国立天文台 謎の宇宙竜巻「トルネード」の形成過程を解明

宇宙 科学
(a)トルネードの電波写真(Brogan & Goss 2003, AJ, 125, 272 より作成)。(b)等高線で電波強度を表し、X線イメージを重ねた図。(c)電波強度の等高線と一酸化炭素スペクトル線強度分布を重ねた図。赤は遠ざかる運動を、青は近づく運動を表している。(d)電波強度の等高線と衝撃波に特徴的なスペクトル線の強度分布を重ねた図。遠ざかる運動を赤で、近づく運動を青で表している。
(a)トルネードの電波写真(Brogan & Goss 2003, AJ, 125, 272 より作成)。(b)等高線で電波強度を表し、X線イメージを重ねた図。(c)電波強度の等高線と一酸化炭素スペクトル線強度分布を重ねた図。赤は遠ざかる運動を、青は近づく運動を表している。(d)電波強度の等高線と衝撃波に特徴的なスペクトル線の強度分布を重ねた図。遠ざかる運動を赤で、近づく運動を青で表している。 全 4 枚 拡大写真

2014年8月18日、自然科学研究機構 国立天文台は野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡などによる観測から、らせん状の特異な形をした天体「宇宙竜巻『トルネード』」の形成過程を解明したと発表した。

宇宙竜巻 トルネードは、さそり座の方向で太陽系からの距離が約4万光年のところにある、約110光年の広がりをもった天体。1960年に発見されて以来、この正体を巡って「エキゾチックな超新星残骸」「遠方の巨大ブラックホールが放出するジェット」「高速回転する中性子星」などさまざまな説が提案されてきた。

2011年、JAXAのX線天文衛星「すざく」による観測で、トルネードの両端から温度・形状・大きさがほぼ等しい「双子プラズマ」が検出された。双子プラズマは、トルネードの中心にある回転ブラックホールに大量のガスが降り注ぎ、その一部が高エネルギー粒子の双極ジェットとして放出され、らせん状の電波源を形成。双極ジェットは周囲の星間雲と衝突し、両先端に双子プラズマが生まれたと考えられている。

とはいえ、現在ではトルネードを作り出したとされるブラックホールは、ジェットの噴出などの活動がみられないため、トルネードの形成時期にどのようにしてブラックホールが一時的にジェットを噴出したかはわかっていない。以来、トルネードの正体を巡って論争が続いていた。

東京大学の酒井大裕氏、慶應義塾大学の岡朋治准教授らによる研究チームは、2009年から国立天文台野辺山45メートル電波望遠鏡を用いて、トルネードの両側にあることが確認されていた分子雲を観測。周辺領域の分子が放射するスペクトル線の観測を行った。結果として、これまで知られていた「分子雲A」に加え、今回初めて検出された「分子雲B」の存在も発見された。分子雲Aは銀河系の回転運動とほぼ同じ運動をしており、一方で分子雲Bは銀河系の回転からやや外れた運動をしていることがわかったという。分子雲AとBの形状と、両者が毎秒約20キロメートルという大きな速度差をもつことから、分子雲AとBは過去に激しい衝突を起こしたことが推測される。トルネードと分子雲A、Bは激しく衝突した際の衝撃波の痕跡を残しているという。

研究チームは、こうした観測から、銀河系内で回転運動をしている分子雲Aに、回転からやや外れた運動をしている分子雲Bが衝突し、分子雲A内で発生した衝撃波の後方で形成した高密度層がブラックホールを高速で通過。その際に一時的にブラックホールへ流れ込む物質の量が増加し、ブラックホールに落ち込む物質が作る円盤から双極ジェットが発生しトルネードを形成した。さらにトルネードは周囲の分子雲と衝突し、双子プラズマが発生した、とその形成過程のシナリオを描いている。このシナリオによって、これまでの観測結果を説明できるだけでなく、トルネードを作り出したとされるブラックホールが一時的にジェットを噴出し、かつ現在はジェットを噴出していない理由も説明できるという。この研究成果は、8月20日付の米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載される予定だ。

《秋山 文野》

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