世にも珍しいミッドシップ専用工場…S660 生産に取り入れられた独自の工法とは

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ホンダ S660 を生産する八千代工業、四日市製作所。通常はご覧のように下からエンジンを締結する
ホンダ S660 を生産する八千代工業、四日市製作所。通常はご覧のように下からエンジンを締結する 全 19 枚 拡大写真

そこは世界でも例を見ないミッドシップのモデルしか作らない専用の工場であった。

と言っても『S660』以外に流れているモデルといえば、あぜ道のスーパーカー『アクティトラック』や『アクティバン』、それに『バモス』と『バモスホビオ』などいずれもいわゆる完全な実用車で、ミッドシップとはいえS660を除けば、いわゆる健気なクルマたち。とはいえミッドシップであることに変わりはない。

場所は四日市にある八千代工業、四日市製作所である。すべてのモデルが一つのラインで流れる混流方式を採っているので、S660は目下フル生産(と言っても1日48台しか生産できない)だから、3~4台に1台の割合で流れてくる。エンジンの搭載はいずれのクルマもミッドシップだから同じラインで流せるのだが、すべてボディ下からの作業で他のモデルが済むのに対し、S660だけはボディ上部からのアクセスが必要なため、この工程の一部に梯子型の台を設けてS660に対応していた。

今回見せていただいたのは、このエンジン搭載の工程をはじめ、やはり独特なインナー治具を使った総合溶接工程と、完成車検査工程の主要3施設である。

この中で目を引いたのは、一つは足回り組み付けに際しタイヤの位置からの入力が「1G」となる専用治具でフロントロワーアームやリアのビームなどを組み付けていたこと。そしてもう一つがインナー治具工法と称する専用治具を使ってホワイトボディを完成させる行程だった。また、最終の完成検査工程で敢えてトー角を測定し、アライメント調整を行っていたことにもビックリさせられた。

まずは「1G」装置だ。通常は足回りを組み付ける際に下からストラットやスプリングをボディに取り付けていくだけなのだが、S660は敢えて下からジャッキによって圧をかけ、車両重量ならびにフルード系の重さ分を車体に掛けた状態でサスペンションを組み付けるのである。これによってブッシュなどにストレスをかけることなくサスペンションが組み付けられる。

そしてインナー治具による総合溶接。通常だと外側の治具に各パネルを固定してそれをロボット溶接する。この治具は大型で、ホワイトボディを一気に作り上げようとするとライン全長も長くなる。そこで採用したのが、別な場所で組み上げられた前後及び中央のホワイトボディ(それぞれフロントコンプ、リアコンプ、フロントフロアと呼ばれる)にコックピット内に持ち込むインナー治具をセットして位置決めし、アウター部品やインナーフレームなどを溶接するというもの。

治具のセットは手作業で行われ、一旦インナーフレームだけが溶接されると、再び元のステーションに引き戻し、今度はアウターパネルを取り付けて再び溶接をする。そして再び引き戻してインナー治具を取り外し、ようやく次の工程に進むという具合だった。時間は要するが確実で精度が高い。少量生産をするにはこうした手法が有効なのだろう。

そして最後の完成検査。クルマが検査ステーションに入ると全部で9項目のチェックが行われるのだが、そのうちの一つがトー角調整だ。検査場に入ったクルマに測定器を設置、それに従ってピット下に潜り込んだ作業員が調整通りに締め付けを行っていた。ハンドリングに拘りのあるS660ならではの行程だった。

まだまだ、生産が追い付かない状態のS660。少量生産ならではの独特な生産方法が目を引いたことと、拘りたっぷりの生産現場は実に面白かった。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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