東京オリンピックへ向け、外国人観光客向け無料Wi-Fi整備が急ピッチ

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【図1】外国人観光客が日本での滞在中に、どのような情報が求められているか(観光庁)
【図1】外国人観光客が日本での滞在中に、どのような情報が求められているか(観光庁) 全 4 枚 拡大写真

 国内の主要観光地では、特に外国からの観光客のニーズとして、無料で利用可能な公衆無線LANの要望が多数寄せられているものの、いざ実現させようとしても多くの課題があるため二の足を踏んでいる自治体等が多い。インフラの整備費用や通信費を自治体等がどう負担するかという課題ももちろんなのだが、外国人観光客が持ち込むWi-Fi端末の技適問題にも頭を抱えている実情がある。総務省の見解では、日本の技適を通過していない端末は違法無線局として扱われる。摘発例は聞かないにしても、総務省としては外国人向けに「Wi-Fi Free Spot」があることを表記をする際には「日本の技術基準適合認定を受けていない端末は違法になる可能性がある」ということを併記するよう指導しているが、実際にはそういう記述まで添えているWi-Fi Free Spotの表記は見たことがない。

 そうした中、神戸市産業振興局観光コンベンション課は、外国人旅行者を中心とした観光客のWi-Fiの利便性を向上させるという目的で、神戸市内の主要な観光スポットで利用可能な「KOBE Free Wi-Fiカード」の配布を7月31日より開始した。これは神戸市が自ら公衆無線LANインフラの整備をせずに、既存の公衆無線LAN事業者に委託することで、その通信費用を神戸市が負担するという形でサービスを提供するというもの。事業者は公募となり、応募のあった3事業者から書類審査及びプレゼンテーション、質疑応答における評価を参考に、「基本事項」「カード配布方式」「独自整備方式」「印刷物」等の項目について、総合的に判断し株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス(以下、Wi2)が委託事業者として選定されている。

 東京オリンピックが開催される2020年に向けて、全国の自治体等が外国人向けにどのように公衆無線LANを提供するか様々な検討が行われていると考えられるが、その先行事例として、この神戸市の取り組みと、そこに介在する問題の整理をしておきたい。

■外国人観光客に最も求められているのが公衆無線LAN

 観光庁が行った調査によれば、外国人観光客が日本での滞在中に、どのような情報を求めているかという調査で、筆頭に上がったのが無料Wi-Fi(公衆無線LAN)の利用に対するニーズであった(図1)。

 わが国でも順調にWi-Fiスポットの整備が行われているが、いずれのアクセスポイントも登録が必要で、しかもその大半が有料サービスとなっている。海外では屋外の様々な場所でWi-Fiが無料で利用できるケースが多いが、わが国でWi-Fiを開放しているのは宿泊先ホテルや公的施設などごく一部だけであり、多くの外国人観光客にとって日本で不便を感じさせるウィークポイントとなっていた。

 神戸市では、まずこの「KOBE Free Wi-Fiカード」を30,000枚用意する。不足すれば追加発行も検討する。「KOBE Free Wi-Fiカード」の配布は、神戸市総合インフォメーションセンター(ポートライナー三宮駅)、新神戸駅観光案内所(JR新神戸駅構内)、北野観光案内所(北野風見鶏の館前)からスタートし、順次拡大予定としている。これらの場所で外国人観光客はパスポートなど観光を目的として一時的に来日した外国人であることを確認できる証明書を提示することで、この「KOBE Free Wi-Fiカード」を入手できる。カードに記載されているアクセスIDとパスワードを用いて、「Wi2」「Wi2premium」「wifi_square」などのアクセスポイントを通じてインターネット利用が可能となる。カードの有効期限はログイン時から1週間となっている。

 神戸市から委託を受けたWi2は、神戸市内だけで対応するアクセスポイントが3,000箇所以上あり、自治体として外国人観光客向けに提供する公衆無線LANの規模としては全国でも最大級のものになる。外国人観光客が多い観光地を抱える自治体は、こうした来日客向けに公衆無線LANのアクセスポイントをどのように提供するかを検討しているところが多いと思われるが、中には独自に設備を設置するケースも見受けられるものの、それには限界がある。限られた自治体の予算で有効に外国人観光客向けに公衆無線LANを提供する事例として、今回の神戸市のように既存の公衆無線LAN事業者に委託して事業を行うという手法も今後注目されていきそうだ。後述するが、インフラを既存公衆無線LAN事業者に委託することで、自治体が抱えるもう一つの課題である「技適問題」に対しても逃げ道となる。

 なお、神戸市では単に通信費用を負担するだけでなく、これを利用して外国人観光客の利用動向分析も実施するとしている。これはWi2のWi-Fiネットワークが保持する位置情報や利用者の接続時間などを、個人が特定されない統計情報として加工した形で神戸市にフィードバックさせ、これにより街頭調査やWEB調査などで得られなかった外国人観光客の動線や滞在時間の把握など、新たな観光周遊行動の調査データとして、新たな観光振興に向けた取り組みにつなげていこうというものである。

 またカード配布方式とは別に、神戸市では外国人観光客受け入れ拠点に独自に公衆無線LANを設置し運用も行っている。所定の場所で神戸市独自にSSIDを選択し、ブラウザから簡単な登録手続きをして利用できる。独自整備拠点は、神戸市総合インフォメーションセンター、北野観光案内所、新神戸駅観光案内所、神戸空港ターミナル、神戸ポートターミナル、中突堤旅客ターミナル、神戸市役所24階展望ロビー、神戸ポートタワー・神戸海洋博物館、神戸国際展示場、有馬温泉観光案内所、海上アクセスターミナルの計11カ所となっている。

■各自治体が気にしている外国人観光客端末の技適問題

 外国人観光客が多い自治体は、それら観光客向けに無料で利用可能な公衆無線LANの提供を行っているところも少なくないが、なかなか積極的にアピールするところまではしていない。このあたりの事情を主要自治体の観光局等に取材してみると、やはり「技適問題」をネックとしているケースが多いようだ。

 筆者のこれまでの連載(とくにGoogle Glass関連の記事)などでも触れているとおり、日本の電波法上、電波を発する機器は「無線局」として取り扱われ、これを合法的に運用するためには技術基準適合認定(いわゆる「技適」)を受けなくてはならない。

 本来は自作無線局や出力を強くするなど違法改造し、他の無線サービスに悪影響を及ぼす無線局を取り締まるための法律だったはずだが、この法解釈に当てはめると、スマートフォンやタブレットなど3GやLTEなどのモバイルネットワーク機能を備えた端末はもとより、Wi-FiやBluetoothも無線となるのでそれらを備えたノートパソコンも含め「無線局」として扱われるため、この日本の技適がないものに関しては国内では「違法無線局」として扱われてしまう(モバイルネットワークを国際ローミングとして利用する場合は除外される)。

 そもそも、外国人が持ち込む端末で、日本の技適を通してある端末が利用されるケースは稀だ。総務省の担当部局に問い合わせれば、当然のことながら法令を遵守させることが当局側の立場であるため「こうした技適の無い機器は日本では電源を入れないで下さいとしか言えない」ということになる。スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどのWi-Fi利用で、「違法無線局」として摘発された事例は聞いたことがないのだが、法令を厳格に遵守しなくてはならない自体の立場としては観光客向けに公衆無線LANサービスの提供を目論みつつも二の足を踏んでしまっているのが現状だ。

 神戸市産業振興局観光コンベンション課の東(あずま)氏は「国内でも外国人観光客が多い当市としては、外国人観光客向け公衆無線LANの提供は重要な課題と感じていた」という。技適問題に関しての課題について伺ってみると、やはり自治体としても懸念を感じつつも、「Wi2の利用規定に従って公衆無線LANを使用してくださいと案内している。当然のことながらWi2の規約の中には接続できる端末は技術基準に適合したものであることなどが記載されているので、利用者(外国人観光客)にはそれを承諾した上で使っていただいているものと考える」とし、技適問題は自治体側が悩むものではなく、通信事業者側に責任持って対応してもらうというスタンスであることが分かった。

 ちなみにWi2の広報担当によれば「技適問題は認識しているが、接続してくる端末が合法な端末かどうかは提供者側としては判別できず、これはユーザーに委ねるしかない」という回答だ。

 2020年には東京オリンピックが開催され、世界中から多くの外国人観光客がわが国を訪れることになる。総務省では「情報通信審議会2020-ICT基盤政策特別部会 基本政策委員会」を開催し、この委員会の中で「訪日外国人にとっても利用しやすいICT基盤の実現」についても議論を進めている。この中では「外国人観光客の無料で利用できる公衆無線LAN環境へのニーズの対応」「利用の煩雑さの解消」「海外からの持ち込みスマートフォン等へのMVNO等による国内発行SIMの提供」などが盛り込まれている。理想の形が描かれている資料の中には技適問題には触れられていないが、この委員会の理想としているICT基盤を実現させるためには、技適問題を含む法解釈の見直しも必要となってくる。神戸市の場合、こうした総務省の動きも鑑みて、どの自治体よりもいち早く外国人観光客に無料で公衆無線LAN環境を提供する大規模なサービス展開を始めたことになる。2020年に向けた情報通信政策にいち早く乗っていこうという考え方のようだ。

 かつて、総務省のこうした法律に関連する担当官から、「ニーズがあれば法律も変化していくはず」という言葉を聞いたことがある。グローバル端末の普及や世界中の誰もがWi-Fi等を通じてインターネットにアクセスする時代となり、いよいよわが国でも既存の法解釈では対応できない新たな「ニーズ」が散見されるようになってきた。ぜひともユーザーにとって便益のある法制度の見直しに期待したいものである。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第52回 外国人観光客向け無料Wi-Fi提供の障壁になっているもの

《木暮祐一@RBB TODAY》

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