全国制覇…星稜サッカーを支えた、選手層・コーチ陣の「厚さ」と「熱さ」

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埼玉スタジアム 参考画像(c)Getty Images
埼玉スタジアム 参考画像(c)Getty Images 全 3 枚 拡大写真

一世紀近い歴史を誇る全国高校サッカー選手権の決勝戦で、初めて見られる光景といっていい。試合終了を告げる笛が鳴り響いた直後に、勝者がピッチからいなくなってしまった。

延長戦にもつれ込んだ前橋育英(群馬県)との熱戦を制し、悲願の日本一を勝ち取った星稜(石川県)の選手たちが真っ先に向かった先はバックスタンド前。声をからして応援を続けた部員たち、特にベンチに入れなかった3年生と至福の喜びを分かち合うためだった。

審判団にうながされて試合終了の挨拶を終え、お立ち台でヒーローインタビューを受けたキャプテンのDF鈴木大誠(3年)が、号泣しながら感謝の思いを伝える。

「大会期間中はずっと、自分のためにサッカーをやるんじゃないと言い聞かせてきた…最高の舞台で最高の恩返しができた」

■総勢121名の部員で頂点を目指す

16年連続で全国選手権に出場している星稜には、県内だけでなく県外からも数多くの中学生が入学を志望する。今年の部員は121人で、そのうち3年生は40人を占める。ベンチ入りメンバーは20人だから、半数以上がスタンドでの応援に回る。

県外の中学生が越境入学を望む理由は明快だ。全国を狙う上で最短距離にいると見えるからだ。

決勝戦でも活躍したMF藤島樹騎也、FW森山泰希、MF杉原啓太の3年生トリオは名古屋グランパスのジュニアユース出身。残念ながらユースへの昇格はかなわなかったが、代わりに「3人で日本一になろう」と誓いを立てた。藤島が3年前を振り返る。

「全国優勝するには、まずは全国大会に出なければならない。星稜は毎年のように出場していたので、オレたちの力で星稜の歴史を変えようと思ったんです」

■中学で主役級でも試合に出られない選手が多数

10年前に本田圭佑(ACミラン)を擁したチームが石川県勢初の準決勝進出を果たした効果もあり、星稜にはよりレベルの高い中学生が集うようになった。必然的に競争は激しくなる。準優勝した昨年の大会を杉原とともにスタンドで応援した藤島は、正直にこう打ち明ける。

「レベルはそれほど高くないと思っていたんですけど」

ほぼ全員が中学時代に「主役」を張っていただけに、試合に出られなければ誰もが不平不満を抱く。積もり重なれば、チームそのものが瓦解しかねない。監督代行として今大会の指揮を執った木原力斗コーチも、こんな言葉を漏らしたことがある。

「いままで(試合に出る選手の)サポートをした経験のない子もいるわけですからね」

■河崎監督筆頭に9人のコーチ、周辺サポートでチームを盛り上げる

大所帯を同じ方向へ導くために。1985年からチームを指導し、情熱の限りを注いできた55歳の河崎護監督は、ピッチ内だけでなく外でも選手全員に「厳しさ」を徹底してきた。藤島が振り返る。

「サッカーだけでなく、私生活でもずっと厳しく言われてきた。たとえば試合のときには、(スタジアムで会う)すべての関係者に挨拶しろとか。もちろん今大会も実践しています」

練習中は常に声を出さなければならない。ただの大声だけでなく、周囲へ向けて自分を出すことを求められた。簡単なことのように見えて実は難しいと、練習をサポートしてきた木原コーチは言う。

「声そのものを出せない選手も実は多いんです。ただ、監督は選手が苦手としていることにどんどんチャレンジさせます。困難に立ち向かっていく姿勢こそが大事なんです」

9人を数えるコーチだけでなく、学校の教諭や地域の人たちと連携しながら、寮に入る選手を含めた全員をサポートしてきた。吉備国際大学卒業後に河崎監督に師事した27歳の木原コーチも、1年目は寮の管理人を務めていた。

■勝利至上主義では成し得ない全国制覇

富山第一(富山県)に逆転負けを喫した昨年の決勝戦後に、敵将からチーム作りの是非を問われた。県内出身者が極端に少なく、一方でJクラブのジュニアユースから入った選手が多い点を批判された河崎監督は、「(県外出身者を)拒むことが正しいのか」とこう反論している。

「どちらがいいとは言えないし、ただ優勝したいがためにやっている気持ちもさらさらない。県外の子たちは変わろうと思ってどんどん成長していくし、石川の子たちも彼らと触れ合うことでいいところを吸収していく。かわいいですよ」

高校サッカーの指導者は同時に、教育者でもある。大会前に巻き込まれた交通事故で手術・入院を余儀なくされ、悲願の日本一を達成した埼玉スタジアムで采配をふるえなかった河崎監督だが、貫いてきた信念の正しさは木原コーチのこの言葉が証明している。

「試合に出る子だけでなく、チームのために汗をかいてくれる子、スタンドで応援してくれる子と3年生がそれぞれの役割で責任を果たしてくれた。この大会に向けて、私は何も新しいことをしていない。監督が言ってきたことを継続してやってきただけです」

勝者がいなくなった試合終了直後のピッチは、星稜の一体感の象徴でもあった。選手として、そして人間としても成長させてくれた感謝の思いを込めて、3年生たちは3月の卒業式で河崎監督を胴上げするプランを描いている。

【THE REAL】星稜を悲願の高校日本一へ押し上げた一体感

《藤江直人@CycleStyle》

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