【スズキ アルト ターボRS 試乗】軽さは強力な武器、愉しい“イタズラ”に賛意と敬意…家村浩明

試乗記 国産車
アルト ターボRS
アルト ターボRS 全 28 枚 拡大写真

最も廉価なクルマで“こういうこと”をしてしまう! このスピリットが、まずは愉しい。そして、その安価なクルマとは、同時に、車重が極めて軽い軽自動車であった。

【画像全28枚】

軽規格では、エンジンの最高出力は「上限」が64psと決まっている。…ということは、軽い車重はすなわち、エンジンを他車よりパワーアップしているに等しい。

軽量をテーマとして登場したスズキの新型車『アルト』は、おそらくは、その企画段階から、その「軽さ」を活かして“仕掛ける”ことがプランに入っていたのだろう。超・軽量車であるからこそ、ターボを付けたらおもしろい! こういう“イタズラ心”いっぱいのアイデアである。

それにベースがアルトなら、部品の付加やチューニングなどをいろいろ行ったとしても、価格的には「廉価車」の範囲にとどまるはず。これは素晴らしい思いつきで、結果を見ても、ブレーキやサスペンションを強化して専用シートを設定しているものの、このモデルのプライスは130万を超えない(2WD)。

では、そんな注目モデルであるアルトの「ターボRS」に、さっそく乗ってみよう。

アルトのヒップポイント(前席座面の地上からの高さ)は585mmで、これは旧型よりも20mm上がっている。これで乗降性も向上し、スンナリと車室に収まったところで、キーをオンにする。そしてアクセルを踏むと、乗り込んだ際の印象の「穏やかさ」はクルマが動き出しても変わることがない。

ターボ装着のエンジンではあるが、これは、ある回転域からドカッとパワーを吐き出すような(かつての)ターボではなく、全域に厚いトルクが盛りつけてあるというタイプ。“ドッカン・パワー”を期待するとやや拍子抜けするが、2010年代のこのターボは、どんな回転域でもアクセルに呼応して必要な“チカラ”を出すエンジンとしてまとめられていた。

スペックをチェックしてみると、このターボエンジンの最大トルク発生回転数は3000回転。つまり、それ以上回してもトルクは変わらない。

言い換えれば、トルク型のエンジンで、低中速から高速域まで自由にクルマを操ることが目的のターボで、それがわかれば逆に、ワインディング路でも神経質にならずにアクセルを踏めるというもの。また、クルージング状態でのイージー・ドライビングも、エンジンのそんな「穏やかさ」によって容易に可能だ。

そうしたエンジンに呼応するように、乗り心地もハイパワー車にしてはマイルドといえる。ブレーキの大径化も含めて、パワーに対応して全体的に硬めの足になっているが、そうであっても一般道を走っていてのゴツゴツ感や突き上げはない。

スポーツライクに走りたい時だけ、ちょっと持ち出して、短時間だけ遊ぶ…というようなサスペンションではなく、シートも含めて、硬めの乗り味をむしろ愉しみながら、日常的にも使っていく。そういう足の“まとめ”が行なわれているのだ。

ミッションは、最新アルトのシステムを流用した2ペダルの「AGS」(オート・ギヤ・シフト)が、若干チューニングをクイック方向に変えつつ、そのまま搭載されている。

2ペダルならAT限定免許でも乗れて、そして“新しさ感”もあるから、この設定はこれでいいのではないかと思う。ただパドル・シフトが装備されているものの、これは「9時15分」の位置でハンドルを握る人専用という感じであり、このパドルの操作性については、形状など、もう少し工夫があってもいいと思った。

ともあれ、クルマで「スポーツ」すること、つまりは、どういう運動性をそのクルマが持っているか。スポーティカーとはこうした競い合いであるなら、「軽さ」は何にも増して強力なウェポンのひとつとなる。

この「RS」の車重は、2WD仕様で670kgでしかない。オープンカーを軽く作ることは容易ではなく、こうして見ると、他社ではどこも追随できないようなフィールドに、この「RS」は、ひとり立っている。そういう状況であるかもしれない。

歴史的に見ても、軽自動車の世界で、独自の提案と新境地の開拓をし続けてきたメーカーがスズキだった。実はアタマは柔らかいのだという、そんなメイクスによる、新アルトの追加仕様「ターボRS」。2010年代のこの愉しい“イタズラ”に、取り急ぎ賛意と敬意を表する。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナリスト
1947年、長崎生まれ。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。著書に『最速GT-R物語』『プリウスという夢』『ル・マンへ……』など。

《家村浩明》

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