ボッシュのスマート工場、少量多品種生産の効率化と共に狙うは「人材強化」

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インダストリー4.0アッセンブリーラインが設けられているボッシュ ホンブルク工場
インダストリー4.0アッセンブリーラインが設けられているボッシュ ホンブルク工場 全 24 枚 拡大写真

インダストリー4.0は、高度にIT化されたスマート工場によって少量多品種生産を可能にし、製造面の効率化だけでなく需要/供給までの流通面も見据えた製販一体の生産システムを全世界共通のプラットフォームの上に構築することを目的とするドイツの産官学共同プロジェクトだ。

そのプロジェクトでも中心的な位置を占める自動車部品サプライヤー最大手のボッシュが“インダストリー4.0モデル工場”として位置づけ、マルチプロダクション(多種混流)の生産ラインを持つホンブルク工場を取材した。

◆少量多品種製造ラインの効率向上を目指す

ホンブルク工場は「BOSCH」ブランドで提供している乗用車向けのディーゼルシステムと、「Rexroth」ブランドとして建設機械/工作機械のドライブトレーンや油圧アッセンブリーなどを製造する工場で、両プラント合計で約5300名が製造に従事している。

このうちインダストリー4.0の概念を取り入れた最新のマルチプロダクションラインが導入されているのが、Rexrothの油圧機械製造ライン。建機のアセンブリーパーツは乗用車向けと比べても遙かに種類が多く小ロットの生産となることが一般的だ。

このホンブルク工場の副工場長でディレクターの職にあるマティアス・モラー(Matthias Moller)氏は、「この工場はオートモーティブと建機双方を製造している。自動車はマスプロダクションだが、建機は小ロットで種類が非常に多い。両社のプロダクトの特性を活かしてお互いに学びあい、効率の高い生産ライン構築を目指してきた」と語る。

Rexrothの顧客は全世界の建機/重機メーカーで、日本ではクボタなどが同社にとっての重要顧客だという。「当社は50年にわたり油圧機器に関わっているので生産・製造のノウハウが蓄積されている。ここホンブルクはボッシュのリードプラントとして位置づけられ、最新のテクニカルソリューションや知識をもっているということで、北米/中国/インドなど ボッシュが持つ7つのプラントに対してノウハウを提供している」(モラー氏)という。

建機部品のバリエーションは非常に多く、ネジが1本違うだけ、あるいはデザインだけ、またはソフトウェアだけ、そして同じ機能をするが形状もソフトもまったく別だったりと、類似性も種類も非常に幅が広い。製造のタクトタイムは5秒から125分(「秒」ではない)までと、こちらもかなり特殊なラインだ。

◆部品とラインと人を通信でつなげる

ホンブルク工場のインダストリー4.0アッセンブリーラインは、それまで研究所でテストされてきたものを2013年前半に実際の製造現場に導入したもの。このラインでは、6-7の製品をひとつのラインで組み立てているが、以前ではこのような混流生産は非常に困難だったという。

インダストリー4.0が導入されたのは工場内の一角にあるマルチプロダクトアッセンブリーライン(インダストリー4.0アッセンブリーライン)。およそ幅5m、長さ10数m程度の比較的コンパクトなU字の製造ラインで、ブース入り口に全体の進捗を表示する大型モニターと、組み立てをおこなうスポットに小型のモニターが設置されている以外は、作業員もいれば各種の製造機械なども置いてあり、ぱっと見は従来の製造ラインと変わらないように見える。「インダストリー4.0アッセンブリーラインは見ただけでは中身がわからないので、真似をするのが難しい」(モラー氏)。

しかし、作業員のベルトには個人を識別するBluetoothのタグがぶら下がり、製造途中の部品を運ぶワークピースキャリアにはRFIDタグが仕込まれている。作業員は、組み立てブースに設置された13インチ程度のモニターに表示された製造方法についての解説ビデオを見ながら作業することができ、工程に応じてネジやナットなど必要な組み立てに部品のケースに置かれるLEDが点灯して、誤った取付けを防ぐ仕組みになっている。

作業員が十分に習熟していれば、組み立て解説ビデオを流さない様にしたり、国籍によって表示言語を買えたり、高齢の作業員の場合であれば照明を弱くするといったパーソナライズも実現している。万が一、トラブルなどでタクトタイム通りラインに流れない場合は、管理者に通知が行く仕組みも備えるという。

モラー氏は「インダストリー4.0の最大の特長は繋がっていること。しかしそれは目では見えない。昔と同じように生産ラインに作業員がいる。生産プロセスそのものも変わっていない。機械と人間は確実に繋がっているが生産ラインは変わっていないのでぱっと見では分からない」と解説する。

このインダストリー4.0アッセンブリーラインを導入して2年あまりを経たが、その効果はどうなのか。モラー氏は「我々が改善すべき指標は品質・コスト・納期(リードタイム)であり、このKPIは50年前と何ら変わっていないが、インダストリー4.0の導入によって品質は劇的に改善した。例えば、パーツ100万個に対して発生する不良品の数が2010年は207だったのに対して、15年には75にまで下がった。コストは14%の削減、生産効率も25%向上した。これによる在庫削減効果も大きい」と導入効果に胸を張る。

◆インダストリー4.0は生産技術の革新ではなく人材育成の革新

モラー氏がインダストリー4.0の導入成果として強調するのは効率向上だけでなく、工場で働くワーカーに対する配慮だ。「ボッシュでは、“Connect to Compete”(競争力を得るためにつなげる)というスローガンを掲げているが、通信で繋がった製造ラインはあくまでも黒子に過ぎず、ビジネス拡大のために重要なのは人材であることは変わらない。スマート工場の導入によって、作業者はより高度な職能を身に付け製品、そして企業の競争力を高めていく」。

ホンブルク工場へのインダストリー4.0導入は、少量多品種という建機向けの製造方法とマッチして大きな成果をもたらしたが、これをいかにして自動車用などの短いタクトタイムで大量に流れるラインを多品種化するかは、まだまだ改良が必要にも思われる。ボッシュとしてはユースケースを各地で構築しつつノウハウを蓄積し、いずれはスマート工場の輸出へ向けた取り組みを本格化する考えだ。

《北島友和》

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