カーナビの未来を作り出す? アイシンAWの若手プロジェクトチーム「ttnd」とは何か

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ttndのメンバー。中央が伊藤豊大さん
ttndのメンバー。中央が伊藤豊大さん 全 9 枚 拡大写真

アイシン精機の子会社で、オートマチックトランスミッションやカーナビゲーションの製造・開発を手がけるアイシン・エィ・ダブリュ(以下、アイシンAW)。日本のモノづくりを代表する企業のひとつとして業界内の知名度は高いが、メーカーというと堅くて真面目な企業、というイメージを持つ人も多いだろう。

ところが、同社がリリースするスマホ用カーナビアプリ「NAVIelite」では「頭文字D」とコラボしたり、連携アプリ「smart nAVVi Link」で全国各地のゆるキャラを登場させるなど、ユニークなアイディアを具現化したものも少なくない。こうした自由な商品開発の裏には、若手中心の新しい取り組みの存在があった。今回、NAVIeliteから派生したさまざまなユニークな事例の経緯やチーム作りについて、若手のキーパーソンたちに話を聞いた。

◆所属部署を超えた若いメンバーで構成

オートマチックトランスミッションで世界No.1のシェアを誇り、その一方でトヨタをはじめ世界中の自動車メーカーにカーナビを供給するアイシンAW。そのカーナビのノウハウを活かして2011年にリリースしたスマホアプリ「NAVIelite」は、純正カーナビさながらの使い勝手を実現して存在感を発揮している。

その「NAVIelite」がこの5月、人気マンガ/アニメの「頭文字D」とコラボ。あまりの意外さに筆者などはそのニュースを2度見してしまったクチだ。クルマを題材にしているからカーナビと相性はピッタリとはいえ、「頭文字D」は公道でバトルを繰り広げる作品。このコラボはユニークなだけでなく、かなり大胆な選択といえる。

聞けば、その発案や開発を行ったのは、アイシンAW内の「ttnd」なるチームとのこと。では、ttndとは商品開発を行う部署なのかというと、そうではなく、商品開発を本業とする部署とは別に活動しているらしい。そもそも、社内の正規の部署なら○○部□□課といった名称になるはずだが、なぜttndという会社っぽくない名称なのか。いろいろ考えても、どうもその正体が見えてこない。

そこで、ナビの企画開発をおこなっている岡崎工場に出向き、ttndのメンバーに直接取材を申し入れた。いかにも堅い雰囲気の応接間に通されたが、そこに現れたのは、スーツではなくラフなTシャツ姿の男性5人。しかも全員が若い。頂いた名刺には、ttndのロゴが大きく入っている。しかし、それとは別に所属部署も記載されていた。ttndとは、どのようなプロジェクトなのだろうか?

ttndのメンバー中一番の年長者である内田豊さんはこう説明する。「ある程度大きな企業には、本来の業務とは別に、自由な発想で新商品や新事業を企画する活動があると思いますが、ttndもそういった活動を行うプロジェクトチームのひとつです。メンバーは全員が営業部の所属ですが、私は営業管理グループで、他のメンバーも担当の違う第1営業グループ、第2営業グループから横断的に人選されています」。メンバーのキャリアは最長で10年、もっとも若いメンバーはまだ入社して3年だという。ttndという名称にも興味を引かれるところだが、意外にも内田さんを除いたメンバー4人の名前から取ったネーミングだという。こうした名称からも、個人の個性を活かした自由な発想を育てようという姿勢を垣間見ることができる。

アイシンAWにはこのようなチームが複数あるそうだが、とくに名前はなく、ttndという固有の名前を持つチームは例外的だという。ユニークな発想が求められるチームの中でも特にユニークな存在といえるかもしれない。その活動目的を、メンバーの白田大輔さんが語ってくれた。「僕らはカーナビを取り扱っていて、カーメーカーに製品を提案していくこれまでのビジネスももちろん継続していきますが、このプロジェクトでは若いメンバーが集まっているので、もっと違ったエッセンスをプラスしていけないか、ということが起点になっています」

カーナビメーカーがこれから向かう方向性を考えるとき、自動運転やさらなる高度運転支援など、取り組むべき課題は数多くある。これまでのビジネスが未来永劫続くわけでないということも誰もが認識している。ttndメンバーのひとり、伊藤豊大さんも「カーナビはどんどん性能向上が続いていますが、コモディティ化しつつあり、差別化を図れなくなってきているというのは確かです。次の一手、新たなブレークスルーを模索するという点でもttndの活動には意味があるのかな、と考えています」と語る。ただし、実用的な機能を求められているわけではなく、自由に、あえていえばユルく、従来の枠にとらわれない企画を立案しているという。

◆自由な発想が別のかたちで実を結ぶことも

そうした活動の中から生まれ、実現にこぎつけたのが「頭文字D」とのコラボというわけだ。メンバーの岩瀬達紀さんは、「全員が特にコアなマンガオタク、アニメオタクというわけではないのですが、メンバーはこういったポップカルチャーに接して育ってきた世代です。また、これらのポップカルチャーは今や世界的に注目され、高く評価されてもいるので、どんどん取り入れていこう、という流れになっています」と説明してくれた。

しかし、「頭文字D」とのコラボが実現するまで順調だったわけではない。むしろ、それまでにさまざまな苦労や曲折があった。例えば、テレビゲームとコラボする企画を出したが、テレビゲームの業界とは全くつながりがないため、コラボの申し込みはゲームショウのブースにいきなり企画書を持って行くという体当たりな活動だったという。

また、女性ユーザーにも目を向け、恋愛ゲームとコラボした、その名も「壁ドンナビ」(といってもチーム内での通称だが)という企画もあったそうだ。メンバーの浜北直さんがそのエピソードを明かしてくれた。「カーナビは曲がるポイントなどが近づいたとき以外は、注目されず無駄になっていますよね。そうした時にかっこいいイラストがぱっと表示されたり、セリフが聞こえてきたら面白いのでは、という発想がベースになっています。壁ドンナビ自体は、まだ今のところ実現していないのですが、ナビ画面にイラストを表示するカットインシステムがこの企画のために試作され、それは「頭文字D」とのコラボに採用されて日の目を見ることとなったんですよ」。

一見、無駄とも思える試行錯誤が、別のかたちで実を結んだという好例だろう。

◆受け身のOEMから脱却して発信できる積極性を

出荷台数では世界的にも有数のカーナビメーカーであるアイシンAWだが、そのほとんどは自動車メーカーへの納入などのOEMであり、独自のブランド色を出すことがほとんどない。機能的にも、斬新な独自のアイディアを出していくよりは、納入先の要求に沿った製品を作ることがメインとなる。

ttndの活動は、こうした受け身のOEM事業から一歩進んで、独自の製品を作り上げること、あるいは、そのために必要なスキルを身につけるための練習と言えるかもしれない。「頭文字D」とのコラボに続く、ttnd発の企画第2段、第3弾も遠からず形になるはず。さらにその先にあるのは、確固たるブランドアイデンティティの確立。そう考えていくと、かなり壮大なプロジェクトともいえる。今回の取材では、「発信する」という言葉が何度も聞かれた。そこには、自分たちの力で組織や企業のあり方、そしてクルマ社会の未来をも変えていきたい、という思いがあるようにも見えた。

《山田正昭》

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