揺れる札幌駅新幹線ホームの設置案…「西側新設案」を見てみた

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西側設置案でもっとも現在の札幌駅南口に近い付近。しかし、ここからでも南口西通路の出入口付近までは徒歩で4分程度かかった。
西側設置案でもっとも現在の札幌駅南口に近い付近。しかし、ここからでも南口西通路の出入口付近までは徒歩で4分程度かかった。 全 7 枚 拡大写真

北海道新幹線は現在、新青森~新函館北斗間の本年度末開業に向けて準備が進められているが、その先の新函館北斗~札幌間も、2030年度の完成を目指して工事が始まった。

しかし、ここにきて札幌駅の新幹線ホームをどこに設置するかという問題が浮上している。現在の計画では在来線ホームを転用することにしているが、JR北海道が札幌駅から数百m離れた場所に新設する案を検討していると、報道されたからだ。

■新幹線ホームの在来線ホームの転用は困難

札幌駅は1988年11月3日の高架化以来、駅構内が北側へ移設され、空いた南側のスペースは北海道新幹線の用地に活かされる公算が強かった。ところが、1996年から南口の再開発が始まり、2003年には東側にJRタワーと駅ナカ商業施設である札幌ステラプレイスが、西側に百貨店の大丸札幌店がそれぞれオープンし、札幌駅部における新幹線用地は塞がれる恰好になってしまった。

そこで、JR北海道は5面あるホームのうち、1・2番線ホームを新幹線用に転用する方針を打ち出した。2012年6月に認可された北海道新幹線新函館北斗~札幌間の工事実施計画では、札幌駅に新幹線ホームを「併設」することが盛り込まれ、この方針は固まったかのように思えた。

ところが、北海道新聞の7月3日付朝刊で、JR北海道が現駅から300mほど西側に新幹線ホームを設置することを検討していることが明るみになり、当初の併設計画を基本に札幌駅前の再開発を計画していた札幌市や北海道が動揺しているという。

報道によると、この案が出た背景には、1・2番線ホームを新幹線ホームに転用した場合、在来線の構内配線がより複雑になるなどして、乗り入れることができなくなる普通列車が100本程度にのぼるという試算があった。

■乗継ぎ時間の増加と動線変化…西側設置案の課題

この300m西側というのは、報道を見る限り「JRイン札幌」や「ノルテ5・6ビル」などがある函館本線高架南側側道付近から、京王プラザホテル北側の緑地帯にかけてのようだ。このあたりは、函館本線が高架化される以前に線路が通っていた場所で、いわば廃線を再活用した部分。新幹線ホームへのアプローチ的用地と目されていただけに、札幌圏の在来線列車乗入れを減らしたくないJR北海道が、ここに新幹線ホームを設置したいと考えるのは自然の成行きだろう。

しかし、ここで大きくたちはだかるのが、JR在来線やバス、札幌市地下鉄との乗継ぎ問題だ。西側設置案でもっとも札幌駅の「本駅舎」に近い場所は「JRイン札幌」付近のようだが、ここから札幌駅西通路の出入口までの到達時間を徒歩で実測したところ、およそ4分を要した。新幹線ホームの長さが200m余りだったとして、新函館北斗方の車両に乗るとすればさらに2分半が加わり、6分半を要することになる。地下鉄さっぽろ駅へはさらに2分40秒を要したため、ゆうに9分は越えてしまう。

これは軽装による実測なので、もし大型のキャリーバックを引いていたり、子供を連れているなどしていれば、地下鉄への乗継ぎ時間はおそらく10分は軽く越えるだろう。むろん、開業時には動く歩道やエスカレーターなどの整備が行われるであろうし、地下鉄改札口やコンコースの新設も考えられる。可能な限り乗継ぎ客の利便が図られるとは思うが、それでも1・2番線ホーム転用案よりは、利用客への負担感が増すことは否定できないだろう。

もっとも、西側設置案は不利なことばかりではない。仮に東端の「JRイン札幌」付近にも出入口ができたとすると、現在の札幌駅南口より北海道庁や赤レンガ庁舎が近くなるのだ。これは道庁へ赴くお役所関係者や観光客にとってはメリットになるかもしれない。その分、札幌駅から大通公園、すすきの方面にかけての動線が微妙に変化することが予想されるので、札幌駅前の整備を進める札幌市にとっては頭が痛い問題になるだろう。

加えて用地周辺の状況も大きな問題だ。「JRイン札幌」から函館本線をアンダークロスする西7丁目通りにかけては車道と歩道が通っているが、ここに高架橋を通すとなると道路の封鎖や建物の一部撤去が必要になるのは想像に難くない。その分、建設コストは嵩む。西7丁目通りから西は札幌桑園停車場緑道線が桑園駅方向へ延びているだけなので、この部分だけを活用すれば建設は容易に思える。

しかし、そうなると駅に近い東端でもさらに2分以上は乗換え時間が長くなる上に、緑道奧の高架下には札幌市が管理する「北6条エルムの里公園」があり、ホーム建設中はその入口を封鎖せざるえないことが想像される。札幌市とはさらなる調整が必要になることは避けられない。

■東側設置案や地下案もあるが、高層化の検討も

西側設置案に対して、札幌市と北海道は反発しているという。JR北海道が危惧する在来線列車の乗入れ減は、はたして15年後に危惧すべき問題になっているのかどうかはわからない。しかし、新幹線の開業によって札幌~函館間の優等列車が大きく減少することが予想されるし、同一ホームで異方向の列車を発着させるなどの工夫を施せば、在来線の削減はある程度まで抑えることができるのではないだろうか。

さらに、北口側にはホームのない11番線があるので、ここを活用してホームを増設すれば、1・2番ホームを転用してもカバーできそうにも思える。そのことを想定して11番線が作られているのだと思うのだが。

新幹線ホーム設置案は、他にも東側の駐車場となっている用地に設置する案や、地下に設置する案も検討されている模様だ。前者は用地の面から有効な方法で、もし、将来、旭川までの延伸が認可されれば、延伸工事が容易に行えるメリットもある。しかし、この案では西側から新幹線を札幌駅部でスルーさせる必要があるため、その用地確保が困難なことが最大のネックだろう。

1・2番線を新幹線の標準軌と在来線の狭軌が兼用できるように3線化して、新幹線が通過しない時間帯は在来線が発着できるようにすれば解決できるかもしれないが、運行管理や構内配線がより複雑になるというデメリットも否定できない。

地下設置案は用地買収が不要となるが、工事費用が莫大となる懸念があることや、地下鉄南北線・東豊線のさらに下を掘る大深度での工事となるため、地質や騒音など、周辺への影響も懸念されているようだ。そこで考えられるのが、東京駅1・2番線ホームのような高層式にすることだろう。この場合、札幌駅へのアプローチを根本的に見直す必要が生じるかもしれない。そのせいか、この案は現在のところ俎上には載っていない。

6月30日、国はJR北海道に対し、鉄道建設・運輸施設整備支援機構を介した1200億円にものぼる追加的支援措置を行うと発表した。その前の6月26日には、第三者機関であるJR北海道再生推進会議が「選択と集中」を打ち出し、JR北海道に対して、企業存続を賭けたこれまでにない厳しい体質改善を迫った。それだけに、少しでも早く、しかも安価に札幌延伸を図りたいという意識が、今回の西側設置案につながったのではないだろうか。

《佐藤正樹(キハユニ工房)》

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