【日産 スカイライン 試乗】「一歩先の未来」が体感できる走り…高山正寛

試乗記 国産車
日産 スカイライン
日産 スカイライン 全 13 枚 拡大写真

日産『スカイライン』、言わずもがな日本のツーリングセダンマーケットを開拓、そして牽引してきた“名車”である。しかしマーケットというものは気まぐれなもの、ピーク時は月販1万台レベルと文字通り主役であったこのクルマも新型であるV37型では月販目標台数200台と「かつての栄光や今いずこ」とファンにとっては忸怩(じくじ)たる思いもあるのではないだろうか。

ただひとつ言わせてもらえば、スカイライン自体に原因があるわけではない。少し古くはなるが、ミニバン人気や最近では台頭著しい軽自動車などにより、このマーケット自体が大きくシュリンクしてしまったからだ。

一方で減少するL(ラージ)セダン市場で気を吐いているのが輸入車である。こちらは年間約2万台で安定推移、アナログ的な分析だが勢いだけならこちらのほうが圧倒的に有利である。

そこでV37型が取った戦略がいわゆる「プレミアム(セダン)カテゴリー」へのポジションシフトである。前述したように輸入車のこのクラスは好調だ。メルセデスベンツ『Cクラス』、BMW『3シリーズ』、また国産で言えばレクサス『IS』など蒼々たるメンバーが揃っている。

クルマというものは一部分だけが突出して優れていても中々受け入れられるものではない。V37型ではハードウエア、デザイン、そして今や必至と言える安全装備をトータルで磨きこむことでライバルと正面から勝負できるクルマに仕上げてきたわけである。

◆2リットルターボはライオン、ハイブリッドはチーターのようなフィーリング

前説が長くなったが、このクルマの魅力は2種類の大きく異るパワートレーンを搭載していることにある。ハイブリッドと次世代ダウンサイジングターボ。どちらも甲乙つけがたいが、注目は2014年5月に発表されたターボモデルである。

スペック等は今更どこでも見られるのでここではあえて割愛するが、ダイムラー製の直接4気筒直噴2.0リットル直噴ターボエンジン「274930型」は最大トルクの発生ポイントや成層燃焼(リーンバーン)の非搭載など本家と比較しても実は違いがある。しかし燃費性能を若干犠牲にしてもエンジンのピックアップやミッションのシフトスピードを向上させるなどしてスカイラインらしいキレの良い走りを実現したことは「日産の強い意志と主張」を感じ取ることができるのだ。

パワステのフィーリングも後述するハイブリッドとは方式も異なる電動油圧式を採用しているが、適度な重みやワインディングなどで連続して操舵した際の正確なトレース性能、さらに言えば路面の状況の掴みやすさなど、これまでのスカイラインユーザーはもちろん、輸入車に載っているユーザーにも満足できる仕上がりである。

一方のハイブリッドは世界最速を謳うだけのことはある。元々『フーガハイブリッド』をベースに改良を重ねているが、加速フィーリングはターボ車とはまったく別次元である。最大トルクを瞬時に発生させるモーターアシストやアクティブノイズ&サウンドコントロールなどの電子デバイスにより、出だしはあくまでもスムーズ、しかしトップスピードへの伸びはターボを凌ぐ加速力を持つ。動物に例えるなら、ターボがそのトルクの力太さを前面に押し出す「ライオン」なのに対し、ハイブリッドは瞬時にトップスピードに乗る「チーター」というイメージだろうか。

またリチウムイオン電池を採用することで電気の出し入れがとにかく早い。結果として早く走れることはもちろん、回生力をうまく活用することでカタログに近い低燃費を出すことができる点も魅力のひとつと言える。

◆他車をリードするプレミアムにふさわしい安全装備

さて、ハイブリッドには色々と話題に上るDAS「ダイレクト・アダプティブ・ステアリング」が搭載されている。その動きが人工的だ、クイックすぎる、などの声もあるが、個人的にはこの技術の将来性を高く買っている。

確かにハイブリッドとターボの味付けは同じスカイラインでもかなり異なる。言い換えれば選択の幅はかなり広いことになるが、このDASは高速走行時の安定性や路面からの外乱に対しても安心してステアリングを握っていられるなど利点は多い。何よりも電子制御化されているのでシステムのアップデートにより、さらに高い走りの次元に到達できる可能性も秘めている。

また原稿執筆段階ではまだ登場していないが、このDASはターボ車にもメーカーオプションで設定される予定だ。切れの良い加速を持つターボ車に先進テクノロジーがプラスされることでどのような走りが体験できるのか。こちらも楽しみにしている。

先進安全技術に関しては現状でもかなり高得点をあげることができる。いずれも世界初となるPFCW(プレディクティブ・フォワード・コリジョン・ワーニング)は従来まで行っていた前方車両への検知を見えずらい2台前の車両までモニタリングするなど安全レベルを大きく向上させた点、またALC(アクティブレーンコントロール)もDASとの連携が条件となるが、来るべき自動運転時代に向けての第一歩。何よりも高速走行時の安心感や疲労軽減に役立つはずである。

最後にホスピタリティの部分についても補足しておく。最大で5つの中から走りのテイストを変えることができる「ドライブモード」はなかなか面白い。この手の機能は今までも存在したが、PERSONALモードを使えば、ハイブリッドは96パターン、次世代ターボは12パターンから自分の好みに合わせた詳細な設定ができる。またこれらを付属のインテリジェントキーに記憶することでドライバーが変わっても即座にそのモードや上位グレードであればシートポジションなども自動調整してくれる点はまさに日本車らしいきめ細かさ。もはやブームは去ったかもしれないが「お・も・て・な・し」感は抜群だ。

ナビゲーションに関しても大画面のツインディスプレイなど新しい試みが採用されている。従来までのナビゲーションは機能を切り替えるために地図画面が隠れてしまっていたが、独立した操作系を持つことで下の7インチディスプレイで操作している間も地図画面をそのまま見ることができる点は発想自体が面白い。一方でタッチパネルやエアコンのハードキーなどスイッチ類が分散している感もあり、UI(ユーザーインターフェース)の部分はさらに改良、進化に期待したい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

高山正寛│ ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ会員
1959年生まれ。自動車専門誌で20年以上にわたり新車記事&カーAVを担当しフリーランスへ。途中5年間エンターテインメント業界でゲーム関連のビジネスにも関わる。カーナビゲーションを含めたITSや先進技術のあらゆる事象を網羅。ITS EVANGELIST(カーナビ伝道師)として自ら年に数台の最新モデルを購入し布教(普及)活動を続ける。またカーナビのほか、カーオーディオから携帯電話/PC/家電まで“デジタルガジェット”に精通、そして自動車評論家としての顔も持つ。

《高山 正寛》

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