【トップインタビュー】「もう一度、ホンダらしさで再構築を」ホンダ 八郷隆弘社長 

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本田技研工業(ホンダ)八郷隆弘社長
本田技研工業(ホンダ)八郷隆弘社長 全 8 枚 拡大写真

看板車種やエアバッグのリコール、業績の伸び悩みという逆風の中で登板した。出発は開発技術者だが、購買、製作所長、海外事業など歴代のホンダトップにない幅広い「現場経験」をもつ。規模の拡大よりも、まずは「ホンダらしいチャレンジングな商品」の投入で、しっかりと反転攻勢への態勢を整える構えだ。メディア各社との共同インタビューから構成した。

◆それぞれのチームホンダが「3現主義」を実践して主体的に動く

----:就任後はまず、国内の事業所を精力的に回ったそうですが、手応えはいかがですか。

八郷隆弘社長(以下敬称略):1か月半で、約20拠点を回り終えた。マネジメント層だけでなく、多くのアソシエイト(従業員)と対話してきたが、皆さん言っていたのは、例えば『S660』や2輪の『RC213V-S』、「わくわくゲート」の『ステップワゴン』など、ホンダらしい提案が出てきているということだった。

私からは、これからホンダらしさを更に進化させるために、チャレンジングな商品をチームホンダでやって行こうと申した。チームというのは機種開発や技術を創るプロジェクトなど社内にはいっぱいあるので、まず私がやることはチームが主体的に動ける環境を整えることだと考えている。そして、ホンダのフィロソフィーである「3現主義」(=現場、現物、現実)を実践しながら、それぞれのチームに動いてもらう。

----:八郷さんのおっしゃる「ホンダらしさ」とは?

八郷:やはり、2輪、4輪、汎用、そして今年は『ホンダジェット』もあるが、そうした全ての分野でお客様に喜んでいただける商品をご提供することに尽きる。喜んでいただけるというのは、私なりの解釈では、われわれの製品によってある意味、お客様の人生が変わることだとも思っている。私自身、かつて『オデッセイ』を購入した時、アウトドアとはそう縁もない人間だったが、バーベキューセットを買ったりと、随分行動が変わった。あの商品を買った後に人生が変わった、あの商品は宝だね――と、喜んでいただけるものをご提供し続ける。それが、ホンダらしさである。

◆パワートレインは全方位で手掛ける

----:就任後の記者会見では、そうした商品のために現場のチームには時間の確保が必要な時もあり、サポートしたいと話していました。前社長の伊東孝紳さんは「良いいものを早く、安く、低炭素で」提供する方針を掲げていましたが、このうちの「早く」については、しばらく眼をつぶるということでしょうか。

八郷:良いものを早く、安く…ということの本当の思いは、あくまで「良いもの」にある。つまり「良いもの」がすべての上位概念である。その良いものを創りだすには、しっかり議論し、時間をかける必要がある時もある。そうした環境をつくっていくのが私の仕事だと申したのであって、決して「早く」をやめたわけではない(笑)。

良いものを生み出すには、とくに最初の企画段階でじっくり検討を進めることが大切だ。ここにもっと時間をかけるべきか、もう少し色々な要素を取り込んだ方がいいのか、いま検討を進めている。企画を充実させ、精度を上げてトライしていけば後の変更幅を小さくできるなどスムーズな展開にもつながる。

----:クルマのパワートレインは、ダウンサイジングターボやクリーンディーゼル、さらに将来の燃料電池車(FCV)など多様化し、ホンダは全てを手掛けています。これからも、基本的は自前で進めるという方針に変わりはないのでしょうか。

八郷:ダウンサイジングターボは、まず1.5リットルをステップワゴンなどに搭載し、今秋には『シビック』(=2リットル)でも採用していく。クリーンディーゼルも同様に着実に展開していく。電動化技術ではイブリッド車(HV)が今々の技術であり、これをしっかりグローバルに展開したいと思っている。

電動化がある程度確立できた時に、電気を供給するひとつの方式として水素を活用するのがFCVとなる。HVからFCVに至る過程では、グローバル(マーケット)の中でPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)がひとつの方向性になっていく。近未来的にはPHEVがキーではないかと考えており、この技術をしっかり確立していきたい。

電気自動車(EV)については、われわれも投入しているが、まだ当面はコミューター的な使い方ということになる。クルマ全体の技術はこのように全方位でやっていくが、電動化に向けた(他社との)技術協力についてはコンポーネントや要素技術で、一緒にできる場合があれば全く検討しないというわけではない。

◆生産規模よりも、まずは「良いもの」にターゲットを置く

----:業績についてですが、この第1四半期(4-6月期)は連結営業利益が前年同期比で16%の増益と回復しています。しかし、2016年3月期の予想営業利益率は4.9%にとどまり、8%近くあったリーマン・ショック前とは開きがあります。どのように立て直していきますか。

八郷:収益面で今、課題となっているのは、まず品質関連の費用が従来より少しかかっているので、これをしっかりと改善していきたい。また、グローバルで考えると生産キャパと販売の間に少しギャップがあるので、それをいかに効率よくグローバルに展開していくか、この2つが大きな流れだと思っている。また、生産規模を第1にするのでなく、まずは、もう一度ホンダらしい商品、つまり「良いもの」にターゲットを置きたいと考えている。お客様が求めるものを出してホンダブランドを再構築すれば規模もついてくる。収益目標というのは体質をもう少し良くしたうえで、お話しできればと思っている。

----:業績面の課題と指摘されたエアバッグのリコール問題にはどう取り組みますか。

八郷:エアバッグのリコールについては、お客様にご迷惑をおかけして大変申し訳なく思っている。早く真の原因を究明することと、1日でも早い(対象部品の)回収と交換に全精力をあげていきたい。そして品質に対して間違いのない商品を確実に出していくこと。それが今のわれわれの責務である。

----:カーライフはどのように? また他社のクルマや技術で気になるものはありますか。

八郷:今年、中国の駐在から戻って『VTR250』という250ccのバイクを買い、休日には早く起きて、年齢相応の乗り方で楽しんでいる。クルマは欧州駐在(2012~13年)の時に企画にかかわった『シビック TYPE R』が秋に日本で出たら求めたい。他社ではマツダさんのSKYACTIVのディーゼルエンジンが面白い。チャレンジされていると思う。

----:F1はハンガリーGPでようやく2台揃って入賞しましたが、苦戦が続いています。
八郷:車体とエンジンのマッチングに時間を要してきた。ハンガリーで入賞し、課題であった信頼性も出てきたので、これからいい方向に行くのではと期待している。勝負事なので、早く1勝をと願っているが、まずは上位チームと互角に闘えるところにもっていくことだ。鈴鹿(日本GP)でも頑張りたいし、皆さまの応援をお願いしたい。

八郷 隆弘(はちごう・たかひろ)
1982年武蔵工業大学(現・東京都市大学)卒、ホンダ入社。開発部門の本田技術研究所で2代目CR-Vの開発責任者や初代の米国オデッセイの開発を務め、2006年に研究所執行役員、07年に同常務執行役員。08年からホンダの購買2部長や鈴鹿製作所長を歴任後、12年からは欧州法人の副社長、中国の生産統括責任者を務めた。この間、08年にホンダ執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て15年6月に現職。少年時代からモノづくりが好きでプラモデルが趣味。未製作品が多くストックされているというが、しばらくは棚ざらし状態が続きそうだ。神奈川県出身、55歳。

《池原照雄》

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