宇都宮LRT、反対の理由は…反対派市民団体代表に聞く

鉄道 行政
市民団体「宇都宮市のLRTに反対し公共交通を考える会」代表の上田憲一さん
市民団体「宇都宮市のLRTに反対し公共交通を考える会」代表の上田憲一さん 全 2 枚 拡大写真

「次世代型路面電車」LRT(軽量軌道交通)の導入に向けた計画が進む宇都宮市。一方で、市民からは計画に反対する声もある。市民団体「宇都宮市のLRTに反対し公共交通を考える会」代表の上田憲一さんに、反対の理由を聞いた。

--LRT計画に反対する理由として、会では「大通りを塞いで自動車交通の邪魔になる」「LRT導入で路線バスからの乗り換えを強いられ、不便になる」「400億円もの巨費を投じて運行しても採算が合うはずがない」などを挙げていますが、最も主張したいのはどの部分ですか。

上田代表(以下敬称略):反対理由にも「『こともあろうに』狭いながらも宇都宮市で最も重要な幹線道路に~」との言葉を入れていますが、大通りにLRTを通すというところが一番の問題だと思っています。こともあろうに、車のために作った通りに入れるというのが問題です。道路交通の障害になるという点です。そして、車線の減った道路からバスが締め出されれば、今まで乗り換えなしで行けた場所でもLRTに乗り換えざるを得ない。そこで「乗り換えの不便」が発生します。

残念ながら車がないと生活できない地域も多いですから、渋滞がなく円滑に走れれば車が一番便利なのは事実です。市はLRTのために鬼怒川に新しく橋をかけるとしていますが、これを道路橋にすることを提言しています。橋が増えれば渋滞が解消され(編注:宇都宮市東部の道路渋滞は主に鬼怒川にかかる橋の付近が激しいといわれている)、路線バスや通勤用の急行バスも運行できます。車だけでなく自転車も通行でき、いろいろなニーズに対応できます。車社会からの完全な脱却が難しい地域で、道路機能を損なうわけにはいかないと思います。

--道路交通への影響が一番の問題とのことですが、公共交通の整備そのものについてはどう思いますか。

上田:LRT計画の基になった、渋滞対策としての新たな大量輸送機関導入の検討が始まったのは平成の初期でしたが、最近は道路の整備が進んで新しい橋もでき、信号の管理もよくなりました。何年も前から渋滞は大きく軽減されているんです。時代の変化で道路交通環境が変わったのに、基本の段階に戻れずに当時の計画をもとにしたままプロジェクトが進んでいる、根底のところに戻れずにいるのではないかと感じています。

車社会からの脱却は困難だと思いますが、脱却の方向には向かって行った方がいい。そこで、公共交通の充実は必要だと思います。宇都宮はバスによって発達した街です。バスという乗り物を再認識したほうがいい。(南北に伸びる)JR線で遮断されている街を東西を結ぶ基幹公共交通という考えについては賛成です。

--LRTで中心市街地が衰退すると指摘されていますね。

上田:道路にLRTが通れば渋滞が起きますし、バスの乗り換えが必要になれば、乗り換えてまで中心市街地には行かなくなるので衰退するでしょう。LRTの沿線には観光資源が特にないので、開業しても新たな来訪者は期待できない。強いて言えば観光では大谷地区(編注:大谷石の産地で知られる地域)がありますが、中心から遠くLRTでは結べません。

大谷地区の観光を含め、市をどうやって発展させ豊かにするかといったビジョンや方向性が、LRT計画に注力することで引きずられてしまっています。本来取り組むべきことをLRTに引きずられて見失ってはならないと思います。

--会では、基幹となる公共交通は路線バスがふさわしいとしていますが、どのようなシステムを考えているのでしょうか。

上田:宇都宮は平野に広がる「平野都市」です。四方八方から駅と中心市街地に交通が集まってくるのはやむを得ないですが、今は各地域から来たバスが全て直接中心部に入ってきてしまう。市の郊外にトランジットセンターをたくさん設けて、地域を循環バスなどが周り、中心部へ向かう路線はそこで集約する仕組みがいいと思います。

--BRT(バス高速輸送システム)のようなイメージでしょうか。

上田:BRTは大量輸送機関で、限られたルートを走らせるでしょう。LRTと同じで、大規模なものに全部まとめる形だと乗り換えが必ず必要になります。BRTというと連接バスを使うケースが多いでしょうが、狭い道路にそういう車を走らせるのも無理でしょう。

それより、今のバスで乗りきれるくらいの分の利用者をもっと細かくまとめる中規模なシステムが平野に広がる都市には理想的ではないかと思います。乗り換えは必要ですが、大規模ではなく細かい単位にわければ、乗り換えをしなければならない人の絶対数は減らせます。

循環系・支線系と中心に行く路線を集めて乗り換えできるようにし、料金はICカードで全て統一するとか、今だからこそ発想できるようなそういった日本一のバスシステムができないかと思います。

--宇都宮に導入するかどうかとは別に、LRTという乗り物自体についてはどう思いますか。

上田:都市的な感じもありますし、LRTがふさわしい街、たとえばかつて路面電車が走っていた街での復活や、既存の路面電車を置き換えるといったことなら魅力はありますね。ただ、道路に新たに入れるというのはなかなか難しいのではないかと思います。

現在路面電車が走っている街は上手に両立しているのだと思いますが、道路が狭かったりホームが狭かったりすると不安な部分はあります。残念ながら、地域には不便をきたしている部分もあるのかなとは思います。

--今後はどういった活動をされていく予定ですか。

上田:宇都宮の交通のあり方に関わる重要な事案ですので、地域にふさわしい道路交通や公共交通を求めて活動していきます。今後は議会対策や、来年度の選挙に向けて市民のLRTに対する考えを把握するための署名活動などに取り組めればと思っています。

(取材は9月末)

【宇都宮市のLRT反対運動の経過】
2013年7月に発足した「民意なきLRT導入を阻止する会」が、LRT計画への賛否を問う住民投票実施を求めて署名活動を実施したが、住民投票は2014年1月の市議会臨時会で否決された。2014年7月には、LRT導入に反対し計画の根本的な見直しを訴える新たな市民団体「宇都宮市のLRTに反対し公共交通を考える会」が発足した。上田憲一さんは同会の代表を務めている。

《小佐野カゲトシ@RailPlanet》

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