顧客ニーズから捉えなおす、コネクテッドテクノロジーの2020年…フロスト&サリバン

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6月4日フロスト&サリバンジャパンによるGIL 2015: Japanが開催。同社自動車・交通運輸部門シニアコンサルタント森本尚氏が「コネクテッドテクノロジーによって生まれ変わる自動車業界」と題して講演を行った。
6月4日フロスト&サリバンジャパンによるGIL 2015: Japanが開催。同社自動車・交通運輸部門シニアコンサルタント森本尚氏が「コネクテッドテクノロジーによって生まれ変わる自動車業界」と題して講演を行った。 全 6 枚 拡大写真

6月4日フロスト&サリバンジャパンによるGIL 2015: Japanが開催された。同社自動車・交通運輸部門シニアコンサルタント森本尚氏が「コネクテッドテクノロジーによって生まれ変わる自動車業界」と題して講演を行った。

森本氏は日産自動車にて9年間にわたり自動車開発業務に従事、ビークルセーフティに関する分野が専門だという。

◆コネクティビティの価値は年間1台あたり700ドル

森本氏はまずコネクティビティが自動車にもたらす価値を説明する。「様々なサービスを含めると年間1台あたり700ドル、現状よりも何らかの利益をもたらす」と見積もる。またこの文脈でのビッグデータの価値を強調する。「ビッグデータを活用することによりOEMはクルマ1台あたり年間700から1500ドルを得る。データをモビリティとの関連で論じると、データはモビリティインテグレーションを実現するビジネスモデルを可能とするためのコネクテッドサービスのうちの75%を占める」(森本氏)。

世界各地でのコネクテッドカー市場について「北米では高速通信のネットワークサービスが拡充されていて、自動車とのコネクティビティも非常な高まりを見せている。ブラジルでは、盗難対策としての位置追跡システムが2016年に向けて進んでおり、結果として車両に通信機器が備え付けられることとなる。中国については具体的な法規制なるものが存在しない、車載製品に関する関心が高い状況という意味で重要性を持ち始めている」とコメントした。

◆2020年コネクテッドカー市場、日本は欧米に出遅れる

2015年から2020年にかけては欧米が日本よりもより浸透することが見込まれている。2015年現在北米が56%、ヨーロッパは25%、日本は18%、中国は15%の普及率であるところから、2020年にかけて北米では99%、ヨーロッパでは75%、日本では53%、中国では50%へ普及率が高まるという予測だ。

特に2017年を境に、ヨーロッパのコネクテッドカー普及が高まると予測されているが、「eCall」やテレマティクスに関するバリュープロポジション(顧客へ提供する価値の組合せ)が、規制に制約されるため、その利用は依然限定的でありつづけるという。また森本氏は「日本の普及率はもっと高くなってもよいと思うところだが、日本は欧州ほどには前向きな、積極的な施策がない」とコメントした。

◆消費者はクルマに「現実的な」機能求める

価値が叫ばれながらも伸長しないとされるコネクティビティとは具体的に何を指すのか。森本氏はコネクティビティが関連するサービスを、動的なナビゲーション・リアルタイムの交通情報入手・メッセージのやり取り、と挙げてゆく。

またここで、サービスを考える上での根本的な問いへのリサーチ結果を森本氏が紹介した。フロスト&サリバンによる“実のところ消費者はクルマに何を求めているのか”という調査(コネクテッドサービスが進んでいる、欧州及び北米を対象に、既にクルマを持っている人に対して、次に買うクルマを選ぶ際に何を重視するかを問うた)結果から「テレマティクスやコネクテッドサービスといったものは今のところそれ程重視はされていない事がわかる。実際のところは安全性や価格の方に注目が集まっている。例えばヨーロッパにおける2014年の調査において、全セグメントを通じてみるとWireless Charging Pad(2位、27%)やNavigation アプリ(4位、16%)など現実的なものが好きだということがわかる」と説明した。

続いて2014年欧州で「クルマに居る時スマートフォンを使って何をしているか」を調査したものの結果が報告された。

よく行われていることには「Bluetoothを使ったハンズフリーの電話60%」「運転をしていないときにメッセージやメールのやり取り48%」「スマホに貯めた音楽を聞くこと45%」の三つが挙げられた。またクルマに繋ぐことなく、ナビゲーションアプリを使用していることも37%に上り、重要なファクトと位置付けられた。一方であまりされていないことには「TVを見ること 16%」「ビデオを見る、聞き流すこと18%」「オーディオブックやPodcast を聞くこと22%」などが挙げられている。

森本氏はこの調査を受け、「こういった需要が実態としてある。市場を踏まえて色々なサービスを提供する上では地域的セグメントや性別を考慮しながらきめ細かなサービスの提供が求められている」とコメントした。

◆アップルと自動車業界 誰にとっての脅威か

コネクテッドサービスにはセキュリティ問題が関連し、顧客からの関心も強い。(森本氏)セキュリティ問題については「あくまで理論上だが、クルマにはハッキングなどのリスクのあるところが50か所程ある。現状で明確に危ないというわけではないが、もし1台でもあればサービスに致命的な影響を与えるため、未だに、見えないけれど大きな問題といえる」という。地域的なインパクトについては「自動化に向けた早期の後押しや迅速に浸透するコネクティビティを背景に、北米ではOEMらがイニシアティブを執ること、GMやフォード等の企業が積極的に関わっていくことが予測される」という。

最後に森本氏は「コネクテッドサービスに影響を与えるICTのジャイアント」ことAppleのCarPlayが市場需要にどのような影響をもたらしうるかに言及した。

「現在33のOEMがパートナーシップを結んでいるCarPlay。主にインフォテイメントを重視したもので、それ以外の車載OSに入ってくるものではない。CarPlayを支える通信機器の一つとしてiOSがあるが、2013年の世界のOS市場シェアを見ると、日本ではiOSが68.7%と高くなっている一方イタリアやドイツではほとんどがAndroidである。したがってCarPlayがグローバルで一様に喜ばれるかというと一概にそうとは言えない」(森本氏)。

現在Apple(以下、アップル)が追加で特許申請していることが何を意味するかについては
「様々なインフォテイメントのサービスが可能になっていくなかで、iPhoneを使った緊急通報機能などにも広がる方向にある。これはGPSとエアバッグによるセンサーを組み合わせてつくるものだが、同様のサービスを使っている方にとっては脅威と言えるかもしれない」とコメント。

より広範囲のテレマティクスカーシステムにおいて触覚、視覚の双方におけるカスタマイズができること、GPSとエアバッグセンサーを連係させたeCall911と呼ばれるiPhoneの使い方について、アップルが追加の特許を申請している。これらの特許をコックピットのエリアに使う場合は明らかにより強い意図があることが窺える。DelphiやコンチネンタルAGなどの、テレマティクススペースにおけるサプライヤーに対しては大きな脅威になりうるという(森本氏)。

◆自動車業界のOEMが既存のソリューションを活かす時

アップルが自動車産業に参入することは、1年から2年サイクルで稼働するスマートフォンやコンシューマデバイス等の産業に不慣れな自動車企業にとっては実際にはとてもいいニュースだ。OEMらは、クルマに(これまでの常識を)打破するようなイノベーションをもたらすための広範なタイムラインを設定していて、コネクテッドカーを切り口に稼ごうともがいている。しかしこの分野でのビジネスモデルについて詳しくは知らないことが言え、あまりリターンの無い投資に対しても、年に何十億も研究開発投資をしなければならない。CarPlayを通じて “自動車のOEMが、既に出来あがっているソリューションを利用できる”可能性がある。(森本氏)

以上講演ではコネクティビティを活用したサービスの可能性を、そもそも顧客が自動車に求めることや自動車で常用するサービスに触れながら説明された。コネクティビティの可能性が声高に叫ばれる一方で、セキュリティ問題への対応は急務で、この点現在のところは北米企業がイニシアティブを執ることが見込まれるという。森本氏はコネクティビティの活用、普及において日本が立ち遅れることを危惧しており積極的な施策の必要性を訴えた。

《北原 梨津子》

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