【ボルボ V70 900km試乗】今なお第一線級、全天候型プレミアムワゴン…井元康一郎

試乗記 輸入車
ボルボ V70 T5 SE 900km試乗
ボルボ V70 T5 SE 900km試乗 全 40 枚 拡大写真

スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ社の最上級ステーションワゴン『V70』を長距離試乗する機会があったのでリポートする。

V70は全長4815mmという大型のエステート。欧州市場の区分けでは、アウディ『A6』やBMW『5シリーズ』などと同じ、プレミアムEセグメントに属する。試乗車は中間グレードの「T5 SE」で、パワートレインは最高出力180kW(245ps)を発生する2リットル直噴直4ダウンサイジングターボ+8速AT。駆動方式はFWD(前輪駆動)。東京・葛飾を出発し、東北自動車道で青森へ。その後フェリーで函館に渡り、大沼国定公園近辺を周遊する総走行距離約900kmのコースをドライブした。

2007年2月に欧州デビューした長寿モデルということで、いくら何でも少なからず旧態化しているのではないかと試乗前に予想していたのだが、実際にドライブしてみると、その予想とは裏腹に、プレミアムEセグメントらしさが随所に感じられるクルマだった。

東京から青森へ向けて東北道をひたすら巡航。前述のようにV70はやや旧式の設計で、試乗車の車両重量は1720kgと、2リットルターボとしては重量過大だ。V70のプラットフォームはかつてボルボと資本提携関係にあったフォードが重量級クロスオーバーに使用することも視野に入れて作った中大型車用のもの。重いという欠点がある一方、フロアの強靭さは相当にハイレベル。ボディがしなやかに入力を受け流すタイプではなく、微塵も変形しない鉄板の下でタイヤ、サスペンション、ブッシュのたわみだけで路面からの衝撃を全部抑え込んでいるような乗り味だった。

巡航感はダンピング感のやや弱い独特なもの。BMWのような精密感あふれるフィーリングではなく、さりとて現行より落ち着きのあるトヨタの旧型『クラウン』のようなゆったりとしたストローク感に満ちたものでもない。重量級ボディの揺動を受け止めるロール剛性の高さと、路面のざらつきを受け流す微小なストロークの柔らかさが同居しており、基本的に乗り心地は良好だが、両者の動きの協調はややバラバラ。それゆえ、スタッドレスタイヤを履いていたことを割り引いても、ステアリング中立付近の感触は甘めだった。

が、この特性は、雪道では逆にプラスに作用した。寒冷地の雪道は除雪車のビッグブロックタイヤの跡や氷塊などで、ハーシュネスの点では非常に厳しい路面である。青森の十和田湖付近や北海道の大沼国定公園界隈でそんな荒れた雪面の山岳路を走ってみたが、コンクリート舗装路を走っている時とほとんど変わらない良好な乗り心地であった。

また、V70のフロントバンパーは空力設計を極度に重視した今どきのクルマと異なり、バンパー先端が路面すれすれではなく、かなり高い位置にある。そのため、普通のクルマでは踏むのをためらうような落雪の塊も、クロスオーバーSUVのように気軽に踏んで進むことができた。AWD(4輪駆動)でないにもかかわらずハンドリング、トラクションも良好。北国生まれのクルマなのだなと実感させられたひとこまだった。

次にパワートレイン。2リットル直噴ターボは昨年12月に登場したばかりの新世代ユニット。スペックシートを見ると350Nm(35.7kgm)の最大トルクを1500~4500rpmという幅広い領域で発生するとのことだが、実際に走らせても柔軟性は驚異的に高い。1720kgという重量級ボディを軽々と加速させ、日本の速度レンジであれば高速道路の速い流れに乗ってもスロットルをわずかに踏み込むだけで悠々と巡航できる。スロットルを深く踏み込んで加速させると、運転席にはプレミアムEセグメントとしてはやや騒々しい音が伝わってくるが、助手席のほうは静か。運転席にはインフォメーションを積極的に伝えるという考え方であることがうかがえた。

アイシンAW製の8速ATはとても良くチューニングされていた。完全自動で走っても、山岳路、市街地、高速道路と、いずれもシフトスケジュールが適切で、加速力不足を感じることはなく、逆に意に反して引っ張りすぎることもない。100km/h巡航時の回転数は7速で1800rpm、8速で1500rpm。下り坂など負荷の軽いとき以外は100km/h前後では8速に入らないが、パドルシフトを操作することで入れられる。

2名乗車で東京~青森間約752.6kmを走行したさいの燃費実績は雪道走行を含んで14.2km/リットルと、このクラスとしてはトップレベルの数値。ちなみに試乗の終盤、パドルシフトを積極活用したほうが格段に燃費が伸びることに気づいた。エコランの得意なカスタマーなら、もっと燃費を伸ばせるだろう。

総じてボルボV70は、度重なる改良で設計年次の古さをカバーし、今もってプレミアムEセグメントとして満足できるパフォーマンスを持ったクルマだった。シート設計がきわめて優れていることもあって、東京~青森くらいの距離では身体へのストレスは驚異的に少なかった。オンロードでのドライブフィールは没個性的だが、雪道での乗り心地は優秀。そのことから、グラベルやダートなどの悪路でのパフォーマンスも良いと推測できる。

また、渋滞追従や自転車の検出機能なども持つ先進安全技術「インテリセーフ10」は、路面ミューの極端に低い北海道の圧雪路、氷結路でも路面状況に合わせて作動するなど高い完成度を持っており、ロングドライブには大いに役立つことだろう。弱点は、今となっては地味にすぎるスタイリングと、他のプレミアムセグメントモデルに対してやや劣るアジリティ(俊敏さ)。

Eセグメントのステーションワゴンは国産モデルのライバルが不在で、もっぱらベンツ『Eクラス』やBMW5シリーズなど、輸入車のプレミアムセグメントワゴンと競合する。その中でV70はやや地味な存在だが、そのV70をセレクトする意味が大きいと思われるのは、オールシーズンで週末や長期バカンスを長距離ドライブやアウトドアで過ごすようなアクティブ派や、先進安全装備への関心が高いカスタマーあたりか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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