【未来対談 3】特許無償開放は「一緒にやりましょうよ!」のメッセージ…田中義和

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自動車評論家の松下宏氏(左)とトヨタ田中義和主査(右)
自動車評論家の松下宏氏(左)とトヨタ田中義和主査(右) 全 8 枚 拡大写真

「未来の自動車」に対する一つの解として、トヨタが世に送り出した燃料電池車(FCV)『MIRAI』。その開発主査を囲み、「MIRAIのある生活」、「MIRAIに求めるもの」について本音をぶつけあう対談の第三弾。

トヨタ自動車から製品企画本部の田中義和主査、「これ一台で勝負できるクルマ」といち早くMIRAIを購入した自動車評論家の松下宏氏、そして行司役としてレスポンスの三浦和也が参加。第一弾では、FCVやPHVを所有することで見えてきたメリットと課題について、第二弾ではクルマの枠を飛び出し、エネルギー資源の観点から見た水素の可能性について議論を交わした。

今回は、トヨタが公表したFCV関連特許の無償提供の話題から、FCV普及に向けた道筋がどのように描かれて行くのかについて考察する。

◆FCV普及への思いが、特許開放につながった

三浦:トヨタからの燃料電池技術特許の無償開放が大きな話題になりました。ずばり聞きますが、2020年までというのは、他社のFCVの開発や販売を考えると短くないですか?

田中:2020年はひとつの区切りでしかありません。とりあえず5年後の2020年までは、特許料やクロスライセンスを求めないと表明いたしました。決して、パクっと食いついたら、5年以降、ごっそりもらおうとか、そんなことを思っているわけではありませんよ(笑)。

今回の開放ではお金はいただきませんが契約していただきます。いざ開放してみると、今までまったく燃料電池をやってこなかった企業が、いきなり特許開放で燃料電池開発を始めることはありませんでした。みなさん、これまでも燃料電池開発をやってこられたところがトヨタの特許に興味を持っていただいています。

そうなると当然、2020年以降はクロスライセンスで協力しあおうということになるかもしれません。また、一緒に水素を支えていただけるなら、もしかすると2020年の先も無料で、そのまま使っていただくこともあるでしょう。

松下:無償化の決断は社内ではすんなり決まったのですか。

田中:ところが!裏話的なことになってしまいますが、社内でも最初から諸手を挙げてやろう、と決まったわけではありません。技術者にとって特許といえば命みたいなものですからね。

過去の例でいえば、ハイブリッドがトヨタ以外からなかなか出てこなかったのは、やっぱり、他社の特許って技術者として使いたくないんですよ。ライセンスフィーはそんなに高いわけではないのですが、いかに回避するかの技術勝負でもあるのです。

三浦:お金だけの問題じゃない? プライドとか、自分の存在価値とか!?

田中:本当にそうなんですよ。そういう気持ちを乗り越えて無料化というのは、「一緒にやりましょうよ」というメッセージなのです。

最初は社内から「本当に無償で出すんですか?」っていう意見もありました。でも、社内にはFCVを20年以上やってきたエンジニアもいて、彼らの執念で生み出した技術や特許もあります。最後はそういう自分たちの技術を、埋もれさせたくないという気持ちが強かったですね。

三浦:踏み出すのに勇気が必要だったが、普及への気持ちがそれを乗り越えた。

田中:そうです。従来の考えだけでは、新しい技術は広がりません。やはりそこはみんなで議論して、出しましょうとなりました。

松下:実際に、特許契約の要望はきていますか?

田中:日本のメーカー、海外メーカーも含めて、何十件も来ています。

◆壮大なエコ・システムが水素社会を作る

三浦:僕らがフィールドにしているインターネットの世界は、オープンであることが宿命みたいなものがあります。オープン化イコールビジネスの放棄と捉えられた時期もありましたが、今はオープン戦略をビジネスモデルのひとつの手段として「エコ・システム」とも言い換えられています。

仕様をオープンにして仲間を集めてwin-winで経済が回る仕組み「エコ・システム」を作ろうよということです。これも技術だと思うんですよ。ビジネス・モデルやエコ・システムを構築する技術。そこが今、水素社会を構築する企業や国に問われていると思います。

いまはクルマを売るにも水素ステーションを作るにも必ず公的な補助金を必要としています。税金を投入してもらうに足るメリットを自動車工場が無い国や地域にどうやって与えてゆくか? いかに国際化された水素供給ネットワークを作れるか?

松下:自国の眠っている資源を、水素として取り出す技術を提供し、その水素を日本が買うことで税収を増やしてもらい、同時に、地元の水素インフラへの技術協力を申し出る、などですね。

田中:世界には産油国はごくわずかで、ほとんどが日本と同じ”持たざる国”です。将来にわたってエネルギー供給が不安な国ばかりですから、そういうところと連携すれば、よりよい形が見えてくるでしょう。

三浦:日本が技術を開放しつつ、「一緒にやろう」という姿勢を示すことで…。

田中:いかに仲間を作るかですね。

三浦:クルマだけでは、水素社会はできませんよね。

田中:クルマはワン・オブ・ゼムです。

松下:都市インフラを作らなきゃいけないし、供給インフラもつくらないといけない。壮大なエコ・システムですね。石油を補完する別ラインを設けようということですから。

三浦:桝添東京都知事が講演で話していましたが、ロンドンの記者会見で記者に「50年前の東京オリンピックでは、新幹線や首都高が遺産として東京に残った」「では、あなたは2020年の東京オリンピックで何を残すんだ?」と聞かれて知事は「水素社会を残す」と即答したそうじゃないですか。

田中:心強い。我々としても、良いクルマを出すことによってひと役買いたい。クルマはワン・オブ・ゼムですけれど、2020年に間に合ってよかった」(笑)。

松下:プリウスのときは「21世紀に間に合いました」でしたね(笑)

《鈴木ケンイチ》

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