【土井正己のMove the World】世界に影響を与えた「琳派」と、レクサス・デザイン

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紅白紅白梅図屏風 2014年 二曲一双 紙本金地着色(山本太郎 作)
紅白紅白梅図屏風 2014年 二曲一双 紙本金地着色(山本太郎 作) 全 7 枚 拡大写真

ニューヨークに来ると、随分と日本のファッションやデザインが市民権を得てきたと感じる。道路には、『カムリ』のイエロー・キャブが溢れかえっており、有名ブランドが並ぶ5番街には、「ユニクロ」のファッションビルが、強いインパクトを持ってそびえ立っている。

大変な賃貸料だと思うが、ニューヨークには、アジアや南米など世界中から若者が集まってくるので、ここでこのビルを見ると「ユニクロ=世界トップブランド」という高級イメージが世界中で出来上がっていく。それを狙ってのことだろう。5番街を少し入ると、ニューヨーク近代美術館がある。ここの新館や庭園は、日本を代表する建築家、谷口吉生のデザインだ。そして、そのミュージアム・ストアーには、何年も前から「無印良品」の作品(商品)が置かれている。

こうして、日本のファッションやデザインは、今や世界の潮流を作りつつあると言える。

そして、「Tokyo」の発信力も強くなってきている。「東京ガールズ・コレクション」は、2月28日に開始以来10年目、20回目を迎える(代々木第一体育館にて)。毎回、欧米やアジアから多くのジャーナリストが集い、ここから「Tokyo」のファッションを世界に伝えてきた。

このようなポップな日本文化が持て囃される中で、注目したいものがある。京都や東京を中心に展開される「琳派400年」を記念した一連のイベントだ。

琳派とは、尾形光琳の「琳」の字をとってつけられているが、桃山時代から現代まで、本阿弥光悦、俵谷宗達、尾形光琳、乾山、酒井抱一、鈴木其一、神坂雪佳などといった画家たちが、伝統の技法を学び・継承ながら、その時代のアート(その時代としてはポップ・アート)を創り上げ一世を風靡してきた。「琳派」は、当時、欧州の後期印象派にも影響を与え、グスタフ・クリムトなどは、「琳派」の技法を学び、「金箔」を多くの彼の作品の中に取り入れている。

そして、その「琳派」の現代の継承者として、京都出身の山本太郎(政治家の山本太郎とは別人物)という若手画家がいる。彼の作品に、尾形光琳の「紅白梅図屏風」をモチーフとし、缶から流れ出たコカコーラを赤い川に見立てた作品がある(写真参照)。構図全体は伝統美であるが、赤い川はポップアートだ。これを、何人かの外国人に見せたところ、口をそろえて「美しい」と驚嘆した。彼らは、尾形光琳を全く知らない。しかし、この絵に驚嘆した後、「琳派」に興味を持ってくれた。

私は、これこそが、日本がこれから世界に打って出ていくデザインやアートの在り方ではないかと思っている。すなわち、「日本の伝統美」と「世界の最先端ポップアート」の融合ということだ。それは、驚嘆の後ろに奥深いストーリーを感じるからである。そして、山本太郎の作品は、理屈抜きに美しい。(山本太郎は、2月5日に京都府文化賞を受賞。「琳派400年」記念イベントの一環として、2月25日から3月3日まで、高島屋大阪店にて山本太郎展「古画降臨」を開催。その後、京都、米子でも開催予定。)

さて、クルマのデザインはどうか。クルマにも、「日本の伝統美」と「世界の最先端」を兼ね備えたものがあるだろうか。最近、それに近い印象をもったのは、レクサス『NX』だ。

スピンドルグリルをモチーフにした張り出しの強いフロント・グリルと切れ長の「三眼フルLEDヘッドライト」は、圧倒的な存在感をこのクルマに与えている。レクサスは、内装に竹素材を取り入れるなど、日本独自の伝統美を重視しており、このNXにもグローバル最先端のデザイントレンドと日本独特の優雅さを併せ持たせたデザインとなっている。このクルマには、日本よりも、ニューヨークの街並みが似あう。このデザイントレンドは、これから、他のメーカーにも影響を与え、世界のSUVデザインの潮流をリードしてくれるのではないかと期待している。

日本の伝統美といえば、一般には禅宗の「わび」、「さび」をイメージするが、歴史的に見るとそれは一時的なもので、実際には、「琳派」に見られるように色彩豊かで打ち出しの強いものが多い。そして、これらは、世界の一級アーティスト(特に印象派)に大きな影響を与え、19世紀末の世界芸術の潮流を作り出した。クルマのデザインも、世界の最先端トレンドを追及しながら、是非、日本の伝統美、その打ち出し方を踏襲してもらいたいと思う。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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