【ホンダ N-BOX スラッシュ 試乗】下位グレード「G」は薄い存在なのか…井元康一郎

試乗記 国産車
N-BOX スラッシュ G・Aパッケージ
N-BOX スラッシュ G・Aパッケージ 全 13 枚 拡大写真

ホンダの軽ハイトワゴンモデル『N-BOX スラッシュ』に試乗する機会を得たので、ファーストインプレッションをお届けする。

試乗ルートは代官山の蔦屋書店とお台場潮風公園の往復。帰路は下位グレードの「G・Aパッケージ」を2名乗車で走らせてみた。搭載エンジンは自然吸気で、往路に乗ったターボエンジンに比べるとかなり非力に感じるのではないかと予想していたが、実際はもたつき感は小さく、結構きびきびと走る。首都高速道路の巡航も、低めの回転数で悠々とこなすことができた。

最高出力58psは他社の自然吸気エンジンに比べて1割ほど強力で、最大トルク6.6kgmもクラストップ。920kgという車両重量はスズキ『ハスラー』のFWD(前輪駆動)自然吸気の中間グレードより150kg、ダイハツ『ムーヴ カスタム』の同水準グレードより90kgも上回るもので、このくらいの高出力でパワーウェイトレシオのハンディをカバーできるものではないが、新世代CVTのレスポンスが良いこともあって、少なくとも平地をトコトコ走るぶんには必要十分な動力性能を持っているように思われた。試乗時の燃費計表示は20.8km/リットルであった。

乗り心地は上位グレードのXより落ち着いており、軽自動車としては十分以上に良好。ベースとなった『N-BOX』はデビュー当初、ノンターボについては一部を除きスタビライザーが未装備で、サスペンションのロール剛性の高さでコーナリング時の横Gを受け止めるというチューニングがなされていたのだが、そのため足回りが固く、ターボモデルに比べて乗り心地が少なからず劣っていた。相当に不評だったのか、一部改良で下位グレードまでスタビライザーありのサスペンションに変更された。N-BOX スラッシュも同等で、下位グレードだから乗り心地が悪いということはまったくなかった。

ハンドリングもターボモデルと同様、オンザレール感の高い良好なもの。今日の軽はハンドリングのレベルが以前に比べて長足の進歩を遂げているが、ボディは重量が大きいぶん強固に作られており、段差の入力などへの抵抗性は軽自動車の群を抜いて良い。

先に乗った「X」のカリフォルニアダイナースタイルに比べて優れていたのはシートの座り心地。基本構造は同一なのだが、ファブリック表皮のほうがフィット感が高く、見た目とは裏腹に感性評価はノーマル表皮のほうが上だ。もともとN-BOXと『N-ONE』のシートは、軽の枠を超え、国産乗用車全体で見ても傑作の部類に入る。N-BOXで東京から北茨城の袋田の滝まで、周遊を含めて500kmほどドライブしてみたところ、まったくのノーストレス。そこで2013年の夏、試しにN-ONEで東京~鹿児島を周遊含め3200kmドライブしてみたが、広島県の福山から三重県の伊賀まで最長5時間あまり無休憩で走っても、たまに腰を浮かせるだけでうっ血せず、疲れは極小だった。

N-BOX、N-ONE、N-BOX スラッシュと開発責任者を歴任した浅木泰昭氏にきいてみたところ「実はシートには徹底的にこだわった。試作を繰り返してもなかなか良いものが出来なかったので、しまいには『もうお金をかけてもいいからいいものを作れ』と。体重の受け止めに固いウレタン、体との接触面に柔らかいウレタンという二層構造にして、体重の重い人から軽い人まで、良いタッチに感じられるものに仕上げた」とのこと。N-BOX スラッシュのシートも、この2モデルの流れを継承しているのだ。ちなみに筆者は「Nシリーズ」ながら別の人物が開発責任者を務めた『N-WGN』のロングドライブ試乗記で「シートはN-ONE、N-BOXに劣る」と書いたが、実際にシート構造が違い、そちらは一層とのことだ。

このように美点の多いN-BOX スラッシュ G。そのなかで大きな弱点と思われたのは、インテリアの質感の低さだ。N-BOX スラッシュは、真っ赤なシートのカリフォルニアダイナースタイルをはじめ、5つのスタイルのインテリアを持つことを売りのひとつにしている。そのなかで自然吸気のGは安全装備を追加した「Aパッケージ」含め、アイボリー基調の「ブライトロッドスタイル」と決まっており、チョイスは不可能だ。このブライトロッドスタイルインテリア、樹脂部分の質感や色合いが安っぽい。要は低価格車向けの樹脂素材の色そのもので、感触も商用車のようだ。スペシャリティ色が強く、価格的にはスズキ ハスラーの中間グレードXよりも高価なN-BOX スラッシュがこれではまずい。明るい色合いのインテリアというのは、それはそれで良い部分もあるので、材質をもう少し良いものにすれば魅力は増すだろう。さもなくば、いっそGターボ以上と同じ黒内装の「ストリートロッドスタイル」に揃えたほうがいいのではないかというのが正直な感想だ。

クルマとしての基本性能が高い半面、インテリアの質感は低く、さらにルーフ2トーン塗装も選べないGは、見方によって評価が分かれるところだろう。スペシャリティ性を求めるカスタマーにとっては、Gは最初から購入検討の対象になりそうもないが、N-BOX スラッシュをスペシャリティカーではなく、ちょっと変わったハイトワゴンと考える層にとっては、シリーズ最低価格のGも選択肢のひとつに入れてよさそうだ。とりわけ、買うのは軽自動車と決めているが長距離ドライブも積極的にやりたいという人にとっては、豊かなスペースとほどほどの燃費、出色のシート、疲れを誘発しない正確なハンドリングなど多くの部分がポジティブに作用し、満足度は高かろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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