、最大900km程度の都市間交通を可能にすることである。その意味ではPHVの方がアウディの理念に合致する」
この言葉通り、アウディは最大940kmの航続距離を持つ『A3 e-トロン』を欧州では2014年春より、日本では2015年前半より発売を開始する。元VWグループの開発担当取締役でもあるハッケンベルグ氏のこの発言は、アウディのみならずVWにも適用して考えることができる。GTEの最大航続距離は939kmである。
結局のところ、ガソリン車と比べて格段に航続距離が少ないピュアEVでは、消費者のニーズを捉えきれないのだ。特に"大衆車"メーカーとしてのVWとしては、あらゆるニーズに対応する必要がある。あるVW関係者は「(e-ゴルフとGTEでは)台数が出るのはやはりPHVであるGTEだろう」と口にする。GTEは、次世代パワートレインを推進するVWにとって"保険"の意味があるのかもしれない。