【スズキ エブリィワゴン 試乗】超トール系ワゴンとも異なる、独自の良さを主張…家村浩明

試乗記 国産車
スズキ エブリイワゴン ハイルーフ
スズキ エブリイワゴン ハイルーフ 全 16 枚 拡大写真

新型の『エブリイワゴン』は、その乗り味が妙に印象に残るクルマである。このワゴンと商用車の『エブリイ』は、クルマとしてハッキリ作り分けられていて、たとえば、その足は乗ってみてすぐわかるくらいに異なっている。

カタログによれば、エブリイはその最大積載量が350kg。そして、4人が乗車して、かつ250kgのカーゴが積載可能で、この場合は4人の体重と併せると500kg超という負荷になるはず。

したがって、それに対応する堅牢な足になっており、そういうクルマに乗員一人状態で試乗すると、サスはまったく“動かない”というのに近いことになる。クッションがほとんどない硬いバネの上に載せられて運ばれる、そんな感覚のクルージングだ。

しかし、エブリイワゴンでの走りはそうではない。確かにがっしりと硬いが、しかし、硬いなりに乗員を“もてなす”という足になっていて、これは「乗用車」として十分なものだと思う。車重自体も、ワゴン仕様はエブリイより重いが、その事実も含めて、このワゴンはいい意味で重量感がある、納得できる乗り味になっている。

ヒップポイント(前席座面の地上からの高さ)は809mmと、数字としては高いが、そのシートに乗り込むためのステップが地上から355mmのところに設けられている。Aピラーにはグリップがあり、それを掴んで、そしてそのステップからは約450mmの高さに座面があるという設定の前席に乗り込むのは、ストレスもなくスムーズだ。

そしてエブリイワゴンでは、前席の座面はベンチシート・タイプになっていて、助手席と一体化して分離がない(背もたれは独立しているが)。また、バケット風に左右の縁が盛り上がっているということもない平らな形状で、このことも、前席へのアクセスがしやすい原因になっていると思う。

シフトレバーもインパネに付いているので、足元はフリーであり、いわゆるウォークスルーは容易だ。助手席側から乗り込んだ場合でも、これなら何の問題はないだろう。

エンジンは、商用エブリイよりも車重があること、そして「乗用車」であることを考えてか、エブリイワゴンではターボ仕様だけが用意される。このパワーユニットは、太いトルクをフラットに吐き出すというセッティングで扱いやすく、ターボの装着を意識することなく気楽にアクセルを踏める(実は試乗しながら、ターボ車であることはすっかり忘れていた…)。

インテリアで驚くのは、スペースの徹底活用というか、物入れの類が至るところに設定されていること。運転席周りでは、ホルダー、トレイ、そして何かを掛けられるフックなど、さまざまな物入れやエクィップメントがあり、さらに頭上にも蓋付きの“棚”が準備されている。たとえば、携帯電話はここに、カード類はあそこに…とか、そうやってそれぞれ専用のスペースを決められそうな豊富さだ。

このクルマは、前述のようにヒップポイントが高く、いわゆるハイト系の軽ワゴンよりもさらに高いポジションに収まってのドライビングになるが、郊外の空いたワインディング路を走っても不安はない。むしろ、路面へのしっかりした足の“食いつき”を愉しみつつのコーナリングができる足で、硬めのサスペンションによるロールの少なさは、逆に安心感を呼ぶという感じだ。

この乗り味と、そしてこの走りなら、昨今車種が増えている「ハイト系乗用ワゴン」の全高をさらに高くした「超トール系ワゴン」と較べても、このエブリイワゴンは商品性として十分に競争力があると思う。

多くの「超トール系乗用ワゴン」が乗り心地重視で、ひたすら柔らかなフィールにまとめようとしているのに対し、いわば「トラックの足」から「乗用車」方向に向けて、そのネガな部分だけを取り去って行こう、こうした流れでセットアップされたと思われるエブリイワゴンの足は、「硬いけどイイ!」というこのクルマだけの乗り心地を生み、他車にはない独自性を主張している。

また、このクルマは、乗員が前輪の上に乗るセミ・キャブオーバー・タイプ、そしてエンジンが前席の下あたりにあって、そこから後輪を駆動するというレイアウトである。そのため、前後バランスとしてフロントヘビーではないという特性がある。

ゆえに、ワインディング路を走るような場合でも、前が重いという感じが少ない。このエブリイ、実はフロント・ミッドシップ+後輪駆動なので、ハンドリングにおける、ある種の軽快さと気持ちよさは、この点にも起因していると思う。

…というわけで、この新型エブリイワゴン、もし「超トール系乗用ワゴン」に注目しているのであれば、そのカウンター・カルチャーとして検討に値するモデルであると見た。「実用車」としてのワゴンを徹底追求したことから生まれた、新種の乗用車、それがエブリイワゴンである。

そして個人的には、このワゴンに、ターボエンジン仕様しかないのが惜しいと思った。このモデルに「速さ」を求める人はいないはずであり、しかし、車重に対してトルクがほしいというのが現状のメーカーとしての判断だったのだろうか。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★ 
オススメ度:★★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナリスト
1947年、長崎生まれ。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。著書に『最速GT-R物語』『プリウスという夢』『ル・マンへ……』など。

《家村浩明》

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