自動車関連企業にも新風、新産業を創造する“サイバーフィジカルシステム”とは

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6月4日フロスト&サリバンジャパンによるGIL 2015: Japanが開催。「2015年~その後の日本およびグローバルICT展望」と題してフロストサリバン日本オフィス情報通信技術リサーチ部門長マーク・アインシュタイン氏が講演を行った。
6月4日フロスト&サリバンジャパンによるGIL 2015: Japanが開催。「2015年~その後の日本およびグローバルICT展望」と題してフロストサリバン日本オフィス情報通信技術リサーチ部門長マーク・アインシュタイン氏が講演を行った。 全 17 枚 拡大写真

6月上旬、フロスト&サリバンジャパンによるカンファレンスイベント「GIL 2015: Japan」が開催された。自動車関連パートのセッションでは、情報通信技術リサーチ部門長マーク・アインシュタイン氏が「2015年~その後の日本およびグローバルICT展望」をテーマに講演。アイシンシュタイン氏のスピーチ要旨をレポートする。

◆「ICT供給から、ビジネスサービス提供へ」

現在は、「何をビジネスとしているかに関わらず、すべての企業をICT企業と呼べる時代だ」というアイシンシュタイン氏。「今やすべてのモノがインターネットと繋がる将来を、すべての人が確信しているのだから」。

2012年には、世界で3.2兆ドルがICT(ソフトウェア、ハードウェア、コネクティビティ、テレコム)に支払われている。2017年にはこれが5.6兆ドルに成長すると言われているが、スマートグリッドや製造業、スマートシティ、コネクテッドカーなどの領域が伸びるのであって、伝統的なICTはあまり伸びないということに注視したい。

「成長する可能性のある領域は、業界特有の活動に新しい技術を浸透させるところにある。伝統的なICT製品やサービスは成長を牽引できなかったため、今こそビジネスニーズや変革、イノベーションにフォーカスを移して戦略やオプションを評価する必要がある」(アインシュタイン氏)。

◆サイバーフィジカルシステムが新領域を創造する

ここで同氏は、IoTによって可能となる「サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical Systems)を提唱する。サイバーフィジカルシステムとは、ICTよりも一段上のもので、4つの領域から説明できるという。その4領域とは、「Cloud and Software Defined Paradigm」「Embedded systems & IoT」「Mobility and network connectivity」「Big Data Analytics」だ。それぞれが融合、交差することによって、新しい産業が創生され成長していくとアインシュタイン氏は説明する。

1 Cloud and Software Defined Paradigm(クラウド&ソフトウェアディファインパラダイム)

Cloud and Software Defined Paradigmとは、サーバーやストレージ、ネットワークといったコンピューティングリソースを最適に活用できるようにするためのソフトウェアおよびクラウドのフレームワーク。このパラダイムが進化することで、ITインフラ全体の運用管理が自動化され、膨大なデータを効率的に処理できるようになる。「アクセスが容易で、対費用効果の高いストレージが実現し、プログラミング可能なネットワークが新しいビジネスアプリケーションを創造する」とアインシュタイン氏は述べる。

2  Embedded systems & IoT(組み込みシステムとIoT)

IoTという概念は皆が理解をしていて、IoTにおけるビジネスモデルを考え始めているが、「組み込みシステム」を再設計することでクラウドソリューションと完全に自律するエンドデバイスとのリンクが構築される。2020年には、800億ものコネクテッドデバイスに囲まれると予測されており、これは一人につき10のコネクテッドデバイスがあることを意味する。「3,4年前は、「おもしろい物語だね」というくらいの人々の認識だっただろうが、今日私は物語を超えた(現実の)ものとして話したい」(アインシュタイン氏)。

3 Mobility and network connectivity(モビリティとネットワークコネクティビティ)

スマートデバイスとネットワークの進化により、コネクティビティはユビキタス(いつでもどこにでもあるもの)になる。そして信頼性の高いネットワークコネクションをつくることができれば、実際の世界とバーチャルな世界とを合わせることが可能になるという。

4 Big Data Analytics(ビッグデータアナリティクス)

マシンやコネクテッドデバイスにおける構造化されていない膨大なデータを取得し、分析にかけることで、このデータは指数関数的な価値の増加を発見することにつながる。ひいては様々な産業におけるサービスの向上を促進することとなる、とアインシュタイン氏は予測する。

◆テスラとGM リコール例をもとに説明されるIoTの意義

例えば、ある2つの自動車メーカーが同じ原因でリコールを発表した際、IoTが「顧客体験及びコスト削減の点で極めて重要な違いを生む」ということが明るみに出た。2014年の1月、米国政府がテスラとGMにリコールを命じたが、テスラの2万9000台のクルマはソフトウェアアップグレードを通じて、自動的に修正されたのに対して、GMの38万台のクルマは全てディーラーショップに運ばれなければならなかった。

現在効果を上げているIoTサービスとして、ディズニーランドの事例も挙げられた。ウォルト・ディズニーは、フロリダのディズニーランドの市場シェアが右肩下がりに直面したことを受け、テーマパークの最新化にあたりIoTに着目、10億ドルの大規模投資に踏み切った。

具体的には、これまで使い続けていたクレジットカードやカギ、現金、チケット、カメラ、待ち行列などのシステムを刷新。「MyMagic+」とよばれるRFID(電波方式認識を用いた電子タグ技術)を導入し、ウェアラブルなリストバンドによって物品の購入、写真の動機、入場管理、ホテルの部屋のカギとして用いることができるようになった。

ここで得られるビッグデータは、さらなる来場を促すために用いられる。MyMagic+の導入は、25%も待ち時間の削減につながり、一日あたり追加的に3000人以上の来場者収容できるようになった、という効果をもたらした。

米自動車保険会社の導入 年間150米ドルの節約に寄与

最後に、ビッグデータ分析は新しいビジネスモデルを創造するとアインシュタイン氏は強調する。ウェアラブルテクノロジー領域でも同様のことが言え、例えば健康保険の分野では、British petroleumによる取組みが好例だ。同社は3万の従業員にFitBitのデバイスを貸与。もし一人の従業員が100万歩の記録を出したら、1000米ドルを支払われるシステムにしたという。これは保険契約に基づいてのことだ。

このほか自動車保険では、米国の自動車保険会社プログレッシブ(Progressive)がドライバーの運転状況をモニタリングできるデバイスを提供している。デバイスはクルマに設置できる小さなサイズのもので、このデバイス導入によって平均的なユーザーは年間150米ドルを節約できる。

以上講演ではIoT、ウェアラブルデバイスを活用した具体的取組例とともにアインシュタイン氏が提唱する「サイバーフィジカルシステム」を通じた新しい事業領域の可能性を説明した。自動車関連企業によるビッグデータやウェアラブルを活用した新たなサービス展開にも大きく期待がかけられている。

《北原 梨津子》

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