道路網の整備と沿線・拠点開発のあり方…成長処理とストック効果

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首都圏高速道路の路線図
首都圏高速道路の路線図 全 4 枚 拡大写真

首都高中央環状線、全線開通は効果大

 人々の暮らしや企業の活動などを支える社会インフラ。道路や鉄道、空港、港湾といった交通ネットワークをはじめ、上下水道や治水・利水施設など全国各地に整備されたインフラは社会にさまざまな恩恵をもたらしている。インフラのストック効果に焦点を当て、その役割と、産業や観光振興など間接的な波及効果について個別事例を交えながら紹介する。

 ◇港湾や空港への速達・定時性向上/国際競争力の強化後押し
 地域間の人やモノの移動手段として最も身近な交通インフラである道路。一般道と出入り口を分け、高速走行を可能にした高速道路は、高度経済成長期に本格的に建設が進められ、これまでに開通した総延長は9000キロを超える。
 首都圏では東京都心部から外縁部に向かって放射状に延びる高速道路(東名、中央道、関越道、東北道、常磐道、東関東道)と併せ、放射方向の道路をリングでつなぐ3本の環状道路の整備が進められてきた。
 今年3月7日に最も内側のリングとなる首都高速道路中央環状線が全線開通した。残る東京外かく環状道路(外環道)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の未開通区間の整備も進み、高速道路ネットワークが順次広がっている。
 中央環状線の総延長約47キロのうち、最後の未開通区間だったのは大橋ジャンクション(JCT)~大井JCT間(東京都目黒区~品川区)品川線約9・4キロ。この区間の開通により、さまざまな効果が現れだした。
 具体例として、これまで移動に約40分かかっていた新宿~羽田空港間が約20分に短縮され、首都高や都心部周辺の道路の混雑も緩和。東京港や横浜港などに陸揚げされる大量のコンテナ貨物輸送では、環状7号線などの一般道を通らずに済むようになった。物流の大幅なスピードアップにより、首都圏の国際競争力の強化にも寄与する。
 都と首都高速道路会社が行った開通後3カ月の利用状況調査によると、中央環状線内側の交通量は前年同期比約5%減少し、渋滞損失時間はほぼ半減した。首都高速全線でも約4割減少(開通後1カ月時点)し、この渋滞損失時間の減少分は、約1万2000人分の労働力に匹敵するとの試算結果も示された。
 1号羽田線、11号台場線と都心環状線が接続する浜崎橋JCT(東京都港区)では、これまで1日平均9時間の渋滞が発生していたが、品川線の開通直後から渋滞はほぼ解消した。
 混雑緩和に伴い、拠点間の移動に要する時間のばらつきも減少し、定時性が向上。新宿から羽田空港までの移動で「渋滞を見込んだ無駄な時間」は、開通以前の15分から1分に短縮された。これまで遅延リスクを見込んでいた利用者にとっては、無駄な行動時間が軽減される。
 一連の効果を踏まえ、新宿・池袋方面と羽田空港間でリムジンバスを運行する東京空港交通は、4月のダイヤ改正から混雑時の所要時間を最大15分短く設定した。
 物流事業者も品川線を利用することで、配送時間の短縮効果を実感している。「羽田エリアの物流ターミナルと渋谷エリアの営業所間の輸送時間が短縮され、到着時間も予測しやすくなった」(ヤマト運輸)、「東京港の大井ふ頭から埼玉の戸田・上尾方面に配送する場合、開通前は葛西JCT経由で中央環状線東側区間を利用していたが、開通区間の利用で所要時間が30分程度短縮された」(日本高速輸送)といった効果が出ている。
 アクセス性や定時性の向上により、中央環状線(湾岸線~渋谷線)を利用した観光コース・プログラムを設定・企画する旅行業者も増えてきた。
 一般道路については、山手通り、環七通りなどから並行する中央環状線への交通転換の動きが見られる。混雑緩和が進んだ一般道では、混雑時間帯の移動時間が1~3割短縮された。
 国際標準コンテナ車(背高4・1メートル)が通行できる中央環状線の全線開通により、環七通りの国際標準コンテナ車の通行量は約15%減少。並行する区道の大型車の交通量も約1割減り、歩行者や自転車走行の安全性が向上している。

品川線開通で東京・品川区の開発加速

 ◇市民・企業と連携し広報活動強化
 首都高速道路中央環状品川線(湾岸線~3号渋谷線)の開通を受け、東京・品川区は観光客の増加に向けた街づくりを強化する。観光客が増加傾向にある地区を抽出し、各地区に合った開発構想を検討。品川線の利用者に立ち寄ってもらえるような街を目指す。
 品川線は、東京都と首都高速道路会社が共同で整備した大井ジャンクション(JCT、品川区八潮)と大橋JCT(目黒区青葉台)を結ぶ全長9・4キロの大半がトンネル構造。渋滞緩和や速達性の向上のほか、沿線地域で開発を促進する効果も期待されている。
 「品川線の真上を通る環状6号線沿いの開発はほぼ終えている。むしろ(品川線の)開通で開発機運が高まるのは、沿道以外の区内全域。品川線の利用者に素通りされないような街づくりを進めたい」。道路や鉄道など交通インフラの整備に併せて区内の街づくりを検討する品川区都市計画課の中村敏明課長はそう話す。
 品川線の整備で観光客の増加が予想される地区を選定するため、区が取り組むのが「シティプロモーション」。区内企業が新規事業をPRする際に、ポスター・看板の設置や広報紙の作成にかかる費用を区が助成する制度だ。羽田空港内に「しながわ水族館」のポスターを設置した活用事例がある。
 区は、民間企業の広報活動によって区内で観光客が増えた地区を調査。にぎわいが増した地区をモデルとして抽出した上で、街づくりに向けた具体的な施策やスケジュールを検討する。地元地権者や民間企業との連携も視野に入れているという。
 区は、品川線の利用者が最大になる時期は直近で東京五輪が開催される2020年前後と予想。五輪終了後にも、リニア中央新幹線や、JR東日本が東京、新宿、新木場の都心3駅と羽田空港を直結させる「羽田空港アクセス線構想」など大規模な鉄道整備計画が控えている。中村課長は「今後も大型交通インフラの整備が計画されているので、区内では開発機運は高まり続ける。品川線の開通に伴う開発事業は、今後区内で進む街づくりの指標にもなるだろう」と展望を語る。

圏央道沿線で物流・工場立地が活発化

 ◇沿道自治体、観光振興に期待感
 首都圏3環状道路のうち、最も外側を通る首都圏中央連絡自動車道(圏央道)。首都圏の道路交通の円滑化、沿線都市間の連絡強化などを目的に、都心から半径40~60キロの位置に計画された。総延長約300キロのうち、現在までに全体の8割に当たる約230キロが開通している。
 今年3月に神奈川県内の海老名ジャンクション(JCT)~寒川北インターチェンジ(IC)間、埼玉・茨城県を通る久喜白岡JCT~境古河IC間が、6月には千葉県内の神崎IC~大栄JCT間が相次ぎ開通した。埼玉県内の桶川北本IC~白岡菖蒲IC間が11月末までに、茨城県内の境古河IC~つくば中央IC間も15年度中の開通を見込む。
 3月8日に全線開通した神奈川県内の圏央道区間(さがみ縦貫道路)は茅ケ崎JCTから相模原市内の都県境までの延長約34キロ。同29日には相模原ICも供用を開始した。
 国土交通省と中日本高速道路会社が5月に公表したさがみ縦貫道路のストック効果によると、県内の南北移動が円滑化され、相模原市から茅ケ崎市までの移動時間が約4割短縮された。周辺の一般道(国道129号、16号など)の渋滞も緩和し、混雑区間の延長が25%減少した。
 こうした開通効果を見込み、圏央道の沿線地域では大型物流施設や工場などの民間投資や企業立地が先行的に進む。新たな雇用創出など地域経済への影響も広がり、相模原市内では14年の新規求人数が11年に比べて3割ほど増加しているという。
 神奈川から奥多摩方面、埼玉・栃木・群馬方面から神奈川・箱根など、広域的な観光交流も活気付いてきた。
 3月29日に開通した久喜白岡JCT~境古河IC間の沿線でも物流施設や工場などの立地が進んでいる。都道府県別の14年工場立地件数を見ると、茨城県が1位、埼玉県も4位と上位に入った。事業者側へのヒアリングでも、多くの企業が圏央道の開通などによる交通利便性の向上を新規投資の理由の一つに挙げる。
 6月7日に神崎IC~大栄JCT区間が開通し、常磐道と東関東道が圏央道を介してつながり、北関東エリアの高速道路のネットワーク機能が大幅に高まった。
 千葉県内の自治体や企業などで組織する成田空港活用協議会は、同区間の開通効果を体感する会員向けのバスツアーと経済活性化ビジネスセミナーを同30日に行った。
 バスツアーでは成田空港と茨城県のつくば間を圏央道、一般道を使って往復し、約40分の短縮効果を体感した。途中立ち寄った道の駅「発酵の里こうざき」は開通後に来場者が2割増加した。地元で酒造業を営む大塚完駅長は「圏央道の開通を機に、発酵による特産品が豊富な神崎周辺の魅力を積極的に発信し、地域活性化のために頑張りたい」と意気込みを語った。
 「ぐっと近く!もっと気軽に!より便利に!~圏央道とつながる成田空港~」と題したセミナーでは、国土交通省関東地方整備局の担当者が、▽経済(企業立地の促進、物流の効率化)▽暮らし(渋滞の解消、交通事故の削減)▽防災・減災(災害時の支援ルート確保)▽歴史・文化(観光振興、広域圏の交流促進)-の四つの観点から、圏央道のストック効果を説明した。
 圏央道の沿線住民に行ったウェブアンケート(14年11~12月実施)では、同区間開通後に圏央道を利用する主な目的として、回答者の85・8%が「観光・レジャー」と答えたことを紹介。首都圏3環状の整備完了後には、成田、羽田両空港から1時間圏内で到着する観光施設が約1・8倍に増加するとの調査結果などを示し、高速道路のストック効果で新たな観光需要が喚起されることを強調した。
 同協議会の石井俊昭会長は「神崎IC~大栄JCT間がつながり、茨城など北関東の方々にも成田空港をもっと活用してほしい。圏央道の未開通区間の早期完成に向け、沿線地域が連携して国など関係先に働き掛けていきたい」と話している。

道路網形成、配送拠点開発後押しに

 ◇デベ各社の用地取得競争激化
 15年から16年にかけて過去最大規模の新規供給が見込まれている首都圏の賃貸用物流施設。新規供給が増加している背景として、物流施設の開発を手掛けるデベロッパー各社は、神奈川・埼玉両県内の圏央道が相次いで開通している効果を指摘する。
 圏央道沿線で特に注目されているのが、東名高速道路・中央自動車道と接続する神奈川県西部エリア(相模原市、厚木市など)や、東北自動車道と接続する埼玉県北部エリア(久喜市など)。各エリア一帯は、一般道も含めた周辺道路との交通結節機能が強化されたことで「広域的な配送拠点としてテナントニーズが高まっている」(デベロッパー関係者)という。延べ床面積10万平方メートルを超す大型物流施設の開発も目立っている。
 一方、業界関係者らが懸念しているのが、物流用地の取得競争の激化だ。「物流施設はオフィスのような地価の高いプライムな立地でなくていい。使う倉庫に見合った賃料を提供できる場所を選ぶ」(同)ことが基本。しかし、物流施設に適した土地の価格も近年は上昇傾向にある。あるデベロッパー大手のトップは「土地所有者との相対(あいたい)取引で取得するのは難しくなっている。従来とは異なるルートで土地を仕入れることも考えないといけない」と話す。
 こうした中、圏央道などの道路整備計画に伴ってインターチェンジ(IC)の周辺地などの市街化調整区域や農地を市街化区域に編入しようという動きが活発になってきた。新たな物流用地の創出につながることから、これをチャンスと見るデベロッパーも多い。
 圏央道寒川北ICから約1・5キロに位置する「ツインシティ大神地区土地区画整理事業」の予定地(神奈川県平塚市)では、これまで予定地内の2カ所で産業系施設の進出企業が募集され、2カ所とも物流施設の開発事業者の提案が選ばれた。物流用地を確保するため、こうした提案力や開発ノウハウが試される場面も増えてきそうだ。
 デベロッパー各社は、将来的な開通が見込まれる新東名高速道路(神奈川県内区間)、東京外かく環状道路(東京都内区間)にも熱い視線を送る。これらの道路整備を見据え、先行的に物流用地の取得競争が始まる可能性もある。

成長戦略とストック効果――道路網の整備と沿線・拠点開発

《日刊建設工業新聞》

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