【アクセラ開発者への10の質問】Q6.スカイアクティブGが低燃費高出力を実現できた理由とは?

自動車 ニューモデル 新型車
マツダ パワートレイン開発本部長の廣瀬一郎氏
マツダ パワートレイン開発本部長の廣瀬一郎氏 全 16 枚 拡大写真

マツダが2013年11月21日に発売した新型『アクセラ』。発売から4ヶ月での受注台数は2万5000台を超える好調振りを見せている。

同社の"SKYACTIV TECHNOLOGY"や“i-ACTIVSENSE”を搭載し、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッドと3種類のパワートレインをラインナップ。さらに、新世代カーコネクティビティシステム“マツダコネクト”を採用した新型アクセラの誕生秘話と魅力を探るべく、開発陣に「10の質問」を行った。

Q6.スカイアクティブGが低燃費高出力を実現できた理由とは?
A6.ロスを低減させ、全域に渡って地道に熱効率を高めていくことで、高圧縮比とストイキ(理論空燃比)燃焼を実現させているため。

先日、鹿児島で『アクセラ』のロングドライブ試乗会が行われた。そこでは首都圏を少し走っただけでは分からなかったアクセラの魅力を浮き彫りになった。15SのMTを走らせていると、このクルマに搭載されているエンジンが1.5リットルの自然吸気、しかも高い環境性能を達成していることを忘れてしまう。それくらい力強く、速く、そして楽しいのである。

スカイアクティブGの高圧縮比は、ミラーサイクルとして使うためのもので、実際にはオットーサイクルとして圧縮比13の状態で走っていないのでは、と思っていた。しかし、高回転域での力強い走りで、そんな疑いは吹き飛んだ。そんな感想をパワートレイン開発本部長の廣瀬一郎氏に伝えてみた。

「そうなんです。高負荷の領域ではきっちりと圧縮比13の状態で走らせています。確かに軽負荷の状態ではミラーサイクルを使うことでポンピングロスを減らして燃費を向上させています。高負荷になったらノッキングしないように点火をリタード(遅角)させているんじゃないか、とおっしゃる方もいますが、それは使っていません」。

「最大トルクを追うだけなら簡単なんですが、スカイアクティブではそこで燃料をリッチにせずに達成させることに、こだわりました。でも、圧縮比が高い状態で燃料を薄くするとノッキングを起しやすいので大変なんです。普通は燃料を濃くすることで燃焼室を冷却するんですが、そこは4-2-1のエキゾーストマニホールドで、排気ガスのスカベンジ(吸引)効果を利用することで燃焼室内の熱い燃焼ガスを吸い出し、その分新しい空気を入れることで対策しました」。

量産エンジンで圧縮比13を達成するだけでなく、高負荷の領域でもストイキ(理論空燃比)燃焼を実現するという点が画期的だったのだ。だから燃費もいい。ワインディングで2速3速を多用しても、4人乗車で引っ張っても平均燃費は13km/リットル前後のままだった。

「スカイアクティブは、燃費のスイートスポットがけっこう広いんですよ。高速でもMTで6速から5速にシフトダウンして走ると加速が良くなりますが、実は燃費もそんなに落ちないんです。燃焼室内の混合気の作り方を、これも地道にやりました。今はCAE、コンピュータでの解析が発達したので、以前は結果から想像するしかなかった燃焼室の状態がシミュレーションで見えるようになったんですよ」(廣瀬氏)。

とはいえ、この性能実現の道は決して容易なものではなかった。それでも最終的には達成できたのは、諦めずに何度も挑戦を続けたからだった。

「行き詰まった時には、もう一度燃焼理論に立ち返って、こうすれば必ずこうなるはずだ、と地道に繰り返しました。理論上は、この方向に進めば、必ず答えはあるはずだと、突き進んだのです」(廣瀬氏)。

ということはスカイアクティブGというのは、従来の燃焼理論を超えた技術ではなく、燃焼理論を突き詰めた技術なのだろうか。

「ええ、従来の燃焼理論から外れたものではありません。教科書通りにロスを低減させて、全域に渡って熱効率を高めていく行為を細かな積み重ねによって実現させたエンジンなんです」(廣瀬氏)。

あまりにも従来のエンジンと違いすぎることから謎めいたものを感じていたが、スカイアクティブはマジックでも何でもなかった。しかし今回アクセラで初登場した1500ccのスカイアクティブGは、どうしてあんなに伸びやかに回り、逞しく加速し、いい音を響かせるのだろう。

「実はエンジンの音や振動は、背骨とも言えるクランクシャフトの剛性が大きく影響しているんです。1.5リットルは2リットルと比べても骨格が小さくピストンも軽くて往復間の圧力も小さいので、起振力自体が減っているんでしょう」(廣瀬氏)。

ショートストロークで高圧縮なのも、結果としてスポーティなフィールを強めたのかも知れない。もちろん2リットルのガソリンエンジン、2.2リットルのディーゼルエンジンもスカイアクティブとして、低燃費、クリーンでありながらスポーツ性能を満足させるものだ。

内燃機関に秘められたポテンシャルと未来への希望を感じさせる。スカイアクティブGは、最新の解析や設計技術だけで作り上げられたのではなく、技術者の魂が込められた、熱い心臓だった。

《高根英幸》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 【日産 ルークス 新型】「ルークスはパイクカー」開発デザイナーが立ち返った“軽ならではのデザイン”とは
  2. 日産『リーフ』新型、米国EV最安値の約440万円から…今秋発売へ
  3. 第3世代e-POWERの日産『キャシュカイ』が無給油で英国縦断! その実力に日本導入への期待高まる
  4. 「本当に世に出るとは」わずか1トンの車体に800馬力V12を搭載、「超アナログ」なスーパーカーにSNS沸く
  5. 【ボルボ XC60 ウルトラB5 新型試乗】大胆緻密なマイチェンが証明する、ベストセラーであり続けている理由
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. EV充電インフラ-停滞する世界と“異常値”を示す日本…富士経済 山田賢司氏[インタビュー]
  3. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  4. SUBARUの次世代アイサイト、画像認識技術と最新AI技術融合へ…開発にHPEサーバー導入
  5. 「ハンズオフ」は本当に必要なのか? 高速での手離し運転を実現したホンダ『アコード』を試乗して感じた「意識の変化」
ランキングをもっと見る