【土井正己のMove the World】「アベノミクスは失敗だったのか」~アベノミクス 再定義~

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自動車の輸出
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最近、日本ばかりか海外報道でも「アベノミクスは失敗だった」との報道が目立っている(フィナンシャルタイムズ紙8月27日付け「Abenomics’ arrows fail to hit their mark」)。それは、4-6月期のGDP速報値が前期比(年率換算)マイナス6.8%と大きく落ち込んだことが大きい。さらに本年の1-6月期の貿易赤字が過去最大になったことなど、直近の数字を見ていると悪化を示すものが多いのが理由のようである。

しかし、ビジネスの現場では、2年前、3年前とは隔世の感があり「アベノミクス以降、大きく好転」は継続している。確かに、今年に入って株価はやや下降しているかもしれないが、それでも2~3年前に比べると高位安定だ。

まず見誤ってはいけないのは、上記の4-6月期のDGB速報値は、前期比であって、前年比ではない。すなわち、1-3月期は、消費税増税(4月から)前の駆け込み需要があったため、その反動が4-6月期に出た為に落ち込んだだけのことである。ロイターのエコノミスト平均予想は、前期比マイナス7.1%であったので、それよりは、落ち幅が小さい。

自動車は消費税後の落ち込みから回復

自動車市場ではどうかというと、消費税増税前に大きく駆け込み需要があった。その反動で、4月から6月までは、前年割れが続いたが、登録車の方が7月に前年超え(プラス0.6%)に転じている(軽はマイナス7.1%。合計ではマイナス2.5%)。さらに、1-7月期で見ると登録車と軽の合計で前年比プラス8.9%だから、駆け込み需要があったとはいえ好調と見るべきだろう。(※ 8月の登録車市場は前年比5%減となったが、前年より稼働日が1日少なかったことや大雨の日が多かったことなどもあり、必ずしも市場が再び冷え込んだとは言えない)

これは、為替差損がなくなり各社の収益が好転したことで、国内の広告宣伝など販売促進費に資金を回す余裕ができたことなども理由の一つだろう。また、マツダの"SKYACTIV TECHNOLOGY"のように、円高で苦しい時期に地道に続けてきた技術開発が、市場で実を結んでいるということでもあろう。

いずれにせよ、消費税増税による駆け込み需要の反動は、解消されつつあると見てもいいのではないだろうかすなわち、7-9月期のGDP は再び上昇に転じると思う。

海外訪問は47か国

アベノミクスの政策は、金融緩和、財政出動、構造改革で「3本の矢」と言われている。1本目、2本目の矢で応急処置をして、何とか日本経済を危機から救ったわけであり、これからは、「持続的成長」をいかに実現していくかということがアベノミクスの役割である。

そもそも3本目の矢は構造改革だから、すぐに効果が出るというものではない。消費税増税も子供たちに借金を肩代わりさせないため、あるいは将来、財政出動ができなくなったり、金利が高騰したりするような不安定な経済環境とならないための施策であった。また、今回の内閣改造で「地方創生大臣」が新設されるという。これら、全て、日本経済の「持続的成長」に向けての基盤整備として、極めて重要なものである。

そして、さらに必要なことは、少しでも海外に輸出を増やす努力をするということだと思う。それによって、需給ギャップを埋めデフレからの脱却に繋げることができる。

安倍首相の海外訪問は、就任以来1年半で47か国に及ぶという。安倍首相の前の2人の首相を合わせても18か国であったことを考えると飛び抜けて多い。しかも、新興国が多い。7月にはメキシコ、ペルー、ブラジルなど南米を訪問した。こうした新興国では、都市インフラの整備が急がれていることから、これから日本にとって大きなビジネスチャンスがある。最近、首相の海外訪問には、ビジネス界からも同行することが多く、現地では、その場で大きな商談がまとまっていくこともある。これもアベノミクスの一環と考えれば、意味合いは大きい。

「アベノミクス」を再定義 ~「持続的成長」へ~

ここまでのアベノミクスは、金融緩和や超円高の是正などにより、日本経済を窮地から救った。ここから先は、これから10年先、20年先をにらんだ「持続的成長」への足固めをすることだ。「第3の矢」で示された構造改革には「法人税減税」や「コーポレートガバナンス強化」など、グローバル化時代に即した内容が組み込まれている。「ロボット革命」など技術イノベーションを推進するプログラムも日本の将来のために必要なものだ。また、消費税増税や地方創生、外国への売込み強化も「持続的成長」に向けては、極めて重要な意味を持つ。株価が少し低迷し、メディアから冷や水を浴びせられても、焦ってカンフル剤を打ち込むとバブルになりかねない。それはいつか来た道である。

企業も「持続的成長」に向けた基盤をいかに固めるかを考え、地道な努力をしていくことが必要であろう。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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