【ロードスター開発者への10の質問】Q3.人馬一体はどう進化したのか?

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マツダの「走り」を担当する、車両開発本部 操安性能開発部主幹 虫谷泰典氏
マツダの「走り」を担当する、車両開発本部 操安性能開発部主幹 虫谷泰典氏 全 16 枚 拡大写真

『CX-5』から始まったいわゆる「第6世代」と呼ばれる新しいマツダのモデル群。その中でも『ロードスター』は同社が提唱する「人馬一体」を最も体現したクルマと言えるはずだ。

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新型においてそのハンドリングやドライビングフィールはどのように突き詰められたのか? 同社の走りの“味付け”を担当するスーパーエキスパートとも言えるキーマン、車両開発本部 操安性能開発部主幹 虫谷泰典氏に話を伺った。


Q3.人馬一体はどう進化したのか?
A3.人馬一体の究極を現代に再現するため、欠かせなかったのが初代への「原点回帰」だった。

◆キープコンセプトの重要性

----:まず、改めて虫谷さんとロードスターとの出会いについてお聞きしたいのですが。

虫谷泰典主幹(以下敬称略):88年に入社して最初に配属になったのが実験部です。その時にシートを被った初代の試作車が実験場にあって、あれは何ですか?と。これはね、と言われシートをめくって見せてもらったら「うわーっ」とものすごく感動して、初期の予約会に寝袋を持っていって買ったのがロードスターのNAでした。

----:その時の印象は鮮明に覚えていますか?

虫谷:もちろんです。もう手足の延長線上というか、もちろん19歳でしたから極端な話、教習車と家の車ぐらいしか乗ったことがない自分が、あのロードスターに乗るわけです。そうすると、とにかく楽しい感覚があって、それが染み込んだ状態です。あれがベースになっています。

----:現体験じゃないですけど、そこが根底にある、と。

虫谷:根底にはそれがありますね。若気の至りといいますか、ホイール変えてみたり、ダンパーを変えてみたり、色々やりました。でも最終的には純正に戻すんですよね(笑)。その初代は、36万kmを走って、今も現役です。

----:36万kmとは凄いですね。その初代に乗り続けている中で虫谷さんは「人馬一体」というものをどのように感じ、考えてこられたのでしょうか。

虫谷:人間の感覚の中で、ロードスターってすごく安定しているかって言うとそうでもないし、実はものすごくゲインが高いかっていうと、ロードスターよりもゲインが高いクルマは実際あります。初代の1.6リットルエンジンが120psでしたが、アメリカからはパワーを倍にしたら2倍クルマが売れる、と要求が来るわけです。もちろん、せっかくいいクルマだから「もうちょっと」っていうニュアンスですけどね。でもそれに応えてしまうと、パワートレーンなどが大きく重 たくなってしまいます。

----:だけど、守るべき所はしっかり守ってきたと。

虫谷:キープコンセプトということです。失礼な言い方かもしれませんが、他社からも色々なクルマが出てきましたが、結局ロードスターだけが生き残っている。うちはキープコンセプトでやってきて、それってやはり重要だよね、と。クルマとか時代背景というものは変化しますけど、やはり人間の感覚に合っているというのはそんなには変わらない。「いいものはいい」というのは普遍的で、それを継承しているところに自分が開発として携わってこれているのは誇りに思います。

◆商用車開発で鍛え上げたロールすることの意味

----:よく我々の間では「虫谷流」じゃないですけど、独自の理論と哲学をお持ちと聞きます。「人馬一体」に繋がるその理論はどこから来たのでしょうか。

虫谷:NB(2代目)では信頼性を担当していて、操縦安定性に関して最初に手がけたのは『タイタン・ダッシュ』というトラックでした。構造的にも凄く不安定になりがちなクルマで、ロール高とか重心高とかが高くなるので、足を固めたり、普通考えますよね。ロールが大きくなったらそれを止める。ただ、ロードスターの感覚が染みついているので、ロール? いいじゃん、別に、って(笑)。

----:ロードスターはそうではなかった?

虫谷:ロールしようとしている車を、逆に止めたらまずいわけです。クルマを行きたい方向に行かせる。逆に人間の感覚に合わない感覚でロールすると、やっぱり危ないですし。もちろん耐転覆とかスピンするかしないかとかは当然ケアをしながら、ある程度のロールを許容しながらやっていました。一方でその当時社内では、ロールが大きのは悪だ、みたいのがあったわけです。一方、俯瞰して見てもらうと、ロードスターって結構ロールするじゃないですか、ということになる。

----:その頃はロールを抑えるクルマが全盛だったわけですね。

虫谷:そう、シュンシュン動くようなクルマが多かったです。でもそれは違うだろうと。「人馬一体」っていうのはクルマがロールする量と同じように人間もロールするという感覚。つまり人間とクルマの感覚が一体にあるのがベースですよね、と。でも一般的にはそうはなっていなかった。

----:その後、一度ヨーロッパに駐在されているんですね。そこで得られたものはありましたか?

虫谷:自分の中で、ヨーロッパのこの考えが通用するのか?というのがありました。当時はフォードの傘下でしたから、この中でアストンマーティンやジャガーなどのプレミアムメーカーと一緒に参加したんですけど、間違いなかった、と。マツダは高価格車を売らないメーカーなんですけどね。

元気のいいスポーティなクルマを作っているというのがマツダの位置付け。それを伸ばしながら、我々の企業体力とキャラクターをどう出すかっていうのを考えると、すでにロードスターでやっているじゃないか、と。その味を統一したいというか理想はこうだよね、ということになったわけです。その時、プレミアムメーカーの方や、ジャッキー・スチュアートさん(注:元F1世界チャンピオン)と一緒に乗っても同じことを言うわけです。

----:もはや確信ですね。

虫谷:要は、人間が最終的に操るんだから、人間が操りやすくするのが理想だよね、と。それで、僕の中で「あっ、これだ」と考えが固まりました。その後、駐在から帰ってきて担当したのが現行の『プレマシー』でした。するとこれが、自分の考え方と違うわけです。具体的には(また)ロールしちゃいけないということでロールを止めようとするものがいっぱい入ってるんですよ。リバウンドスプリングなどが一例でしたが、車がロールしたがってるのだから、素直にさせてあげればいい。ただ当時社内では全然理解されませんでしたね。だから、「こうすればここがこうなる」というのを繰り返して、本当に5km/h、10km/hの積み上げがあってリミットハンドリングが繋がるっていう自負がありました。で最終的に社内説得をしてあの走り味を完成させました。

----:その考えが新型ロードスターにも繋がっている。

虫谷:社内での究極はロードスターです。重量配分から人間の感覚に合うフロントエンジン&リアドライブ。例えばポルシェのRRはトラクション性能やブレーキ性能は抜群ですが自由自在に自分がものすごく低速からコントロールするとか、限界性能でのコントロール性能とかを考えると、人間が操っているという感覚を忠実にサポートしてくれる一番シンプルなレイアウトっていうのはFRだと我々は思っています。もちろん他のエンジンレイアウトを否定するわけではありま せん。

◆人馬一体の究極を現代に再現するための「原点回帰」

----:今までやられてきた人馬一体を含めた体現するモデルとして、一番いいところに来ているということですね。具体的にパッケージというベースもあるんですけど、その下にずっと培ってきた理論を含めて、これをどうやって高めて、突き詰めていくことで、ND型ロードスターのハンドリングは完成したのですか?

虫谷:重量も増えていく中、ポルシェ『ケイマン』や『911』など色んなスポーツカーを集めてテストしました。そうすると、NAのロードスターが1番ロードスターらしいよね、というところに行き着いたわけです。

----:まさに原点回帰ですね。

虫谷:そう原点回帰、完全に原点回帰です。今の時代、普通かっこいいスポーツカーは、タイヤが大きくなってインチアップします。しかしND型は今回インチダウンでタイヤの幅も狭くなっています。それは軽量化であり、サイズが大きくなって薄いタイヤになればなるほど、グリップレベルは上がりますが、コントロールしてるという感覚はだんだん希薄になってきます。乗ってるっていう感覚よりも乗せられてるっていう感覚が増えてくる。その点でもおそらく異例だと思います。

我々は純粋に人馬一体の究極を現代に再現しようとしたらやっぱりこうだよね、と。で、そうしていくと、100kg軽量化という目標があって、色んなところにメリットが出てくるわけです。例えば、5つで止めてたハブのナットが今回は4つにしています。あれも重量が増えれば増えるほど、その辺の緩みとか、信頼性などへの影響があるので、もともと4つのところ5つになっていたわけですが、4つに戻すと。信頼性、強度は大丈夫 か? いやいや、100kg軽くなったんですよ、全然違いますよ、と。例えば今回リアサスのクロスメンバーを見て頂きたいのですが、まるで零戦のように、穴を開けまくっているわけです。

----:グラム作戦でしたっけ。

虫谷:あれだけで700g。ペットボトル+200g位軽量化しています。強度には関係のないところを抜いているんです。あと、よく剛性の話で出るのですが、欧州車などは設計後に「やっぱり乗り味をもう少し変えたい」と、後からブレーズバーなどを追加したりするわけです。もちろん我々だってやりますけど、それでは重量が増えてしまいます。だったら最初から構造自体をこういう形状にすればいい、と。エネルギーロスなども発生しますから、それも最初から考慮して作ったわけです。

----:そこまでやりますか。

虫谷:今までスチールだったのをアルミにする、と言うのは簡単で、重量は軽くなるしパフォーマンス上がるんですけど、値段が上がる。それはプレミアムブランドはできるでしょうけど我々はアフォーダブルな価格で勝負しなければならないからこういう部分も考えるわけです。

----:今回、ダンパーをハブサポートに直付けするっていうのは、今までなかなか技術的に難しかったということでしょうか?

虫谷:そうです。ダンパーレバー比(注:ホイールストロークに対するダンパーストロークの比率)は本来であれば同じ比率であればいいんですけど、アームがあったりデザインの関係上、ぎりぎりのところにダンパーを配置できないのです。ですからダブルウィッシュボーン式であればレバー比は0.7から。ここから離れれば離れるほどその分ダンパーが仕事をしていないということになりますので、こういう構造にしました。

----:動く距離を長くした?

虫谷:タイヤの接地点にできるだけ近づけようとしました。今回ダンパーレバー比を1対1にしたというのはそういうこと。ですからホイールが、ちょっと反応した分すぐに減衰力が立ち上がる。今までは、たとえば、タイヤが1動いて1動かそうとしたら、1.2とか動かないと1の反応がこなかったのが、タイヤが反 応した分だけ、減衰力がバシッと立ち上がるようにしました。そうするとクルマの動きとダンパーの流体の働きでヒステリシス(位相遅れ)が少なくなるわけです。それは乗り心地にも影響します。操安性だけでなく、おそらく乗った感じは、あっしなやかだね。だけどこれで大丈夫か?踏んでGかけても、あれ?大丈夫 じゃないか、何が起こってるんだろう?っていうところはまさにそういう狙いなのです。

----:それがドライバーにしっかり伝わるわけですね。

虫谷:動いている、ということは一歩間違えると不安定なのですが、これを両立しているんです。一方で「安定させる」というのがベースになっているのは、ドイツの車などです。安定性でいったら、彼らの車は安定しきってる感じですけど 「自分が操っている感覚」という見方でいうと…確かにいい車なんですよ。だけど乗せられているっていう感覚。やっぱり我々のDNAである「人馬一 体」というのは、車と1対1になることなのです。

これが難しいんです。難しいですけど、自分が失敗したら、あなた今失敗しましたよっていうメッセージが入る。今の車って、失敗しても制御でコントロールしてくれるじゃないですか。そうすると、本当にどっちが安全なのかというのがわかりにくい。そこでマツダは やっぱり人間中心、人間にプライオリティを置いて、人間がコントロールする幅を設けてやる、という方向性になる。そうすると、最終的には人間が安全装置になれるわけです。でも これ簡単に言いますけど、ロールをするとことを許容するっていうのは相当難しいんですよ。だって、ロール角を大きくすればするほど、普通は不安ですからね。不安にさせないようにするというのは、なかなか大変なんですよ。

◆いつの時代も変わらぬ人間の感覚を刺激する

----:そう考えると本当に、ロードスターの初代の感覚に近ということでしょうか。初代の主査であった平井さんが昔「君達に分かりやすく言うのならば、あえて限界低くしてるから」って。そうじゃないとどんどんいっちゃうから。っていう感覚に近いわけですよね。

虫谷:25年間続けられているのは、あの時のキープコンセプトなんですよ。その間に出てきた色んなクルマが今はなくなったということは…。

----:そうではないアプローチをしたからですね。

虫谷:おそらくそうだと思います。人間の感覚というのは、25年、50年というスパンでは変わりませんから。たとえば25年前っていうのは、100m短距離走 の記録が9秒9とか8とかでした。でもそれが7秒になるってのはないですよね。まぁ9秒5とか少し早くなってきているかもしれないですけど。1mジャンプした人が、急に25年後に3mジャンプしてるってことはないじゃないですか。人間そのものはあんまり変わってないわけです。

----:今までのお話でいうとキープコンセプトはしているけども、今回の4代目に関しては2代目、3代目よりも初代に戻した。

虫谷:うん、モロです。モロ(笑)。話し合った結果、やっぱり初代だよねって。でも初代の感覚を出そうとしたら、要はホイールベースは短くしたいわけです。でもそれをすることは衝突性能、クラッシャブルゾーンとかを考えるともっと伸ばしたい。だけど、運動性能からいうと…。どうやってブレイクスルーしようかなっていうところを徹底的に話し合いました。

----:それを、各種の技術と、それに対する虫谷さんの味付けで結果的に今の時代にも適合するモノと形として具現化した。

虫谷:そうだと思います。だから現代のレギュレーションなど色々合わせなくちゃいけない。例えば他のメーカーだと、新しいポルシェが出ました、あれをベンチマークにしようってなるじゃないですか。だけど、我々も色々、それこそフェラーリからマクラーレンまで乗って、やっぱりロードスターはロードスターだよね、という結論なのです。

《高山 正寛》

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