【マツダ 開発者 徹底インタビュー】CX-3 編…ユーザーと作り手の関係性で絆を持つ

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CX-3開発主査の冨山道雄氏(左)と松田陽一チーフデザイナー(右)
CX-3開発主査の冨山道雄氏(左)と松田陽一チーフデザイナー(右) 全 22 枚 拡大写真

5月20日、新型『ロードスター』の発表をもって、2012年発売の『CX-5』に端を発すマツダの新世代商品群6モデルが出揃った。

この3年余りの間、「SKYACTIV技術」とデザインテーマ「魂動」の採用、「マツダコネクト」の導入を一貫して進めてきた同社。『アテンザ』『アクセラ』『デミオ』、そしてロードスターは生まれ変わり、『CX-3』という全く新たなモデルも登場した。

そのラインナップの中で各車の持つ役割と今後目指す方向性をてテーマに、インタビューを実行。今年2月末に登場したCX-3を担当する、冨山道雄 開発主査と松田陽一チーフデザイナーに聞いた。

◆将来性あるセグメントでどう差をつけるか

----:CX-3はブランニューモデルですが、マツダラインナップの中でどのような使命を担い誕生したのか、改めて教えてください。

冨山道雄 開発主査(以下敬称略):今ある車型の概念にとらわれることなく、新しいジャンルのクルマを作ろうということで考えてきたクルマです。また「次の時代のスタンダードになりたい」という思いで投入したもので、既存ジャンルの競合車と対比させて物事を考えたのではなく、我々として提案できる「コンパクトカーの理想像を具現化」したものだと考えています。

----:一般的な概念ではCX-3はコンパクトSUVというジャンルのモデルだと思います。その次の時代のスタンダードとは何を目指しているのですか。

冨山:色々な生活シーンの中にピッタリくる、ライフスタイルを表現できる存在、そして都会で使っても取り回しが良く、実用性が高く丁度良いサイズ感を持ったクルマ。それが次の時代のスタンダードになり得るクルマの条件だと思います。SUVというと、どうしてもオフロードとかレジャー用途が想起されがちなので、そうではなくてもっと都会的でスタイリッシュなパッケージングを目指しましたから、クロスオーバーと呼ぶにとどめています。

松田陽一チーフデザイナー(以下敬称略):今は、国内外を問わず各自動車メーカーが近いコンセプトのモデルを出しています。それも発売された時期がほぼ横並びじゃないですか。ということはライバルを見ながら作ったというわけではないんですよね。どこのメーカーも考えていることは同じで、グローバルで見た人間の生活スタイルとかダウンサイジングのトレンドも含めて、このセグメントに可能性があるということでしょう。その中でブランド表現を各社ともしています。だから似ているようでそれらはいずれも違う。それがブランドがやりたいことの“差”だと考えています。

----:魂動デザインのモデルが6車種出揃ったわけですが、CX-3が果たすべきコンパクトクロスオーバーデザインの方向性について教えて下さい。

松田:まず、マツダデザイン全体としては動きとか生命感の表現という大きなテーマがありますので、そこについては延々と追求していくエンドレスなテーマです。CX-3についてはマーケットの中で今非常に良いポジションにあると考えています。スタイリッシュで使い倒せて、他車に対してもそうした特徴を鮮明に出せているので、そのポジションを守り続けていくことが必要です。ライバルが登場して存在感が薄れることの無いよう、常に「CX-3が一番スタイリッシュで先鋭的だね」と言われ続けていかなければいけないと思っています。

----:魂動デザインをCX-3に落とし込んでいく段階で、どのようなところに一番注意されましたか。

松田:「生命感」です。今回はシャープでソリッドでエッジの効いた形を目指しているんですが、突き詰めると冷徹になって生命感が薄れてしまう。それをどこで踏みとどまるか、がポイントでした。

----:今回、人馬一体の原点のクルマ、新型ロードスターがデビューしましたので、CX-3の走りについても聞かせてください。

冨山:スポーツカーの人馬一体とは違うと思いますが、ドライバーの操作に対してリニアに反応するという点では精力を注ぎ込んできました。CX-3は車高が高く見晴らしが良いのですが、その高さを感じさせないコーナリングフィールを目指した。そこがこのクルマにおける人馬一体の表現だと考えています。高さ方向の自由度がありましたから、当然乗り心地も上質感を演出するチューニングをしてきました。

◆造り込みとポジショニングでユーザーに訴える

----:発売直後は、約1ヶ月で1万台を受注するなど大きな反響を呼びましたが、現在の販売状況はいかがですか。

冨山:少しクールダウンしましたが、依然として順調と言えます。販売店に聞くと「商談に時間がかかっている」とのこと。これは従来のマツダ車の顧客以外の方がいらっしゃっているためです。そこで、まずはマツダというブランドを理解してもらうことから始めて、その上で同車の理解を深めて購入していただくというプロセスを踏んでいるのです。

----:CX-3は、これまでマツダファンにはいなかった層にもアピールしているクルマにように思えますが、それはズバリ輸入車を買っていた層ではないかと思います。乗り換えのケースはありますか。

松田:ブランド全体でそういった傾向があります。中でもCX-3の顧客層は輸入車からの乗り換えが多い状況。輸入車だけでなく他銘柄からの乗り換えが一番多いのもCX-3です。

----:その理由はどこにあるとお考えですか。

まず輸入車からの乗り換え層に関しては、例えば内装の作り込みだったり存在感が、ようやく輸入車と劣らないレベルに達しているところが大きいと思います。国産他銘柄車からの乗り換えで言うと、CX-3のような選択肢がなかったところに出てきたという点にあるのではないでしょうか。

----:内装にピュアホワイトと呼ばれる白いレザーを設定するというのは、随分大胆な決断だったと思いますが。

冨山:まずすべてのクルマを変えていこうという考え方があって、その具体的な手段の一つとして白レザーの内装をすべてのクルマで使って行こうというのが全社的な戦略の中で決まったことでした。

松田:ソウルレッドのエクステリアにホワイト内装の組み合わせが、マツダの一つの象徴的な考え方になっています。「白は汚れる」と言われることは想定内で、そのためのコーティングもちゃんと施していますから耐用年数も長いと思います。

----:今回、国内仕様車のエンジンはディーゼルのみですが、どうしてそのような設定にしたのですか。

冨山:一つはクロスオーバーで求められる力強い加速感や環境性能、それに経済性が高次元でバランスしているということ。もう一つは特定のポジションにしっかりと置きたいと思いましたから、その部分を先鋭化したかった。それが理由です。ガソリンエンジンをラインナップすると数は出るかもしれませんが、価格帯が広がってポジショニングがボケます。会社全体としてブランドをプレミアム化させていくという中で、位置づけを確実にしたかったのでディーゼルだけにしました。

----:ということはマツダというブランドそのものをプレミアムな方向に持って行くということですか。

冨山:そうです。もちろんあくまでも目指すということで、まだ道半ばです。そういう心意気でやっています。

松田:ただプレミアムという言葉で切るのではなくて、ユーザーと作り手の関係性で絆を持つということが、我々の考えているプレミアムということです。

冨山:CX-3を例に挙げれば、大多数の中の公約数を狙うのではなくて、ピンポイントである特定のユーザーに熱烈に愛されるクルマを目指そうということでやってきました。 その愛した人たちが情報を発信してくれれば、その周りを引き込んでくれる。はじめから網を広げるのではなくて熱狂的なファンとの絆を強くしたうえで、今度は彼らのネットワークの中でマツダの評価が広がって行けばいい。そういうブランディングをしていきたいと考えています。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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