【土井正己のMove the World】TPP大詰め、スポーツカーと環境技術で勝負!

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トヨタ 86
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TPPの日米交渉が大詰めを迎えている。オバマ大統領は、先日「もし、TPPが成立できなければ、中国がアジアの経済・貿易のルールを都合よく決めることになる。そうなれば、米国は今後30年、アジアマーケットから締め出されることになる」と述べた。

この発言は、明らかに野党共和党の賛同を得るためのメッセージだ。日米閣僚会議も終了し、4月末の安倍総理の訪米で「両首脳が大筋の合意ができるかどうか」というところに焦点が当たっている。オバマ大統領にとっても、TPPは大統領任期の「総まとめ」として、何としても成立させたいところだ。議会の超党派有力議員が、TPA法案(大統領に交渉の権限を大きく委譲する法案。過去の貿易交渉もこれで決着してきた)を提出した。機運は大いに高まっている。

◆AIIBがTPPを加速

一方、オバマ大統領に名指しされた中国側はどうかというと、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の立ち上げを主導しており、今月15日には「創始メンバー国が57か国に決定した」と発表している。アジアインフラ投資銀行は、日本が歴代総裁を送りこんでいるアジア開発銀行(ADB)と設立主旨が類似していることから、中国がADBや世界銀行、IFMという戦後の米日中心の国際金融システムに対抗すべく設立を企てたとの見方がある。

しかし、世界を驚かせたのは、米国の同盟国である英国、ドイツ、フランス、オーストラリアまでAIIBへの参加を表明したことだ。この流れは冷静に捉えておきたい。中国は世界第2位の経済大国であり、ドイツはVWが中国で売りまくっているし、オーストラリアも天然資源などの輸出先として中国は欠かせないお客様となっている。今や経済面では、中国なくしてやっていけない国が多数存在するということだろう。

◆「スポーツ・モデル」ブーム復活のチャンス

こうした中国の動きからも、TPPは何とか早く決着しなければならないというのは、日米政府の意見が一致するところだろう。では、自動車産業は、このような状況にどう対応すべきか。

当然、TPPは、自動車産業にとって大きな追い風となる。輸出関税が下がれば、完成車の日本からの輸出は再び元気を取り戻すだろう。特に、私が期待しているのは、トヨタ『86』のようなスポーツ・モデルの日本からの輸出拡大だ。これまで、スポーツ・モデルは、日本でのマーケットが縮小したために、採算が取れないという懸念からモデル数が大幅に削減されていった。また、輸出先するとしてもヨーロッパなどでは競争が激しく、しかも関税が10%もかけられたのでは勝負ができなかった。これからは、アジアがある。アジアの若者がスポーツ・モデルに興味を持ち出しており、TPP(関税縮小・撤廃)により日本でスポーツ・モデルつくる経済合理性が確保できてくる。日本のメーカーがスポーツ・モデルで競争する時代が再びやってくることを期待している。

◆自動車部品産業もチャンス拡大

もうひとつの大きなビジネスチャンスは、日本からの「自動車部品の輸出拡大」だ。アジアのマーケットでは、間違いなく環境基準や燃費基準が厳しくなっていく。この傾向は、経済の発展、都市化の進展に伴って、環境問題が拡大していることから明らかである。日本の自動車部品産業は環境技術をさらに磨けば、TPP(関税縮小・撤廃)を通じてさらに大きなビジネスチャンスが待っている。もちろん、欧州、アメリカのメーカーも同様にアジアにフォーカスしてくることから、日本での一層の技術革新が輸出拡大の条件となってくるだろう。

最後のもう一つ、考えておきたいことがある。ADB(アジア開発銀行)の構造改革に自動車産業など民間が関わることを提案したい。アジアのインフラ開発は、人口増や都市化問題の拡大で、待ったなしの状態である。この問題解決には、資金だけでは駄目だと思う。都市設計をマネイジする「人材」、そして、「テクノロジー」がそろって、初めて資金が生きてくる。日本には、この「人材」も「テクノロジー」も存在するわけだから、ADBの資金力とセットでアジアのインフラ開発をサポートするスキームをつくってはどうかと思う。

AIIBが出てきたことで、いい競争相手が生まれたということだろう。決して敵対するのではなく、お互いが切磋琢磨して「協調と競争の精神」で競うことが世界の発展に繋がると思う。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事

《土井 正己》

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