ライトウェイトスポーツカーでもっとも重要なのは「軽さ」である。4代目『ロードスター』はそれを実現するため、徹底的な軽量化を行ったという。
ベースグレード(MT)で言えば、車重は初代が940kg。2代目1030kg、3代目1110kg。そして新型は 990kgと、先代比120kgもの軽量化を果たし、ボディー全長は初代より短い3915mm (初代は3995mm)だ。アルミ材を使うボディ、骨格、足回り、ホイールなどの軽量化が徹底されているのは当然として、ライト類がLEDなのは見栄えではなく小型軽量化のためである。エンジンが先代の2リットルから1.5リットルへとダウンサイジングしていることも軽量化に大きく影響しているのだ。
全長が短くなっても誰もが目を奪われるオープンスポーツカースタイリングを実現しているのはさすがだが、室内空間が狭くなったわけではないのが最新のパッケージング技術というものだ。
一例をあげると先代比で室内長+65mm、室内幅+10mm、室内高+10mm。全高が10mm高い先代に対してヘッドルームを同等としているのは、ヒップポイントを20mm低めにしているからでもある。
目に見える軽量化の例をあげれば、ステアリングに重量のかさむテレスコピック機能はないし (重量が増し、インパネ高が30mm高まるデメリットがある)、助手席前のグローブボックスもない。後者は助手席の足元を広げ、軽量化を計るためだが、鍵付きのボックスはシート中央背後に用意されているので、軽量化のために何かが不自由になったわけではない。トランクスペースにしても、機内持ち込み可能なスーツケース2個が入るのだから不足ない。
一方で、実用性のために軽量化に踏み込まなかった部分もある。例えばソフトトップの前部にはハードボードが仕込まれ、ソフトトップを上げたときの凹みのない面構成、風でバタつかない機能、畳んだときの見栄えを優先。Sスペシャルパッケージ以上の運転席ヘッドレストにはスピーカーが内蔵されているが、その300gを惜しまないのは、オープンカーで音楽を楽しむ自由を奪ってはいけないという考え方からだろう。
さて、ここでは、アイドリングストップを備えた、Sスペシャルパッケージの6ATモデルに試乗した。
最初はソフトトップを閉めた状態で走りだしたが、頭上方向の窮屈感など皆無。ペダルもドライバーに対してまっすぐに、極めて自然な位置に配置されているのがうれしい。静粛性もこのクラスのオープンモデルとしては上々だ。せっかくヘッドレストにもスピーカーがあるのだから、積極的に音楽を聴く気持ちになれるというわけだ。
とはいえ基本形はオープンだから、信号待ちで早速オープンに。開閉は極めて簡単だ。フロントウインドー上端にある2か所のレバーを外し(同時に自動で左右のウインドーが少し開く)、 左手でそのまま後ろに畳み込むだけ。最後の固定する場面のみ、押し込む力がいるが、四十肩の人じゃなければ女性でも苦にならない操作荷重である。ソフトトップを装着する(上げる)際も 、そのまま引き上げればいいだけ。レバーは戻さずに畳めるため、そのままにしておくと装着時の手間がひとつ減るから便利。これなら急な雨降りでも、信号待ちで停まったときにすぐに対応できる。
このSスペシャルパッケージの6ATモデルには、Sスペシャルパッケージ6MTモデルに付くトルクセンシングLSD、リヤスタビライザー、トンネルブレースバーは装着されないが、それでも同様のベースグレードのSより乗り味がドシリと重厚かつ引き締まり、ステアリングの応答感が一段とよくなるのは、ダンパーの違いによるものだ(バネは同じ)。
とはいえ乗り心地そのものは毎日の足にも使える快適さを備えている。段差やゼブラゾーンを走破しても不快な突き上げ、振動、ボディー、フロントウインドーの震えなどないに等しい。同時にSグレードよりロールが抑えられた、一段と現代的なフットワーク、鉄壁の安定感が味わえるのがこのSスペシャルパッケージである。
6MTモデルと違い、クラッチを踏み込む必要がないから、より自由度あるゆったりとしたドライビングポジションがとりやすいのも6ATモデルならではだ。
1.5リットルエンジンのパワー、トルクは、先代比100kg前後の軽量化もあり、はっきり言って十分すぎる印象だった。絶対性能、スペックはともかく、むしろ全開を楽しみやすいメリットのほうが大きい。ちなみにこのグレードにはスポーツモードも備わり、より加速力、レスポンスに優れた、中高回転を維持した走りを心地良いサウンドとともに味わうこともできるのだから 。
6ATは6MT同様、ギアが接近し、加速Gのつながりが気持ち良く、パドルシフトを操作してダウンシフトしても適切かつショックのない減速が得られるからゴキゲンだ。6MTのマニュアルシフト同様、パドルシフトを積極的に使いたくなってしまう。
そうそう、オープンで高速道路を走行したとき驚いたのは直進性の良さだけではない。サイドウインドーを上げておけば室内への風の巻き込みがほぼなし。長い髪の女性をとなりに乗せても、「髪が乱れるう~」なんていうクレームはまずないと思われる。が、しかし、フロントウインドーの上に手のひらをかざせば、痛いほどの風が当たる。Aピラーの後方化、ウインドーディフレクター効果によって風の巻き込みを見事にシャットアウトしていることが分かる。
横浜みなとみらいのホテル~高速湾岸線大黒PAを往復したときの実燃費は16.8km/リットル 。スポーツカーとしてJC08モード燃費18.8km/リットルもすごいが、流す走りをすれはそれほどまでに燃費がいいのも最新のロードスターらしさだろう。
ベースグレードのSは初代を思わせる「軽さ」感、ひらりひらり感が身の上。こちらのSスペシャルパッケージは、より大人っぽくガッチリとした、応答性に優れた走りのテイストが魅力と言える。
ロードスターは販売比率でも圧倒する6MTで乗るのが正解だとは思うけれど、「諸事情によりAT車しか買えないけどどうなの? AT限定免許所持者でもライトウェイトスポーツカーを楽しみ尽くせるの?」そんな疑問に応える最高の回答がこのSスペシャルパッケージの6ATモデルではないだろうか。
もしボクが新型ロードスターに1週間でも乗っていられるとしたら、気持ちは一気に初代が発売された若かりし26年前に戻れるような気がする。そして当時の彼女を誘って、いっしょに初代ロードスターでオープンドライブを楽しんだ思い出のワインディングロードを爽快に走る、甘酸っぱい夢を見てしまいそうだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージデータは膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、イベントも手がけ、犬との自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動も行なっている。