【ホンダ ステップワゴン 試乗】ファミリーの絆を重視するならイチオシ…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ ステップワゴン
ホンダ ステップワゴン 全 8 枚 拡大写真

ホンダが4月に発表した5ナンバーミニバン『ステップワゴン』を短距離ながらテストドライブする機会があったので、短評をお届けする。

ステップワゴンは96年にデビューしたFWD(前輪駆動)およびそれをベースとしたAWD(4輪駆動)の5ナンバーミニバンで、新型は第5世代にあたる。プラットホームは第3世代時代からの持ち越しだが、ボディ補強、サスペンションレイアウトの改良などによって快適性、操縦性などを向上させたとホンダは主張する。

パワーユニットは新開発の1.5リットル直噴ターボ、いわゆるダウンサイジングターボエンジンだ。スペックは150ps/203Nm(20.7kgm)と、旧型の2リットルと出力は同じながら、最大トルクは10Nm増しになった。このダウンサイジングターボと、ベーシックグレード以外に標準装備される、横開きのサブドアを備えた「わくわくゲート」と呼ばれるバックドアは、新型ステップワゴンの2大セールスポイントだ。

試乗車は柔らか系エクステリアの普通のステップワゴン。デュアルエアコン、後席ナビゲーションディスプレイなどを装備した上位グレードであった。試乗ルートはホンダ青山本社と臨海副都心の潮風公園の往復で、他メディアの記者と2名1組で乗り、行きと帰りで運転を交代し、運転しないときには3列目シートに座ってみた。

テストドライブの結果、新型ステップワゴンの最大の美点だと思われたポイントは、静粛性の高さだった。5ナンバーミニバンで静粛性が高いモデルの代表格は日産『セレナ』である。絶対的な静粛性はそのセレナといい勝負というところで、3ナンバーのトヨタ『ヴェルファイア』のような度肝を抜かれる静かさではないのだが、注目すべきは絶対的な静粛性ではなく、車内における前後席間の声の通りが良かったことだ。

5ナンバー枠いっぱいのミニバンは基本的にファミリーの移動を目的に購入される。そのカスタマーに対して訴求性が高いファクターは、何といっても広さ。ゆえに、各モデルとも車内は広々としているのだが、それは前後席の隔絶感が非常に強いというネガも生んでいる。運転席のお父さんはバスの職業運転手のように運転に専念し、母親と子供が2、3列目で仲良くお話をしているというイメージだ。

ステップワゴンももちろん前後席の距離は遠いのだが、声を張り上げなくても走行中に1列目と3列目の間で普通に会話ができてしまうため、隔絶感はライバルに比べて格段に薄い。これなら運転席のお父さんが孤独感を覚えることはないだろうと、大変に好感を持てた。ファミリーの絆を重視するなら、新型ステップワゴンはイチオシである。

一方、乗り心地については滑らかさに欠けた旧型と比較すると、かなり落ち着きが出た。プラットフォームは流用だが、前述のようにサスペンションのレイアウトやショックアブゾーバーの配置などを大幅変更した効果はきちんと出ている。ただ、一般論としては、ミニバンとしては十分良好なものの、特筆するほど良いと感じられたわけではなく、セレナ、トヨタ『ノア』と似たり寄ったりだ。

1.5リットルターボエンジンは、1.6t台の車体には過小ではないかというイメージを持つカスタマーも少なくないだろうが、実際には十分活発に走る。もっともエンジンの過渡的なパフォーマンスは変速機や電動スロットルの協調制御によって決まるので、ホンダのエンジニア陣が主張するような2.4リットルエンジン並みのパフォーマンスという実感はない。言われて見れば1500rpmくらいの低回転で粘りがあるような気がする、というくらい。筆者はフルモデルチェンジ直前に旧型ステップワゴンスパーダを500kmほど走らせてみたのだが、その2リットル自然吸気+CVT(無段変速機)と同じようなものだった。

ダウンサイジングターボの技術を公表した時、エンジニア陣はスペックについて204ps/260Nmと豪語していた。それよりかなり低くなったのは、レギュラー対応であることと、ミニバンにはそこまでハイスペックは必要ないという判断があったからなのだそうだ。が、ホンダにとってダウンサイジングターボは初物で、これから技術イメージを確立する段階にあるのだから、スペック、体感的パフォーマンスとも、名刺代わりにもう少し驚き、喜びを感じさせるものに仕上げたほうがいいのではないかと思われた。

試乗中の平均燃費はジャスト12km/リットル。1.6t級のボディを都心の首都高速、一般道で走らせたスコアとしては悪くはない。が、これもアイドリングストップがついた旧型後期型に対して明確なアドバンテージがあるというほどの数字でもない。ちなみに旧型で東京を出発し、首都高速経由で三浦半島南部の観音崎まで往復したときの燃費は13.1km/リットルであった。

総じて新型ステップワゴンは、機械的には傑出したところはないものの、室内での家族の会話が盛り上がりやすいという一点において、ファミリーユースを主体とするカスタマーにとっては迷いなく買っていいモデルであると言える。乗り味については、チョイ乗りで凡庸に思えても長距離を乗ってみたらイメージが良くなったり、反対に最初は良くても後から悪く感じられたりするものなので、燃費含めあくまで参考程度と考えていただきたい。機会があれば、長距離ツーリングでの使用感もいずれお届けしたく思う。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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