【土井正己のMove the World】 やはりアメリカは自動車大国…「元気なクルマ」ならんだデトロイト

自動車 ビジネス 海外マーケット
フォード プレスカンファレンス(デトロイトモーターショー15)
フォード プレスカンファレンス(デトロイトモーターショー15) 全 8 枚 拡大写真

2年ぶりにデトロイト・モーターショーを訪れた。今回はニューヨーク経由だったが、デトロイトでの雪のため、飛行機が大幅に遅れた。この時期のデトロイトは極寒だ。以前、「冬は寒くて誰も来ないから、賑やかしのためにモーターショーを始めた」と聞いたことがある。

デトロイトは、五大湖の2つの湖を結ぶデトロイト川に面しており、かつて、この川べりは夏になるとゾート地さながらの賑わいだったという。それが、リーマンショックの前後から寂れだした。米国の自動車産業は、GMやクライスラーの破たん、工場の大量レイオフなど、最悪の状態となっていた。市の財政も2013年に破産申請が行われ、2年前に訪れた時には、街は荒廃しきっていた。

それが、今年は少し様子が異なっている。泊まったホテルは、中レベルの古いところだったが、チェックインするなりマスターは「来年には立派なホテルに建て替えるから」と自慢げにいう。タクシーのドライバーに「景気はどうか」と聞くと、「ずいぶん良くなった。自動車もいいし、ITなどの産業もいい。デトロイトはやっぱり製造業にむいている」という。

◆ 元気なアメ車、オフロードモデルの共演

アメリカは、自動車が元気でないとアメリカではないということだ。モーターショーの展示にも、その「元気なアメリカ」がここぞとばかりに幅を利かせていた。スポーツカーと大型SUVである。我々がイメージする「アメ車」が戻ってきた。

デトロイトに長年住む、河島 哲則氏(日本自動車部品工業会 北米事務所長)も「(今年のデトロイト・モーターショーでは)販売好調な米国市場を背景に大手自動車メーカーは一斉にスポーツカーと大型トラックをずらっと並べて競っている。ガソリン価格が1ガロンあたり2ドル以下になったからという理由ではない。このショーに展示するクルマの多くは何年も前から企画、開発されてきたのだから。それはデトロイトが本当に元気になったという証」と顔をほころばせながら語ってくれた。

今回の出展の中で、最も「アメ車」を感じたのはオフロードモデルの共演だ。フォード『F-150 ラプター』、ラム『1500レベル』、トヨタ『タコマ』のオフロードモデル、日産『タイタン』のオフロードグレードなど、それぞれ新型車を披露してくれた。スポーツカーとしては、フォード 『GT』やホンダ『NSX』が注目を集めていたが、いずれも「エコブースト」やハイブリッドシステムを活用しており、エンジンだけの勝負ではないのが特徴だ。

◆ GMは電気自動車の進化版、自動運転は目立たず

エコカーも姿を消したわけではない。GMは航続距離を320km程度と設定した電気自動車『BOLT(ボルト)』を披露。また、欧米各社は、揃ってプラグインハイブリッド車(PHV)を披露した。これらは、カリフォルニア州が定める「ゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)」規制をクリアするための設定と考えられる。個人的には、PHVが全世界に普及して欲しいが、ガソリン価格が1ガロン、2ドルの状況では、PHVの普及は望めそうにない。

少し意外だったのは、自動車メーカーから自動運転技術に関する展示が少なかったことだ。部品メーカーのアイシン精機は、低速域での自動運転を疑似体験ができるドライブ・シュミレーターを設置して、自社技術を訴求していた。例えば、クルマが大きな駐車場内に入ってから、自分で空きスペースを探し、そこに向かって自動運転を行い、自動で駐車をするシステムである。これまでもアイシン精機は、自動操舵でパーキングできるシステムは実用化しているので、この領域はITSとの融合で確実に到達でき利便性も大きい技術だと感じた。

また、メルセデスベンツは、自動運転時代の自動車デザインを提案した『F 015 ラグジュアリー』を披露した。ドライバーが運転する時はシートが前を向き、自動運転モードに入ると前列シートが、後ろを向いて対面となり、クルマが高級応接ルームに替わるという設定である。クルマのデザインとしては目を引くものがあった。

◆ デトロイトに若者が戻ってくる日

昨年の米国での新車販売台数は、1652万台で前年比5.9%増。リーマンショック前の2007年、1615万台を超えてきた。今年は、恐らく1700万台を超えてくるのだろう。自信を取り戻した米国の自動車産業。デトロイトは、自動車とITの融合の街になっていくのかもしれない。夏のデトロイトの川べりにも、若者が戻ってくる日が待ち遠しい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. BYD、国内EV累計販売が5305台に…5000台目の『シーライオン7』を納車
  2. 『デュカト』ベースで4名就寝を実現、トイファクトリーの新型キャンピングカー『ブルージュ』の内装をチェック
  3. トヨタ「クラウン」「アルファード」など21車種、64万台超の大規模リコール[新聞ウォッチ]
  4. 純正を活かす快適システム! こだわりが光るノアの高音質カーオーディオ[Pro Shop インストール・レビュー]by ZEPT
  5. 「未来感半端ない」アウディ『Q5』新型発売にSNSでは歓喜の声、実車確認の報告も続々と
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. リチウムイオン電池の寿命を2倍に、矢崎総業、バインダフリー電極材料を開発
  3. スズキ初のBEVはなぜ「軽EV」じゃない?『eビターラ』開発者が語る「EVの悪循環」と「スズキの強み」
  4. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  5. 湘南から走り出した車、フェアレディZやエルグランド…日産車体が量産終了へ
ランキングをもっと見る