【いつもNAVI ドライブ インタビュー】カーナビの常識超える高精細3D地図はなぜ実現できたのか

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イラストで分岐も分かりやすい
イラストで分岐も分かりやすい 全 16 枚 拡大写真

いつでも手に入れられる気軽さで、あっという間に広がりを見せたスマホ向けナビアプリ。しかし、Googleに続いてAppleやYahoo!が相次いで無料で使えるアプリを公開。そんな中で有料アプリはどんな将来像を見据えているのか。ゼンリンデータコムで話を聞いた。

◆スマホの強力な処理性能で実現した3D地図

ゼンリンデータコムは今年の春に、スマホ向けナビアプリ『いつもNAVI ドライブ』をリニューアルして公開した。その最大のウリは、建物などのランドマークや地形をグラフィカルに見せる「フル3D表示」を実現したこと。この表現は車載ナビでは既にお馴染みの機能だが、スマホ向けにはこれまでメモリ容量や処理の絡みで展開が見送られてきた経緯があった。しかし、処理能力だけを見ればもはやスマホの処理能力はカーナビを大きく上回っているのは周知の事実となっている。

「スマホの処理能力やメモリ容量が飛躍的に向上した今、他社に先駆けて地図の3D化に対応したナビアプリをリリースすることが最大の目標だった」と話すのはゼンリンデータコムモバイルサービス本部モバイル事業部の海老原直茂氏だ。

実はスマホ向けナビアプリで3D表示は『いつもNAVI ドライブ』が初めてではない。iPhoneやAndroidのOS標準地図アプリがこれを実現している。しかし、これらはよく見ると2D地図にアングルを付けただけの3D表示だったり、建物の立体表示を実現していても表示は単なる“立体物”とするだけ。この表示からリアルさは感じられない。『いつもNAVIドライブ』はここに着目した。

海老原氏は、『いつもNAVIドライブ』をリニューアルするにあたって、「今後は3D化がスマホ用でも当たり前になってくる。地図に強みのあるメーカーでないと生き残れない、そういう“地図屋”らしいナビアプリを作りたかった(海老原氏)」と話す。幸いゼンリンデータコムは、日本最大手の地図会社であるゼンリンの子会社という関係にあり、そこで開発された地図データはフルに活用することができる。つまり、地図会社でなければ提供できないフル3D地図をいち早く展開できたのも、この関係があったからこそ。そしてそれこそが、有料アプリの生き残る道と考えたのだ。

◆なぜ他社に先駆けて投入できたのか

ただ、海老原氏によれば、このフル3D地図を採用するにあたり、社内では「早過ぎる」との声も少なくなかったという。その理由は、iPhoneに例えると現状「4S」を使っているユーザーが相当数存在するわけで、ハード面でフル3D地図は負担が大き過ぎる。故に、少しでも多くのユーザーに使ってもらいたい有料アプリである以上、フル3D地図はもう少し控えて置いた方がイイとの考え方だ。

しかし、「これを気にするあまり手控えていれば、どこかのライバルメーカーが必ず手掛けてくるのは間違いない。ましてや大画面化が著しいスマートフォンが出てくる状況にあるなら、フル3D地図は他社に先駆けて投入すべき(海老原氏)」との意見が大勢となり、リリースにこぎ着けたのだという。

では、『いつでもNAVIドライブ』に採用されたリアル3D地図の実力はどうなのか。目指したのは「従来のスマホではなかったリアルな3D地図(海老原氏)」だ。

◆リアルさと見やすさを両立するための工夫も

たとえば、ゼンリンデータコム本社がある東京港区新橋界隈を表示すると、汐留地区に林立するビル街が忠実に再現された。建物の高さはもちろん、形状やデザインに至るまでそのままに表現されている。これは、ゼンリンのグループ会社である「ジオ技術研究所」によって開発された3次元デジタル地図の技術が活かされた。その周囲のビルも高さデータによって窓枠までも描いて表示されている。

そして、道路との重なりについてもナビとしての実用性を高めるため、「3D地図は車載ナビで先行しているということもあり、道が通っているところだけ透過させることは特許が取得されてしまっている。そこで自分の近くの建物全体を透過させることで、道路と建物の重なる問題をクリアした(海老原氏)」という。ただし、3Dオブジェクトとして表示するテクスチャを貼り込んだ建物はスマホの負荷を考慮して透過の対象外としたという。

驚くのはこの3D表示状態でも、指の動きに合わせて地図がスムーズにスクロールすることだ。アングルは固定のままだが、スケールを詳細にするに従い、視点位置が低くなっていく仕掛けもリアルさをさらに強調する。地図を3D表示のまま回転することもスムーズで、3D地図が可能な車載ナビでもここまでスムーズに動かせるのは数少ない。

地図上に描いている道路は高さデータが含まれ、たとえばループ状になっている道路では少しずつ道路が傾斜して下から上へとつながる様子がはっきりとわかる。助手席の人が走行中にこの部分を見れば、その様子をリアルに感じ取ることができるはず。見ているだけでドライブしている実感が伴ってくるのは間違いない。

◆スケールアウトで地図の起伏も再現

さらに、フル3D表示は地形の起伏までもリアルに表現している。ベースとしているのは国土地理院発行の数値地図5m/10mメッシュで、ある程度のサイズであればその起伏がはっきりと分かるように表現される。たとえば中央高速などを走れば、山間を走行する様子をそのまま画面上で確認できるのだ。こうした表現も「スマホ向けアプリでフル3D表示で先行する(海老原氏)」ために採用した新機能なのだ。

とはいえ、海老原氏は、「残念ながら橋脚までは描き切れていない。そのため、道路が浮いた感じになるのは否めない」と3D地図を描く上での今後の課題も口にした。これらは「時間をかけて取り組んでいかないとさらなるリアル感は出てこない。それは今後の課題として捉えていく」とも話す。そういった部分まで徹底追求することこそ、“地図屋”として成すべき仕事にもつながるのだ。

そしてもう一つの特徴、それが『レーン to レーンガイド』だ。この機能は業界初として登場し、走行すべき車線が一目でわかるガイド機能だ。従来は交差点付近まで近づくと車線ガイドが表示されるが、このガイドでは常に道路の車線情報が表示され、どの車線を走行していればいいのかが分かる。都会の複雑な道路事情を踏まえれば、車線情報が早く分かっているに越したことはない。

海老原氏はこのガイド機能について、「地図無しでもこのガイドだけで走行できるだけの高い精度を持っている」と話す。ただ、地図表示がないと不安視されることもある上、対象が交差点に近づいた一部のエリアに限られることからそれは断念したのだという。また、この機能を使って感じるのは、タテに細長いウィンドウにその情報を表示するため、表示内容が小さく見せ方として決して好ましいとは言えない。この情報だけを表示するようになればあるいは車線情報をより把握しやすくなる可能性はあるが、現状では助手席の人が使ってやっと内容が把握できるレベルだ。まして、カーブが絡むとその情報はさらに把握しにくくなる。「あくまでトライアル的な採用となっており、今後さらなる改良を図っていく(海老原氏)」ということで今後のバージョンアップに期待というところだ。

◆通信型の利点を活かし、バージョンアップで機能改善

カーナビとして機能するには最新情報も欠かせない。『いつもNAVIドライブ』は、この点についても車載ナビに劣らぬ充実ぶりを発揮する。その一つが周辺情報として役立つ「ドライブコンテンツ」だ。画面をタッチして表示されるメニュー(ダッシュボード)にある専用ボタンを押すとファストフードやレストラン、コンビニ、駐車場、ガソリンスタンドの情報を表示できるようになる。駐車場は満空を、ガソリンスタンドは価格情報をアイコンとして表示するのも大きなポイントだ。

この情報は、地図上に貼り付けてあるロゴマークとは別に、吹き出し風に表示されるもの。駐車場の満空情報やガソリンの価格情報はこの吹き出しとして表示される。ただし、この情報が表示されるのは自車位置を中心に半径2~3kmの範囲にとどまり、地図をスクロールさせてもその周辺で情報を表示させることはできない。この理由について海老原氏は「現状ではサーバーの処理能力を考慮して範囲を狭めているため」なのだという。これだと場所やルート上から必要な施設を探すことはできず、周辺検索として使うには役不足だ。ゼンリンデータコムもその点は認識しており、今後早い時期に改善を行う予定でいる(海老原氏)という。

きわめてリアルな3D地図をはじめ、ルートガイド方法、周辺施設検索など、豊富な情報をもとにして誕生した『いつもNAVIドライブ』は、“地図屋”として持てる情報をふんだんに活用した結果生み出されたもの。まだまだ改善すべき点は少なくないという印象は受けたが、取材を続けていると従来ののナビアプリから一歩踏み出した新境地を作り出そうとするその意気込みは伝わってきた。とりあえず新機能は提案できた。あとはユーザーにとってその能力をどう使いやすく改善していくかにかかっている。有料アプリとして生き残りをかけ、年末に向けた動きに注目していきたい。

《会田肇》

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