【VW パサート ヴァリアント Rライン 試乗】実用性と高級感は両立したか…中村孝仁

試乗記 輸入車
VW パサート ヴァリアント Rライン
VW パサート ヴァリアント Rライン 全 12 枚 拡大写真

日本市場におけるVWのフラッグシップモデル、『パサート』が8世代目に生まれ変わった。大きな変化としてはプラットフォームがモジュラー型のMQBに変化したこと。エンジンは1.4リットルTSIで、従来と同じかと思いきや、こちらも新設計ということだ。

今回試乗したのはパサートレンジで最も高い「ヴァリアントRライン」。 実はセダンでは高級感を醸し出すことに躍起になって、フラッグシップらしい仕上がり感を持つのだが、ワゴンスタイルのヴァリアントではどうしてもその点が難しい。

今流行りのスポーツワゴン風、あるいはシューティングブレーク風にすれば、比較的高級感をつけやすかったと思うのだが、そうすると8代も培って育ててきた抜群の機能性がスポイルされてしまう。今や本当の意味でワゴンとしての実用性を兼ね備えている、いわゆるワゴンらしいワゴンはこのクラスではこのヴァリアントと個人的にはプジョー『508SW』位なものと思っている。

というわけで、8代目のヴァリアントも実用面は文句なしである。ラゲッジスペースはリアシートを使っても650リットルの容量を持ち、リアシートを倒せば何と1780リットルという広大な空間が確保できる。しかしそのために当然ながらDピラーは立ち気味で、紛うことなき典型的ワゴンスタイルで、やはり高級感というイメージからは程遠い。

だからヴァリアントをチョイスした場合、見た目の高級感はどうしても他ブランドに一歩譲らざるを得ないというのが、正直な感想であった。しかし、高級感の発露は何も見た目だけのものではない。例えば室内の設えに始まって、音振対策、装備の充実といった部分では文句なしにフラッグシップのそれに相応しいし高級である。

一番実感できるのはセーフティシステムの充実。今やこの種のデバイスは軽自動車でも充実しつつあるから、まあトレンドとしては当たり前だが、およそ現在の技術で思いつくすべてのアイテムが装備されている。何故か上級ブランドのアウディは、少なくとも日本市場のモデルでこの種のデバイスが省かれているのは不思議でならない。

次に、既にゴルフに採用されているデバイスだが、可変気筒システムを導入し、負荷がかからない時は2気筒で走ってくれること。まあこれは高級感とは無縁だが。

3番目は装備の充実だ。試乗車はRラインなので専用のナッパレザースポーツシートが装備されるほか、マッサージ機能までついている。3ゾーンのエアコンやナビを含むインフォテイメントシステムなどもすべて標準装備。というわけでオプションで追加すべきものは精々スライディングルーフぐらいなものだろう。

Rラインの証はオプションの235/40R19タイヤがついていたこと。これは後々解説するがちょっと驚かされた。

室内に乗り込んでまず始めに感じたことは「広い!」である。実際先代よりも広くなっているのだが、例えばダッシュボード全幅にベンチレーターと同じラインを入れて、横方向の広さ感を演出していること。まあ手法が正しいかと言われたら、個人的にはあまり好みではないが、少なくとも広さ感は間違いなく演出されている。全体にカッチリとした作り込みはVWらしく、同時に奇をてらったデザインをしていないのもVWらしい。

1.4リットルのTSIユニットは、先代と比較して28ps、50Nmも向上しているから、横並びで乗ればその違いは顕著だったと思うが、旧型に乗ったのはだいぶ前のことで、正直明確にパワーアップしたと体感できたかといえば、出来ない。ただし、非常にスムーズで快適、必要にして十分なパフォーマンスを得られていることは確認できた。それ以上に静粛性が高く、エンジン自体が実に滑らかになっている印象が強かった。

高速に入り、ACCを使ってみる。同時にレーンキープアシストを使えば、少なくとも高速上は限りなく自動運転に近づいている。クルマは自分で運転するのが愉しいのだから、ACCなどいらないという人がいるが、長距離の高速移動だとどうしても退屈で、ついついうっかり前方不注意なんて言うことや、よそ見して車線はみ出しなんてことは有りがち。少なくともそうした危険はだいぶ軽減されるから、ACCは有難い装備だと思う。実はこれ、一般道でも使えて、特に今回の場合、渋滞追従支援システムという機能が入ったから、60km/h以下なら、停車しているクルマに追突することなく停止してくれる。と言っても全幅の信頼は置けないから、あくまでも支援システムなのだ。

高速上ではアクセルオフでコースティングするし、負荷がかからない状態だとすぐに2気筒になったことを示す2シリンダーモードという表示が出る。どちらの場合もアクセルを開けるとすぐに解除されるが、つながりはすこぶる良くてそれを意識させることはない。

運動性能も現実的には4775×1830×1480mmというかなり大柄なクルマだが、それを意識させることのない、軽快なハンドリングを持っている。前述したように、19インチ、235とかなり太いタイヤを履くのだが、実は乗り心地はこちらの方が17インチの215タイヤを履くハイラインよりも良いほどで、引き締まった足が却ってフラット感を演出しているようであった。

かつて横文字商売の人が乗るクルマとしてトレンディだったワゴンも、今ではすっかりミニバンやSUVに市場を食われてしまったが、運動性能と実用性を両立させようと思ったら今でもワゴンが一番良い。そしてその実用性で抜きんでた実力を持つのがこのパサートヴァリアントである。さすがに高級感と言われると考えてしまうが…。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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