ジャガーのデザインがクラシックからモダンに切り替わったのはこの『XF』から。インテリアもウッドやレザーを強調するのではなく、メタルやスウェードなどでクールに決め、メーターなどの光は珍しい水色を使う。極めつけのギミックはエンジン始動とともにせり出してくる円柱型のシフトノブ。
古き良きジャガーは、それなりの年齢と貫禄がなければ乗れない気がしていたが、こういうテイストならば、自分でも多少は着るモノなんかに気を使えばマッチするんじゃないかと、ときめいたものだった。
そんなXFもモデルライフのなかでいくつかの改良、変更を受け、今や熟成した味わいをもつ。限定車の『XF Rスポーツ』はスポーティなエクステリアと、現代のジャガーらしいクールさを一層強調したインテリアを持ち、エンジンは2.0リットル直噴ターボ。
ダウンサイジング・コンセプトの直噴ターボは、低回転からトルクフルで低燃費というのはどのメーカーにも共通するところだが、ジャガーのそれは中・高回転域でもパンチが効いていて、ドライビングがもっとも楽しいユニットといえる。低回転でトルクが強いと、相対的に高回転は大人しく感じられるものだが、トップエンドまで勢いよく回りきる感覚が強いのだ。
ドライバビリティも完璧。今のターボは優秀だとはいえ、超低回転ではターボの立ち上がりが遅れて気になることもあるが、XFの2.0リットル直噴ターボは発進時なども滑らかで力強く、ほとんど悪癖を感じさせない。組み合わされる8ATの制御が完璧だということも相乗効果になっているのだろう。
「ダウンサイジングも悪くない」と思わせるパワートレーンもいいが、それ以上にジャガーに乗る愉しみをもたらしてくれるのがシャシー性能だ。XF Rスポーツはそれなりに太く、低扁平なタイヤを履くこともあって多少の硬さを感じることもあるが、サスペンションの本質はしなやかなストローク感がある。ステアリングも操舵力は軽めだが、路面との接地状況はクリアに伝わってきて、わずかな操作からクルマが正確に反応してくれる。ミリ単位で走行ラインをトレースできるようなイメージだ。
ドイツ車は超高速域での安定性優先といった感じで頼もしいが、どちらかという大味。イギリス車はコーナーを正確に楽しく走ることができるように、繊細さを持っているように思う。XF Rスポーツでもそういったシャシーの良さが存分に堪能できるのだ。
■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア/居住性 ★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
オススメ度 ★★★★
石井昌道|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。