【土井正己のMove the World】GMは何処に行くのか…新CEOの肩にかかる「本当の再建」

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GMのメアリー・バーラCEO
GMのメアリー・バーラCEO 全 8 枚 拡大写真

GMが2009年6月1日に連邦倒産法11章(チャプター・イレブン)を申請してから5年4か月を経た。その間、米政府からの資本注入を受け、“ガバメント・モータース”と呼ばれた時期もある。

米景気の回復と共にGMの収益も徐々に回復し、株価も上昇した。それを機に、米政府は昨年12月に政府保有の株式を全て売却した。そして、新たなCEOが誕生して、GM は再生されたかに見えた。しかし、「デトロイト初の女性CEO」と騒がれたメアリー・バーラCEOに用意された晴れの舞台は、本年1月のデトロイトモーターショーだけであった。

メアリー・バーラCEO、議会での喚問4回

GMの今年のニュースを検索して見るとずらっとリコールニュースが並ぶ。GMは、今年に入って、既に約3000万台をリコールしている。また、「点火装置の欠陥を知りながら、10年以上放置していた」ということから、メアリー・バーラCEOは、4回にわたって米議会の証人喚問を受けている。

この欠陥放置により、21人の死亡者、500人以上の負傷者が出ているという。こうした犠牲者への補償金や膨大なリコール費用などから、GMの収益は、再び大変厳しい状況に陥っている。今年の第1四半期、第2四半期とも純利益で、前年比80%以上減益という状況だ。販売についても、マーケットシェアで見ると、8月では17.2%と前年の18.4%からかなり後退している。

「GMの倒産理由」回顧

こうした状況の中で、GMの幹部は、「トラック・SUV系の販売では、前年比18%増と好調だ。収益的には大変好ましい状況」と述べている。これを本気で言っているのであれば、先は危うい。

GMが倒産に陥った理由を考えてみたい。一つは、UAW(全米自動車労働組合)の力が強く、米国平均に比べて人件費が異常に高いことだ。特に退職後の医療費や年金まで企業が高額の負担する構造になっていた。倒産を経て、この負担はかなり改善された。二つ目に、こうした高コスト体制を支えるために、収益性の高いSUVや大型車に商品の主軸を置いていた。ガソリン価格が安い時は良いが、いったんガソリン価格が高騰しだすと、身動きが取れなくなった。三つ目に、生産計画に下方硬直性があることだ。すなわち、景気の減退で自動車市場に陰りが出ても造り続け、余ったクルマは、値引きをして販売するというやり方だ。これで、中古車市場価格が値崩れを起こした。

現在は、ガソリン価格が安く、大型が売れるマーケットだから良いが、ガソリン価格はまた、どうなるか分からない。「シェールオイルがある」というような話もあるが、短期的には、中東での紛争やウクライナの混乱から、オイルが高騰することは十分にあり得る。

GM倒産の学びは、「マーケットの変動にフレキシブルに対応できる経営体質の構築」であったはずである。

「本当の再建」はメアリー・バーラCEOの肩に

これまでのGMのトップは、財務系のキャリアが多かった。現場もモノづくりもしらない人たちだったと思える。この人たちが、「マイナス均衡のリストラ」をしたわけだから、GMのバランスシートは良くなって当り前だ。大変なのは、その後である。メアリー・バーラCEOに課された役割は、「自動車会社としての本当の意味での再建」だ。

彼女は、CEOになる直前は、商品企画担当の副社長を務めている。また、工場勤務経験もあることから現場主義者である。彼女は、先月、カスタマーケアー・センターに300人のGM幹部を集めて、次のように述べたという。「私は、企業文化とか、そういう言葉は好まない。“確かな前進”と“勝利”は、異なることを理解して欲しい。ゴールは、GMが世界で最も価値のある自動車会社になることである。それは、お客様満足度、品質、収益の面でということだ。これが、分からない人は、このホールから出ていって欲しい」

GMは、先ごろ、「キャデラック」ブランドの本部をデトロイトから、お客様により近いニューヨークに移すと発表した。そして、これからは、メアリー・バーラCEOが副社長時代にゴーサインを出した商品が次々に市場に出てくる。特に来年後半に出てくる「シボレー・クルーズ」や「シボレー・マリブ」など小型・中型乗用車が、GMの変化を確認するうえで楽しみである。

リーマンショック危機のさ中に登場した豊田章男社長が、トヨタの全社員に就任以来言い続けている言葉がある。「いいクルマをつくろうよ」。今、GMにも同じ風が吹き始めているのではないだろうか。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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