【インタビュー】マツダのクルマ造りを表現した内観デザイン…目黒碑文谷店リニューアル

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関東マツダ 目黒碑文谷店(東京都目黒区)
関東マツダ 目黒碑文谷店(東京都目黒区) 全 20 枚 拡大写真

1月3日にリニューアル後の営業を開始する関東マツダの目黒碑文谷店。その店舗デザインは、マツダの前田育男デザイン本部長と建築家でサポーズデザインオフィスを率いる谷尻誠氏のコラボレーションから生まれた。サポーズデザインオフィスの吉田愛氏にも加わってもらい、インテリアを中心に話を聞いた。

目黒碑文谷店は限られた敷地を有効活用するため、2階をショールームとした。その2階の天井には、黒く塗装された構造材の梁が並んでいる。

吉田「建築だからできる提案として、マツダのクルマ造りのこだわりを構造材で表現したいと考えました」

谷尻「クルマは必要な機能がそのままデザインになっているものだから、それを見せるショールームも機能をカタチにしよう、と」

前田「この梁についても、実は侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしたんです。谷尻さんは構造的に最適な間隔に配置した梁を提案してくるのですが、我々としては間隔を徐々に変化させたほうがスムーズに見える…とかね」

谷尻「梁は扇型(放射状)に並べています。ショールームはS字型にカーブした空間なので、それに合わせていくつかの扇をつなげて梁を構成している。扇の支点をどこ置いて、どんな間隔で梁を並べていくか? 議論がフロアの平面図の外まで広がっていくのが面白かった」

梁の扇の支点は実は建物の外に仮想的に置かれており、おのずと意識が窓の外に導かれ、窓際に近寄りたくなる。そうすると、ショールームはS字型だから、ガラス越しに自分がいる空間を外から見るというちょっと不思議な体験に出会う。

谷尻「室内にいながら外を感じるというのは、クルマに乗っている感覚に似ていると思うんです」

言われてみれば、内から外へ意識が広がるのはなるほどクルマに似ている。ここで谷尻氏がテーブルの上のグラスを指差して、こう語り始めた。

谷尻「例えばこのグラスがクルマあるいはショールームだとしたら、グラスだけを考えるのではなく、それが置かれたコースターはどうあるべきか? テーブルはどうあるべきか? グラスの周りまでもグラスの一部だと考えて設計することが大事だと思っています」

谷尻流の柔軟発想のひとつだ。テーブルのグラスには冷たいお茶が入っていたのだが…。

谷尻「これを冷たいと感じるのは、常温を知っているから。もし常温という概念がなかったら、冷たいものでも温かいものでもなくなる。そこがいちばん面白いところで、このショールームでも空間の在り方の既成概念を取り払いたい。ここにクルマが置かれた瞬間に、クルマ以外の空間が(建物の)外のように感じられる。外のように感じる空間に家具があるのは、普通に考えるとおかしいのですが、それがここでは成立している。L字型の変形の敷地だからこその魅力だと思っています」

L字型の敷地を活かしたS字にカーブする空間と放射状の梁が、ショールームに動きや広がりを漂わせる。

前田「実際の面積より広く感じると思います。空間全体を見通せないことが功を奏している」

吉田「全体を一望できてしまうと、想像力が働かないので…」

谷尻「見えないところがあるから、見たいという能動性が芽生えるんです」

吉田「アパレルや雑貨の店舗も同じで、見通しが良すぎるお店はお客さんが入らない。そういうことも考えながら、今回の設計を進めました」

先にリニューアルを終えた9店の「新世代店舗」とは、インテリアの色使いもまったく異なっている。

前田「これまでは壁が黒く、床は白と黒とウッド。異素材のコントラストで見せるデザインだったけれど、今回はもう少し落ち着いた印象を狙いました」

魂動デザインにおいて内装色の基本は黒だ。黒を極めるからこそ、例えば白いシートが際立って見える、というカラー戦略を進めている。この目黒碑文谷店も床に黒を使っているのだが、そこにはやはり建築家のこだわりがあった。

谷尻「黒というと無機質なイメージになりがちですが、そうではなく、柔らかさや素材感のある黒にしたい。マツダの“魂動デザイン”はとても都会的な精悍ですが、それでいて人の手で丁寧に作られた温もりがある。そこを読み取って、素材感の表現に活かしました」

ショールームのグレーの壁面には、刷毛の目を残したような柔らかなテクスチャーが施されている。これも手の温もりだ。人の意識を動かし、広げる空間と、そこに漂う温もり感。クルマの魅力とは、つまりそういうものだ。乗り手の心をダイナミックに拡大するために、マツダは細部まで人の手で造り込む。「Be a driver」を謳うマツダに相応しいショールームが、ここに誕生した。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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