【クラウドカーナビ最前線】2020年の地図づくり、コスト・クオリティ・スピードで勝負…インクリメントP

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インクリメントP 第二事業部 部長 取締役 河野一嗣氏
インクリメントP 第二事業部 部長 取締役 河野一嗣氏 全 8 枚 拡大写真

インクリメントP(iPC)は、パイオニア子会社の電子地図会社だが、いちはやくネットの世界に地図を持ち込んだ企業だ。パッケージ版の電子地図として「MapFan」をリリースし、その2年後の1997年にはインターネット生活地図サイト「MapFan Web」をスタートさせた。以来、BtoB / BtoCあるいはBtoBtoCの領域で、幅広く地図サービスのビジネスを広げている。

その電子地図の老舗とも言うべき同社だが、スマートフォン向けの取り組みも個性的かつ大胆だ。2011年の東日本大震災の直後には有料だった「MapFan for iPhone」を無償提供したり、発売直は低価格で販売し、時間が経つほどにアプリの価格が上がる「カウントアップ」施策をおこなうなど、独自の取り組みをおこなっている。

同社のコンシューマー向けナビアプリ事業は、どのような方針のもとでおこなわれているのか。モバイル向けのMapFan関連事業を中心に今回、第二事業部 部長で取締役の河野一嗣氏と技術開発部 第一技術部 部長の阿部淳一氏に話を聞いた。

◆iOSだけで累計160万ダウンロード達成

----:まず、御社が提供しているスマートフォン向けMapFan関連アプリの取り組みについてご説明ください。

河野:ナビゲーションというところでは、2010年にiOS向けに出した「MapFan for iPhone」が最初です。敢えてオフボード(通信型)にはせずに端末のローカルストレージに地図データを収容する形態として、通信圏外でも道案内ができるアプリとして登場させました。東日本震災の後、オフラインでも利用できる利便性を活かして多くの方に使っていただくために、無償で提供して話題を集めたのもこのアプリです。

その後、iOS向けはオフラインとオンラインの双方の特徴を持たせた「MapFan+(プラス)」にブランドチェンジし、Android向けについては買切り型の「MapFan 2014」と定期地図更新が付く月額/年額課金タイプの「MapFan」の2本立てで提供しています。MapFan関連アプリのダウンロード数については、iOS向けで160万を超えました。

----:インストールされている端末に傾向などはあるでしょうか。

阿部:「オフラインでつかえる地図」を当初から謳っていたこともあって、インストールされている端末のうち、半分近くはWi-Fiモデルです。なおかつ、さまざまな端末にインストールされているというのも傾向ですね。

◆車載とモバイルでビジネスを切り分ける

----:カーナビ向け事業とスマートデバイス向けの事業のバランスは?

河野:当社は車載カーナビやスマートフォン向けアプリ双方に地図提供もおこなっています。ここ1、2年はカーナビの台数が非常に好調で、特にディーラーオプションの伸びが著しいですね。国内のお客様は車載ナビに求めるニーズのレベルが高く、スマホナビが車載ナビを100%駆逐することは絶対にならないでしょう。したがって、車載ナビの市場でいかにシェアをとっていくか。クオリティを高めながらいかに安く出すかに注力しています。

----:御社は冒頭でご説明いただいたように、MapFanシリーズではtoBだけでなくtoC向けのスマホナビアプリナビサービスを提供していますが、マーケットとしてtoC分野の今後をどのようにお考えですか。

河野:スマホナビを求める層に対しては地図アプリサービスは一通り行き渡った感はあります。いまは単にダウンロードの数を競うというよりも、アプリをつかっていただくための争いになっている。たいていは、GoogleまたはiOSの標準地図アプリに続く3つ目4つ目のナビアプリとして、いかに他社アプリと差別化して、使ってもらう動機をつくりだすか、ということですね。

----:買い切りだった前身アプリの MapFan for iPhoneやAndroid向けのMapFan 2014では、全ての地図をインストールしてオフラインでナビできるというのがウリになっています。オフラインの対応の需要は高いのでしょうか?

阿部:LTEが普及して、オフライン対応にたいするニーズは減ったと思われますが、以外にも需要は根強いです。通信費用をできるだけ安く抑えたい、でもカーナビは使いたいという方は案外多くいらっしゃって、SIMフリー端末に格安SIMを組み合わせて利用される方も少なくありません。なお、月額課金版のAndroid向けMapFanは毎月更新できますので、ユーザーは任意のタイミングで更新可能です。

◆ベースの地図開発技術活かしたビジネス拡大は可能

阿部:コンシューマー単独で利益を上げるのは難しいので、BtoBなりBtoB to Cなりで別のビジネスにつなげていくというのが当社のスタンスです。当社の場合は地図に価値を見いだしていて、たとえば地図情報の精度では競争力を持ち得ると考えています。

河野:フィーチャーフォンでの月額課金が軌道に乗りかけたころに、個人向けサービスの事業拡大を狙おうとも考えたのですが、Googleが出てきてからその困難さに直面しました。そこで出た答えは、「個人向けはショーケースという位置づけでサービスし、法人向けでビジネスを組み立てる」というものでした。結果的に設立当初の原点に返ることになりました。

----:なるほど。

河野:ベースとしての地図のクオリティがしっかりあれば、十分この市場でビジネスをしていくことができます。MapFanで毎月地図更新しているのは、「それくらいのクオリティと速さを実現しているんだよ」という対外的なメッセージでもあるのです。

◆地図の見せ方や多言語対応で差別化要素見いだす

----:有料ナビアプリを提供している会社は他にも数社ありますが、これらに対する競争優位性はどのような点にあるとお考えですか。

河野:個人向けのMapFan+では地図の見やすさなどの点で差別化を図っていますが、法人向けでは、MapFan APIなどで地図表現が選べるようになっています。古地図風だったりRPG風だったりと配信側で設定ファイルを変更するだけで様々なものができます。また、多言語化にも力を入れています。現状は4カ国語の対応となっていますが、今後はさらに多言語化を進めていく考えです。

◆コストとスピードとクオリティの折り合いをどう付けるか

----:東京オリンピックの開催が決まり、首都圏は再開発が加速していくと考えられています。今後の地図更新について御社での取り組みはどのようにお考えですか。

河野:2014年度は新規開通する道路が多く、下半期はほぼ毎月のように道路更新をおこなっています。さらにいうと、東京オリンピックが開催される2020年までにものすごい数の道路更新が予定されています。今後、地図の更新タイミングをどうしていくかは考える必要がありますね。

----:2020年はまた、自動車の高度運転支援が実用化のメドを迎える時期でもあります。自動運転時代に向けての高精度地図の整備については進められているのでしょうか。

河野:自動運転は、車載のセンサーだけで実現できる技術ではなく、地図の存在は必要不可欠だと思います。当社はカーナビ向けの道路地図を作ってきた会社なので、道路更新については強みがあるしょう。2014年には、NTT空間情報と協業して、日本全国の建物の形や道路・地形を地図上に正確に表現可能な「GEOSPACE電子地図データ」を搭載した「MapDK5G」をリリースしました。

----:準備は着々と進んでいる、と。

河野:2020年に向けては、当社としても何かしらの貢献はしたいと思っており、重点取り組み項目として位置づけています。ただ、地図自体にどういう情報を付加していくかは今後考えて行かねばならない問題です。取得しなければいけないデータが膨大に増えるだけでなく、道路ネットワークを面で把握しなければなりません。地図データを作るだけでなくメンテナンスもしていかなければならないので、いかにノウハウ化してコストとクオリティ、そしてスピードのバランスを維持していけるかがこの分野での成否を分けると思います。

《まとめ・構成 北島友和》

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