【トヨタ プロボックス/サクシード 改良新型】働く人を元気にする「四畳半」コンセプト…開発者インタビュー

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プロボックス/サクシードの製品企画をとりまとめた嶋村博次(しまむら ひろつぐ)主査
プロボックス/サクシードの製品企画をとりまとめた嶋村博次(しまむら ひろつぐ)主査 全 18 枚 拡大写真

トヨタの商用バン『プロボックス』/『サクシード』が12年ぶりのマイナーチェンジを遂げる。ビジネスシーンでの使い勝手を第一に考え、実際のユーザーの声を集めた上で、乗用車とは全く異なったデザイン、インターフェース開発の手法がとられたという。

車内で過ごす時間が多い商用車だからこそ実現できた新型プロボックス / サクシードの内装デザインとそのコンセプトについて、製品企画部の嶋村博次(しまむら ひろつぐ)主査、インパネ・意匠設計担当の川畑雅稔(かわばた まさとし)氏、西村成生(にしむら しげお)氏、デザイン担当の門田寛仁(かどた のりと)氏、4名の開発メンバーがインタビューにこたえた。

◆“四畳半”をキーワードに、手が届く空間を作り上げた

----:今回は新型プロボックス / サクシードのデザインについて話を聞くため、製品企画の嶋村さんをはじめ、4名の方にお集まりいただきました。早速ですが、今回のモデルチェンジで大きく変わったのがインパネです。これまでにない革新的なデザインですね。

嶋村:ありがとうございます。今回の開発では、実際にお客様がどう感じているか、何を求めているかを知るために、2回に分けてユーザー調査をしました。乗用車と違って、このクルマはリースが75%を占めるので、実際に使われているお客様の話を聞く機会がなかったからです。会社訪問、市場(いちば)訪問、ユーザー密着調査、街での突撃インタビューなどを行ない、私自身も街や高速道路のサービスエリアなどで、先代の使われ方を観察しました。

また、お客様には会社で共用されている場合と、自分の専用車として使う場合の二通りがあります。専用車だと自由に使える分、独身者のワンルームマンションみたいに室内が散らかってしまう。これは、物の置き場所を我々がちゃんと提供できていないからだと反省しました。それで2011年から2012年頃に、どんな形がいいかをみんなで考え始めて、その中で見つけたキーワードが“四畳半”でした。カッコよく言えばパーソナルオフィスですね。つまり自分の使いたいものがすぐそばにある、そんな空間にしようと。具体的には、ビジネスマンが車内に持ち込む5つのアイテム、携帯電話、カバン、A4バインダー、弁当、ドリンクを置ける場所を作ることにしました。

----:今回の開発では、まず機能を作りこんでからデザイン作業に入ったと聞きました。

嶋村:従来の開発は、まずカッコいいスケッチから始まるんですね。で、そのデザインを技術部が崩していくと(笑)。今回はまず、デザイン部や設計部も一緒になって、コンセプトやアイテムを形にしてみました。テーブルは大きくしようとか、カップホルダーをここに置いたらどうだろうとか、ここにカバンを置きたいねといったことを、みんなでやったわけです。

門田:私は内装デザインを担当しました。いつもならデザインを描いて、技術部に渡して、いやこんなの出来ないよ、と言われるんですが(笑)、今回はチーム全体で形にするという、今までにない経験が出来ました。ただ、実際にやってみると、機能優先の位置設定から始まるので、デザイン構成が非常に難しい。そのまま作ると、ただ穴があいてるだけの凸凹のデザインになってしまうんです。オフィス家具のデザインなども参考にして、使い勝手のいいシンプルなデザインを目指しました。また、今回はインパネのペーパーモデルを通常より多く5回ほど作り直し、繰り返し検証しました。そしてさらに木型で可動部分がちゃんと動くハードモデルを作って実際のヘビーユーザーさんに使い勝手をチェックしてもらい、その後にデザインを被せたわけです。こんなやり方は、おそらく前例がないと思います。

川畑:設計では通常、最終図面を出す前には試作品を作り、静的に見て、触って、組付作業を検討するのですが、今回は嶋村の提案で、実際にそれを試作車に載せるところまでやりました。走りながらカップホルダーなどの使い勝手を確認したわけです。

嶋村:今回は設計の方に、軽い物は目線の高さに、飲み物のような重量物は腰の高さに置けるように、とお願いしました。先代は収納スペースが下の方にあって、屈まないと手が届かなかった。そうじゃなくて、前方を見たまま手が届くところに物が置けたらいいよね、と。

◆評価基準から自分たちで作り上げた

----:新型のインパネは、携帯が置けるマルチホルダーがあったり、大型センターテーブルがあったり、シートの横にカバンが置けたり、1リットルの紙パックが置けたりと画期的です。

嶋村:紙パックホルダーについては、うちの娘がコンビニで100円くらいで売っている紙パックの飲み物をよく飲んでいる。で、お客様に聞くと「僕らも飲む飲む」とおっしゃる。だからその置き場所を、先代ではインパネシフトがあったところに作りましょうとなりました。助手席にも人が乗りますから、結局、前席だけでカップホルダーを4つ作りました。それから先代にも小さなテーブルがありましたが、これをもっと大きくしようと。せめてモバイルPCや幕の内弁当を置けるように幅で80mm、奥行きで35mm拡大しました。

門田:使い勝手では、一つの部分が二つ以上の機能を持つように工夫しました。例えばテーブルの手を引っ掛けるところには物が置けたり、iPadを立てかけるのにピッタリだったり。お客様はいろんな使い方をされるので、それに対応できる作りになっています。

嶋村:グローブボックスは先代でもオープンラックで使い勝手が良かったのですが、見た目が煩雑になっていました。なので今回は間口を500ミリリットルのペットボトルが入る70mmまで狭める一方で、物が取り出しやすいように間口を拡大できるようにしました。ここはこだわってコストをかけた部分です。

----:このあたりには技術的にもブレークスルーがあったのでしょうか。

川畑:インパネは「かたまり」で初めて剛性が出ますが、今回はそこら中に穴があるので剛性をとるのが難しい。テーブルも厚みによってではなく、硬い樹脂を使うことでインジェクション成形でも変形しないようにしました。

嶋村:今までにない機能なので、どれだけの荷重に耐えて、どんな使い勝手ならOKなのか判定基準がありませんでした。それで下村主査と話をすると、「自分たちで決めればいいじゃないか」というわけです。だから人間工学の専門家もまじえて、みんなで荷重の数値や使い勝手、剛性感などの基準を決めていきました。今回は下村主査から基本的なレイアウトや考え方を任せてもらえたので、伸び伸びやることが出来たと思っています。

◆ドライバーシートがベッドでありオフィスのチェアでもある

----:今回はシートも新開発です。商用車はやはり車内で過ごす時間が長いのだと思いますが、ここに掛けたこだわりをお聞かせください。

西村:座り心地は、先代より格段に良くしたという自負があります。新型では座面の幅を広くフラットな形状にし、なおかつ腰回りをしっかり支えることで、体格に関係なく気持よく座れて、疲れないシートにしました。高さの調整幅も倍の60mmにしています。

----:仮眠もできるように、運転席の背もたれがフルフラットに近いところまで倒れますね。つまり簡易ベッドにもなる。

西村:シートに関しては寝心地もテストしました。シートバックを倒した時に、シートクッションとの間に違和感のある段差ができないようにしています。

嶋村:30万kmほど走った先代の車両を2台手に入れて調べてみると、シートは非常にヘタリが少なくて、経年劣化に強かったんです。ただ、座り心地という点では体にしっくりこないところがあって、そこは直そうと。新型の開発コンセプトは“働く人を元気にするクルマ”ですから、長時間座っても疲れないシートにしたい。乗用車ですと目的地についたら降りますが、このクルマの場合はお客様に会うまで車内に座って仕事をしている。つまりオフィスのチェアでもある、というのが他にはない大きな特徴ですね。

《聞き手:宮崎壮人 まとめ:丹羽圭@DAYS》

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