【スズキ アルト 試乗】ちょっと残念なクルマ 廉価グレードF…中村孝仁

試乗記 国産車
スズキ アルト F
スズキ アルト F 全 13 枚 拡大写真

乗用車系『アルト』の中では最も廉価版と言えるグレードがこのFである。そしてこのグレードにのみ、マニュアルトランスミッションと併せて、AGSと名付けられたいわゆる電子制御マニュアルが存在する。CVTの設定はない。

このAGS、オートギアシフトの略で、文字通りギアを自動的にシフトチェンジしてくれる。つまりはクラッチを電子制御してシフトする電子制御マニュアルだ。クラッチは一つ。だから基本的にVW 『up!』や『スマート』、さらにはプジョー『208』といった輸入車のトランスミッションと同じ構造である。

日本でシングルクラッチの電子制御マニュアルを持つモデルはちょっと思いつかない。燃費性能はMTより良いものの、CVTには及ばない。では何故AGSを設定したのかという理由だが、間違いなくコストである。値段を見るとAGSは5MT車と同じ価格で、試乗車の場合車両本体価格は84万7800円。ひとグレード上で、CVTの装備されるLでその価格は89万4240円となる。いずれも消費税込みの値段だ。

近年装備てんこ盛りで小型車とほとんど変わらないか、場合によっては高価になる軽自動車にあっては異彩を放つ安いモデルだ。だから装備はシンプルそのもの。エアコンは付くが、パワーウィンドーはフロントのみでリアは巻き上げ式だし、アンテナは今時珍しいAピラーに仕込んだ手動引き上げ式。それにミラーも手動折り畳み式である。

とまあ、ちょっと我慢を強いられる仕様なのだが、それらは走りに何ら影響がない。そして、AGSは若干のトルク変動さえ我慢すれば、オートマチックと変わらないイージードライブを可能にする。

輸入車の廉価モデルでもこのシングルクラッチ電子制御マニュアルを用いているが、多くの場合そのトルク変動の大きさに失望させられる。だから、この部分がどうなのか最も気になっていた。

結論から言えば、今まで乗ったシングルクラッチのモデルでは、一番トルク変動の少ないモデルであった。それにドライバーのいうことをよく聞いて、シフトアップさせたい時に少しアクセルペダルの力を抜くと、見事なほどスムーズなシフト操作が可能だった。だから、MTモードのまま右足の操作だけで相当スムーズな運転ができる。勿論、マニュアルモードにして手動操作すればよりスポーティーなドライブも可能であった。

タイヤサイズが最上級のXが履く165/55R15に対し、145/80R13と、だいぶプアなものが装着されているので、さすがに踏ん張りは効かないし、正直楽しいというレベルのドライブ感覚ではない。それにX同様キャスターアクションがほとんどないが、タイヤが細くて抵抗が小さい分、曲がり角からの立ち上がりなどは、少しハンドルが中立方向に戻ってくれる。と言ってもこの性格は褒められたものではない。

タイトルに残念なクルマと書いたのは、安全装備が落されていること。Fは乗用車のグレードだから当然4人乗車となっているが、リアシートにヘッドレストは付いていない。こいつはいかがなものかと思う。というわけで2シーターとしてならそれなりの成立要件を満たしているが、残念ながら4シーターとしては失格だ。

パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★
おすすめ度 ★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. ベントレーの超高級住宅、最上階は「55億円」 クルマで61階の自宅まで
  2. 日産の新型セダン『N7』、発売50日で受注2万台を突破
  3. 【ダイハツ ムーヴ 新型】「ポッキー入れ」にイルミネーション、軽自動車でも質感を“あきらめさせない”インテリアとは
  4. トヨタ RAV4 新型、PHEVのEV航続は150km
  5. BMW、カーボン素材を天然繊維複合素材に置き換え、量産車に採用へ
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 独自工会、EV減速でPHEVに着目、CNモビリティ実現へ10項目計画発表
  3. 茨城県内4エリアでBYDの大型EVバス「K8 2.0」が運行開始
  4. 中国EV「XPENG」、電動SUV2車種を改良…新電池は12分で80%充電可能
  5. コンチネンタル、EVモーター用の新センサー技術開発…精密な温度測定可能に
ランキングをもっと見る