『CTS』が3代目に衣替えした。今やキャデラックを代表する中心モデルにまで成長したCTS、その新型は明確にメルセデスベンツ『Eクラス』やBMW『5シリーズ』、そしてアウディ『A6』を仮想敵とすると明言している。それだけ自信作なのだと思う。
ニューモデルは新たにアルファと名付けられたプラットフォームを使う。これはすでに日本でも販売されている『ATS』に使われているもの。小型化したかと思いきやその逆で、全長で100mm拡大され、ホイールベース+30mm、そしてリアオーバーハングで+90mmとかなり大型化した。一方で全高は19mm低められ、全体として低く長くなっている。だがこれだけ大型化したにもかかわらず、旧型より100kgも軽量だというから熟成の度合いがわかるというものだ。
搭載されるエンジンは2リットル直4ターボ。これはATSと同じものである。実際に試乗する前は、少々失望していた。現行キャデラックの最高峰であるにもかかわらず、エントリーレベルのATSと同じエンジンを搭載したのか、という疑問があったからだ。当然ながら本国にはV6搭載車があり、トップグレードならそちらだろう…という思いが強かったためである。
しかしながら、実際に試乗してみてその失望は逆に感動に変わった。それは絶妙にバランスのとれた走りが気筒数の少ないエンジンを補った余りあったからだ。最近はBMWにしてもメルセデスにしても、このクラスのモデルに当たり前のように4気筒エンジンを搭載しているが、その中では最もパワーウェイトレシオが高いのがこのCTSなのだそうである。そしてエンジンフードを開けてビックリ。エンジンは完全にフロントミッドにマウントされ、いかにも運動性能の良さそうな空間がそこにあった。
軽さの要因はドア、ボンネット、さらにはバンパーにもアルミを採用したことや、エンジンマウントやストラットタワーまでアルミ化したこと。そしてインパネ構造部材にはマグネシウムを使うなど、細部に至るまで徹底的な見直しを図り、結果として実際に走って本当の軽さを実感できるレベルまで煮詰めていた。
だから、このサイズにも関わらずその身のこなしは実に軽快で無駄がない。ただ単純に軽量化しただけではこうしたフィーリングは得られないのだが、軽さだけでなく40%も向上したボディ剛性の高さがこのフィールを実現している。シャシーは完全にスポーツチューンといってよく、路面からの入力を明確に感じさせるアスリートのような筋肉質な走りを見せる。だから、路面をいなしてフラット感を出したコンフォータブルな走りではない。
しかし、だからといって快適ではないかといえばそんなことはなく、乗り心地そのものは非常に洗練されている。昔のソフトで大海原を行く船のような乗り心地とは隔世の感があるが、これが新しいキャデラックなのだ。個人的な話だが、実はかつてキャデラックを所有していたことがある。まさに大海原を行く船のような乗り心地を持つキャデラックだった。しかし、それとは対極にある新しいCTSに乗り、従来とは全く異なる感動をもらえるキャデラックだった。
またさらに、今頃になってアート&サイエンスというキャデラックのデザインコンセプトが馴染んできたように感じる。コンセプトカーにはとても惹かれるものが多かったのだが、いざ市販車となるとその良さが伝わってこなかったが、このクルマはようやく市販車でもコンセプトカーで見せていたアート&サイエンスのデザインキャラクターが活かされたと感じた。
確かにATSと同じメカニカルトレーンながら、シートに使ったダンピングフォームやウィンドシールド、サイドウィンドーなどに施した徹底した遮音のおかげで、きわめて静粛性が高く、やはり文句なく上質感が高い。エンジン透過音も最小限に抑え込まれ、今世紀に入って最高のキャデラックと断言できる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 :★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。