【ホンダ ステップワゴン 試乗】わくわくゲートなしはもう考えられない…中村孝仁

試乗記 国産車
左サイドミラーに注目。こちら側にもミラーが付いているのがわかる
左サイドミラーに注目。こちら側にもミラーが付いているのがわかる 全 18 枚 拡大写真

新型『ステップワゴン』の発表会の折、このわくわくゲートを見て真っ先に思ったことは、同じように縦にも横にも開くトラックのあおりを考案したホンダ『リッジライン』との関係だった。あのアイデアが生きているんだなぁ…と。

ところが、開発主査(ホンダはLPLと呼ぶ)、袴田仁氏の答えは意外にもNOだった。袴田氏の頭の中には、ドアの中にドアを構築するというアイデアが支配的で、横にも縦にも開くという点については、あまり考えていなかったようである。実にこのドア、袴田氏自身が取得したパテントがあるそうだ。

それはともかくとして、実際に使ってみると本当に使い心地よく、しかも便利。テールゲートが大型化した今は、それこそ電動のテールゲートが欲しくなるほど重いし、何よりも大きいからしかるべきスペースがないとちゃんと開けることが出来ない。その点、このわくわくゲートは開き方もほんの少しから最大まで3段階にちゃんと止まってくれる。だから、僅かなスペースでのものの出し入れや人の乗り降りが可能なのだ。

因みに最廉価モデルのBと呼ばれるグレードには、このわくわくゲートが付かない。有ると無しの値段差は20万円。もっともそれ以外の装備差も絡んでくるので、わくわくゲートが20万円プラスという意味ではない。営業車として使うならともかく、これ無しのステップワゴンなど考えられない。

さらに良いなと思ったのが、3列目シートの折りたたみ性能の良さだ。一応ストラップを引く、床に押し込むという2ステップを採ると説明されているが、実際にはほぼワンタッチでというか、ワンアクションで操作が可能。

まずは片側のシートを折りたたんで乗り込み、わくわくドアを閉めて着座、というところまでほんの数秒である。そのままウォークスルーで1列目まで行くことも可能だから、車幅ギリギリのところに止めてしまっても、最後の手段として後ろから乗り降りということも可能だ。

さすがにこの機構のため、3列目シートは座面、背もたれともにフラットで、座り心地が良いとは言えないが、ワイワイガヤガヤやっている子供たちにとっては、恐らくそんなことはお構いなしだろう。一方で2列目はサイズもたっぷりとしていて快適だし、前後にたっぷりとスライドしてくれる。

おいおい、そこまで必要か?と思えたのが、室内に装備される、ボトル&ドリンクホルダー16個とコンビニフック10か所。すごいとは思うけど、果たして使うのかなぁ…。

エンジンは1.5リットル4気筒直噴ターボ。先代までは2リットルNAの4気筒だった。いわゆるダウンサイジングターボというやつだ。性能は先代までとほぼ同等。若干トルクが増しているが、それほど大きくは変わらない。しかし、乗ってみると僅か1600rpm~5000rpmという広い範囲で最大トルクを出してくれる扱い易いエンジンに生まれ変わっていて、テーブルトップ型最大トルクの有り難味を感じさせてくれる。

まあ、引き合いに出してしまうのは問題あるかもしれないが、僅か1.4リットルではるかに高い最大トルクを出しているVW『シャラン』のエンジンと比べると、性能的にはまるで歯が立たないが、その分燃費に振って17km/リットルという燃費を達成しているのだから、性能は我慢というところだろうか(向こうのJC08燃費は13.5km/リットルだ)。ダウンサイジング化されたことによるメリットはそれだけではなく、自動車税も安くなること。たった5000円かも知れないが、平均的に最近の保有年数は10年ほどだそうで、しめて5万円のお得ということになる。

走りはどうか。「スパーダ」を褒めちぎってしまって、そのメリハリの良さを痛感した後に乗ったのがステップワゴンだった。一言で言えば、スパーダよりも何もかもがマイルドな印象。例えばステアリングを素早く切ると、スパーダだと語呂合わせではないがスパッと行くのに対して、ステップワゴンの方はそうでもない。スパーダのシュアな印象は、クルマの運転を楽しみたい言わばマニア向けで、特に運転を楽しむという考えがなければ、こちらの方が良いかもしれない。乗り心地も十分にフラットだが、スパーダほどではないし、運動性能的にも僅かながらフィルターのかかった印象がスパーダに乗った直後にこちらに乗ると感じられる。ただし、前述したようにマイルドな印象が強いから、単純に乗り心地という点になるとこちらに軍配が上がるかもしれない。

「ホンダ・センシング」と呼ばれる安全運転支援システムがメーカーオプションなのは少々残念。本来なら標準装備にしてもらいたい装備ばかりだ。機能は7つあり、いずれも大事なものばかりだ。とりわけ誤発進抑制機能や車線維持支援などは、高齢者のドライバーには必須アイテムだと思う。また、前車追従機能を持つクルーズコントロールACCも有難い装備だが、30km/h以下で切れてしまうのは残念だ。

そうそう、静粛性の高さも大いに評価できるものだった。この種のモデルの試乗を一人で行うと、実際の静粛性などなかなか認識できない。今回はそれを踏まえて3人で試乗した。だから、すべてのシートの着座感覚とその位置での静粛性を体感した。例えば3列目とドライバーズシートでも走行中にごく普通に会話できる。これは凄いと思えた。

不満というほどのものではないが、車両左側前方、即ちちょうど左前輪あたりを確認するためのミラーがAピラーの室内側に装備されている。これ、左サイドミラーの前側に付くミラーに反射させてみる仕組みで、Nボックスの時にも使ったアイデア。しかし、まず小さいうえに、まるでサイドミラーがあたかも二つ存在するように見えてしまう。それに外側サイドミラーに張り付けてあるミラーコートもあまり質感が良くなく、あまり意味をなしていない気がする。

という細かい不満はあるものの、このクラスのミニバンとしては使い勝手、乗り味ともに最高の1台だと思えた。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 伝説のACコブラが復活、「GTロードスター」量産開始
  2. トヨタ『ランドクルーザー300』初のハイブリッド登場!実現した「新時代のオフロード性能」とは
  3. ようやくですか! 新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』日本仕様初公開へ…土曜ニュースランキング
  4. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
  5. 【BYD シーライオン7 新型試乗】全幅1925mmの堂々サイズも「心配無用」、快適性はまさに至れり尽くせり…島崎七生人
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  2. 独自工会、EV減速でPHEVに着目、CNモビリティ実現へ10項目計画発表
  3. 三菱が次世代SUVを初公開、『DSTコンセプト』市販版は年内デビューへ
  4. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  5. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
ランキングをもっと見る