【土井正己のMove the World】どうなる中国経済…乗用車市場は異例のマイナス成長

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中国の渋滞と大気汚染(資料画像)
中国の渋滞と大気汚染(資料画像) 全 4 枚 拡大写真

ここのところ、中国の自動車市場が不調をきたしている。6月の市場は自動車市場全体でマイナス2.3%。特に乗用車がマイナス3.4%で3年ぶりの本格的マイナスである。そして、ほぼ時を同じくして、中国の株価が大幅に下落した。今月に入り株価は下がり続け、わずか10日間で3.5兆ドルもの資産が消滅している。これまで順調に成長を続け、世界第2位の経済大国になった中国に何が起きているのだろうか。

中国経済の5割は公共投資が牽引

中国経済(GDP)の約5割は新規投資によるものだ。すなわち、道路や発電などの公共投資が大きなウェートを占める。GDPが、毎年7%~10%の割合で成長してきたということは、工事も毎年、7%~10%の割合で増やさなければ経済が鈍化するということになる。その公共投資に最近ブレーキがかかり出したということだ。その理由としては、次の2つのことが考えられる。

◆問題は「環境問題」と「金の生る木の枯渇」

第一は、1年前にこのコラムでも書いたが「環境問題の激化」だ。中国は、開発を急激に進めた結果、大気汚染や水質汚染が激しくなり、国民の不満はどんどん高まっている。慌てた政府は、大都市での自動車の排気ガス被害を減らすため、新車販売台数を大幅に制限しだした。

現在、上海、北京、広州など約10都市が、自動車の新車販売の台数規制を行っている。台数規制が導入されるとクルマ購入のための「権利」を市当局から買わねばならず(若しくは抽選)、クルマ購入コストはおよそ2倍となる。昨年、この台数規制が「全国的に広がるのではないか」という噂が流れて、多くの新車客が自動車ディーラーに殺到した。その結果、需要の先食いをしてしまった。その反動が今年の販売減の一要因となっている。このように、中国は環境問題を「経済のアウトプットを強引にコントロール」することで解決しようとするので、当然、経済にブレークがかかる。

第二の問題は、公共投資を行うための資金繰りが厳しくなってきているということだ。公共投資の多くは、地方政府の資金で行われるが、地方政府は国有地の権利を持っていることから、土地を売っては資金を調達することができた。もしくは、土地の値上がりを担保に資金を調達(借金)することができた。すなわち中国の地方政府には「金のなる木」があった。ところが、住民の立ち退き反対運動が激化したり、転売が容易にできる質の良い土地が減ってくるなど、「金のなる木」が底をついてきているという。その結果、地方政府の借金は膨らみ、3月9日付けのブルームバーグの報道では「中国の地方政府債務は市場関係者の間で3兆ドル(約362兆6000億円)超とみられている」と記載している。中央政府も、この窮状を何とかすべく、地方政府に対して債務の債権化を認めるなど支援策を講じているが、とても前年を超える公共投資を行う余裕はない。

◆日本の環境技術は重要

こうしたことが理由で、中国に経済成長にブレーキがかかってきた。中国はこれまで、土地や企業が「国有」」であるというメリットをフルに生かし、国家主導で経済を急速に成長させてきた。しかし、この成長モデルも限界にきているということである。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)に57か国を巻き込んで設立したのも、自国のインフラ需要も視野に入れてもことだと思う。そして、環境問題については、「日本の技術支援に頼りたい」と思っているのではないだろうか。その証拠として、これだけ冷えていた日中韓の政治関係においてさえ、「日中韓三カ国環境大臣会合」は2009年以来毎年開催されている。

◆さらなる「資本主義」へ移行

さて、それでは、中国はこれからどうすればいいのだろうか。中国政府は、公共投資を中心とする成長モデルには別れを告げ、「消費主導型の成長モデル」に移行させたいと考えているようだ。そのためには生産性を高め、給与を増やして消費を高めるという資本主義の基本を実行しなければならない。そして、何よりも「国有企業の民営化」を実施しなければ、生産性を高めたり、国際競争力を高めることはできないだろう。

また、日本の環境技術を本格的に導入するのであれば、外資規制なども排除して、日本資本の呼び込みを本格化しなければならないはずだ。私は、習近平国家主席は、これからのことは全て見通しており、さらなる「資本主義への移行」を計画しているのではないかと思う。ただし、一党独裁だけは、一歩も譲らないだろう。

一昨日の新聞で、習近平国家主席が、安倍総理を戦勝記念日の70周年イベントに招待したというニュースが流れた。報道では、安倍総理も記念日の日程を外して、訪中を検討しているという。中国経済は今後、環境とのバランスを重視した、さらなる「資本主義への移行」を目指すしかないはずだ。これは、日本にとっても大きなビジネスチャンスにもなる。日本はそれをサポートすべきであろう。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事

《土井 正己》

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