【インタビュー】中古車流通の「健全化」めざす…アジア中古車流通研究会

エマージング・マーケット 東南アジア
塩地 洋(しおじ ひろみ) 日本での自動車流通研究の第一人者。京都大学大学院経済学研究科教授、京都大学東アジア経済研究センター長。
塩地 洋(しおじ ひろみ) 日本での自動車流通研究の第一人者。京都大学大学院経済学研究科教授、京都大学東アジア経済研究センター長。 全 3 枚 拡大写真

2月28日、第12回アジア中古車流通研究会が開催された。特にアジアでの中古車流通について自動車業界を横断した活発な議論がなされている。その発起人である京都大学東アジア経済研究センター長の塩地洋教授に、研究会の設立目的、その活動等について聞いた。

◆日本の将来のために、本音で話し合う

----:アジア中古車流通研究会がスタートしたのはいつですか?

塩地:2012年4月に京都大学東アジア経済研究センターの下にアジア中古車流通研究会を組織しました。きっかけは、東日本大震災、タイの洪水問題があり、日本の将来のために国全体の観点で自動車産業をどのように支えていくのかを考えていく必要を感じたためです。年4回程度の研究会を、京都、東京、名古屋で交互に開催しており、本日で12回目となります。

----:日本における自動車流通研究の第一人者である塩地先生が、中古車流通研究会を設立した目的について教えてください。

塩地:日本にはアジアを含めた海外での中古車流通について、自動車メーカー、新車ディーラー、総合商社、中古車輸出会社、中古車販売会社、保険会社、ローン会社、オークション会社など業界を横断して中古車流通を考える研究会がありませんでした。そのため個別企業ごとに調査や研究をしていたのを、業界を横断して日本全体で考えていこうとしたことが設立の目的です。

日本では新車業界と中古車業界のは交流が少ないです。研究会では当該領域を専門とする大学研究者も加わりながら、ふだん交流のない業界の方々もお互いに情報交換を行い、様々な問題を多面的に議論します。機密情報はだせなくとも、それ以外の情報は惜しげもなく提供し、会社のためでなく、日本の将来のために活発に本音で話し合う場となっています。

----:どのような報告がなされているのでしょうか?

塩地:毎回3名ほどのメンバーにケーススタディなどの報告をしていただきます。第12回となる本日は、北島義貴(トヨタカローラ徳島 代表取締役社長)「タイのプーケットにおける販売店経営」、川崎大輔(プレミアファイナンシャルサービス 海外事業企画室マネージャー)「タイにおける中古車流通の現状」、上山邦雄(城西大学教授)「新興国市場の多様性 中国とロシアを事例として」の3名です。

新車ディーラーと自動車金融の実務家、そして自動車産業論の研究者です。アカデミックな研究はもちろんですが、業界を横断した複数業種の方々が、自動車産業が直面する課題について、各々の立場で積極的に質問、発言をしていきます。

◆欧米より遅れているアジアの中古車流通

----:研究のテーマとされているアジア中古車流通について教えてください。

塩地:欧米と比較するとアジアの中古車流通は遅れている面があります。遅れているというのは、量的に台数が小さいというのがあります。一般的にその国の中古車流通の発展度合いを図る指標として、新中比率が使われています。新中比率とはその国の新車販売台数に対する中古車台数の比率をいいます。その観点からいえば、ヨーロッパ(英国など)は3.0、アメリカでは2.0と中古車流通が新車流通の2倍、3倍あります。一方で、アジアでは一番高いと思われるタイでも1.0位。インドネシアなどでは1.0より低い比率です。

しかし、アジアの場合は統計が正確ではなく、ブローカー間の中古車取引も中古車流通に含まれている点は考慮が必要でしょう。量が少ない上に、ブローカーなどが取引の間に入るため、流通が多段階になっており効率性も良くありません。一方、アジアは巨大な人口を抱え自動車市場は急拡大をしています。将来的なポテンシャルが高いということは魅力ですし、親日的というのも日本企業にとって大きな魅力となるでしょう。

----:アジアの中古車流通の課題を教えてください。

塩地:課題は、中古車流通の健全化です。つまり、中古車の価格や走行距離や過去の修復歴などの売り手と買い手の間にある情報格差をなくして、公正な取引が行えるようにすることです。また、アジアの新車ディーラーで中古車販売していくという動きを広げていくことも大切です。

アジアの国々では自動車メーカーが中古車販売に力を入れていません。日本でも1970年代は同じで中古車ビジネス、修理・整備などのアフタービジネスに関心がない時代がありました。新車ディーラーの収益安定、発展にとって、新車販売だけではなく中古車を下取り小売りするということは重要です。長期的に見れば自動車メーカーにとっても、新車ディーラーが経営体として強くなることで新車販売が拡大します。

そういった意味で中古車流通が健全化されるということは、新車が売れるということにつながり、その国の自動車流通全般がよくなっていくということにつながります。

◆3国間による中古車流通

----:アジアにおける中古車流通の今後の流れを教えてください。

塩地:現在、日本から輸出された中古車も含め、グローバルに第3国間の流通を考えるということが日本ではなされていません。タイで発生した中古車が、ミャンマーやカンボジア、あるいはオーストラリアに輸出されるビジネスも考えられます。アセアン統合によって、第3国間の中古車流通が一般的になるのは目に見えています。某日本のメーカーでは中古車輸出を本格的に自らのビジネスをして位置付ける動きも出ています。アジア中古車流通研究会はそれらを効率的に行っていくビジネスを研究するという場としてもこれから重要な役割を果たすと思っています。

塩地 洋(しおじ ひろみ) 日本での自動車流通研究の第一人者。京都大学大学院経済学研究科教授、京都大学東アジア経済研究センター長。

《川崎 大輔》

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