【マツダ ロードスター新型発表】「魂動の表現の幅を広げる」…前田デザイン本部長インタビュー

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マツダ 前田育男 デザイン本部長
マツダ 前田育男 デザイン本部長 全 45 枚 拡大写真

9月4日、千葉・舞浜で新型『ロードスター』が初公開された。4代目となるライトウェイトスポーツのデザインはどのようにして生まれたのか。デビューイベントの会場で、デザイン本部長 前田育男氏に話を聞いた。

----:サイドビューを見ると、フロントフェンダーのピークから下がっていく勢いがあり、リヤフェンダーにも後ろ下がりの勢いがある。そこにちょっとネオ・クラシックな印象を覚えました。

前田育男氏(以下敬称略):そうかもしれません。ただ、例えば『アテンザ』はキャラクターラインを入れて勢いを表現していますが、今回はキャラクターラインを使わず、ボリュームの変化と光の変化だけでカタチを作っています。

だから、光が当たっていない状態ではシンプルなカタマリに見えて、それほどダイナミックな動きは感じない。ところが光を当てると、ハイライトがきれいにスーッと流れるんです。

----:今日はクレイモデルも展示されていましたが、それとステージ上の実車とでは見え方がずいぶん違う。クレイモデルはカタマリ感が強くて、そのせいか実車よりボディが小さく感じました。

前田:クレイモデルは表面がマットで、光をあまり反射しないですからね。クレイモデルにはそれほど強い動きは求めない。ソリッドでシンプルなカタマリでよい。だけど(クレイにシルバーのフィルムを貼って)光を当てた瞬間に色っぽく、艶っぽく見えるようにしよう、と。

----:3月のジュネーブモーターショーで前田さんにお会いしたとき、「次のロードスターでは“魂動”の変化球を投げる」と伺いました。あれ以来、どんな変化球なのかを考えていました。「パッと見て“魂動”だね、でも違うね」なのか、「パッと見て違う。でもよく見ると“魂動”だね」なのか…どちらだろう、とね。

前田 どちらに見えました?

----:後者です。第一印象は「今までの“魂動”と違う」。でも、見ているうちに「魂動」のエッセンスが滲み出ているというか…。

前田:意図はそれです。アテンザ、『アクセラ』、新型『デミオ』と「魂動のデザイン」をやってきたけれど、それとはまったく違う印象を与えたい。勢いのあるキャラクターラインを入れることが「魂動」の表現だと思われているようだけど…。

----:新型ロードスターの予想イラストがいろいろ出回りましたが、ほとんどはアテンザをお手本にキャラクターラインを入れていましたね。

前田:そうなんです。でも、「魂動」のデザインはそんな底の浅いものではない。「生命感のある動きを表現する」ということだけが「魂動」の定義で、具体的な手法は限定していないんです。その表現の幅を広げるトライを、今回のロードスターでやっています。

----:マツダでは『CX-5』以降を「第6世代商品群」と呼んでいますね。だけど、ロードスターはモデルサイクルが長いから、商品群の世代ごとに新型が出るわけではない。

前田:そうですね。

----:第6世代を「魂動」の時代だとすると、第7世代の商品が登場したときにロードスターはどうなるのか? それを考えると、今回のデザインは実はかなり先まで見越して開発したのではないか…。

前田:非常に答えにくい核心を突いてきますね(笑)。いや、その通りです。これだけ表現の幅を広げたのは、次の時代につながるようにというのも考えてのことです。

----:「魂動」を進化させるための突破口を、これで開いた?

前田:そうですね。もう一つか二つ開いておきたいと思っていますが、いずれにせよ「魂動」の表現も進化させないと今後のデザインが苦しくなってしまう。今回のロードスターはそのためのひとつの布石という位置づけで、そういう意味でもチャレンジだったと思っています。

----:今日のデビューイベントで、チャレンジが成功した手応えは?

前田:そこは非常に重要なんですけどね(笑)。集まってくれたファンの人たちは、皆さん、ご自分のロードスターを愛して下さっている。そこに新参者が現れたら、「やっぱり私のロードスターが好き」と思うのが普通じゃないですか。でも、会場で司会者にコメントを求められた方々が「買い換えたい」とか「一目惚れです」と言ってくれたので、これはいけるかな、と。

----:-確かにファンの皆さんは好意的でしたね。ただ、過去3代といちばん違うのは顔付き、とくに眼付き。従来は優しい表情の顔だったのに対して、新型の眼付きはかなり強いでしょう? これは冒険だったと思います。

前田:実は私もちょっと不安でした。でも、これが私にできる最も柔和な表情なんですよ(笑)。グリルの上線に少し丸みを付けるなど、少しずつ柔和に見せてはいます。あれを直線にしたら、もっとワイルドになりますから…。

ボディがコンパクトになっても、強く見せたい。ロードスターが雌から雄になったような違いを表現したい。第6世代商品群で魂動のデザインをやるなかで、「男性的にしたい。シャープでハンサムにしたい」とずっと考えてきました。ファンの人たちの好みとは少し違うかもしれないけれど、これ以上の柔和な顔は私の辞書にないので…(笑)。

----:インテリアでは、ドアトリムの肩口にボディ色を入れたのが特徴ですね。ボディ色を室内に取り込むのは、オープンカーならではのコンセプトだと思います。

前田:オープンカーでは中と外の一体感が大事なので、あのアイデアは開発の初期段階からこだわってきました。

----:ボディ色に塗装した樹脂パネルを嵌め込んでいるんですよね。

前田:それを全色用意しなくてはいけないので、実際に生産化するにはそれなりに苦労しましたが、これが今回のインテリアの鍵ですからね。

それと、運転してもらえばわかると思いますが、フロントフェンダーがいい感じに見えるんです。運転席からフロントフェンダーの峰が見えるクルマは他にもあるけれど、見える位置が肝心。「あぁ、スポーツカーを運転しているんだ」という気持ちにさせる重要なところだと思っています。

----:サイドビューで見ると、フロントフェンダーのピークは前輪中心の真上ではない。少し後ろにズレていますね。運転視野のなかで、そこにピークがあるのがベストだった?

前田:NCを改造してフェンダーを盛り上げて、運転してみて…ということを、かなりトライしました。それもやりつつ、プロポーションのなかでどこにピークがあると、ボディの重さがいちばんタイヤにかかって見えるのか? サイドビューだけでなく、いろいろな角度で検証しました。ともかくタイヤにすべての荷重が乗っかるというのが、今回のデザインの最大のポイントだったんです。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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