懐の深い対応で原作の価値を上げる手塚プロ的版権ビジネス

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「株式会社手塚プロダクション 映像化ライセンスの可能性」
「株式会社手塚プロダクション 映像化ライセンスの可能性」 全 3 枚 拡大写真

10月20日から22日まで、東京・お台場のホテル グランパシフィック LE DAIBAにて、Japan Content Showcaseが開催された。映画やテレビ番組、アニメーション、音楽などの国際取引の場を提供する見本市である。
国際見本市につきものなのが、業界の最新知識を交換するセミナーやワークショップだ。2015年はこの充実ぶりが目立った。10月22日に一般社団法人日本動画協会が主催した「株式会社手塚プロダクション 映像化ライセンスの可能性」もそのひとつである。手塚プロダクション著作権事業局局長の清水義裕氏が登壇し、マンガがかたちを変えながら映像化され国内外のあらゆる層に広がって行くライセンスビジネスのあり方を紹介した。

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マンガの映像化の際にしばしば問題になるのが、原作との関係である。映像化に際して、オリジナルをどこまで変ることが可能かだ。原作者と映像制作者双方のクリエイティビティに関わるだけに交渉も難しくなる。
しかし、手塚プロはこれについて明快である。「アボガト巻とカリフォルニアロールを許すライセンス・製作方式」と説明する。なぜ寿司がワールドワイドになったかと問いかける。つまり基本を外さなければ、現地の合わせた新しい作品になることを認めるという方針だ。
国内でも浦沢直樹が漫画を描いた『PLUTO』や脱力系ギャグアニメ『Peeping Life』とのコラボレーションがあるように、こうした方針は国内外問わない。こうした数々の作品群は、手塚プロ公認の公式二次創作とも映る。コンテンツ業界でも独自の立場でないだろうか。

セミナーでは『鉄腕アトム』を例に、さらに映像展開のあり方が語られた。1950年代に手塚治虫がマンガ連載を始めた本作は、1963年のテレビアニメ化以来、今日に至るまで海外も含めてたびたび映像化されている。
しかし、映像展開は2010年代に入りますます活発化している。これまであまり報道されていない作品も含めて国内外で進む数々の企画が紹介された。
フランスではカリパラ社によるテレビシリーズ『アストロボーイ』のリブート版が製作されている。これは7歳から12歳向けの作品だ。米国・豪州のアニマルロジックは実写版『アストロボーイ』の企画を進める。米国CMI社は、『PLUTO』をシリーズ30本の実写ドラマとして制作中だ。オリジナルを変容させたマンガ『PLUTO』のさらなる翻案である。
さらに国内では『リトル・アストロボーイ』もある。現在は企画段階のプリスクール向け作品。マンガ誌「月刊ヒーローズ」で連載が始まった『鉄腕アトム』の前日談『アトム・ザ・ビギニング』も映像化を視野にいれていると話した。

一見するとバラバラで、ライセンスの叩き売りにも見えかねない展開だ。しかし実際は、これらは確かな戦略に裏付けられている。映像展開の特徴は、国内外、あらゆるセグメントに向けてアトムがかたちを変えながら届けられていることだ。
つまり、多様な表現を認めることでライセンスの可能性を広げる。同時に幅広い展開により、オリジナルの認知度も高まっていく。原作の価値はより強固になっていくだろう。手塚治虫は日本を代表するマンガ家であるが、こうした継続的な露出の多さも作品を色褪せさせない理由なのかもしれない。

作品展開が多様であるのと同様に、ライセンスビジネスのやりかたも様々だ。セミナーの後半では、映像化の際のライセンスビジネスについて解説がされた。作品映像化交渉を許諾するショッピング・アグリーメント、企画開発の独占権を与えるオプション販売、さらに原作使用契約などである。
話しを聞くとシンプルだが、実際のビジネスの現場となるとかなり複雑そうだ。長年、海外ビジネスを重ねてきた手塚プロダクションの経験があってのものだろう。むしろ経験の浅い原作者は、事前の知識武装、あるいは専門家の協力が必要かもしれない。
またライセンス販売では、中国に言及する場面が多かった。かつてハリウッドの映画業界による日本のマンガ原作の積極的な買いつけが話題になった時期があるが、現在は中国がそれにとって代わっているという。これは中国国内で重厚長大産業の成長の勢いが鈍っていることから、ソフト産業に力を入れたい国の方針も反映しているのでないかと清水氏は説明する。『ヤング ブラック・ジャック』の実写ドラマ化、映画化がいち早く中国で決まったように、今後は中国とのビジネスが増えそうだ。
[数土直志]

[アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載]

手塚プロダクションが考える映像化ライセンス かたちを変え世界に広げる独自戦略

《アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.biz》

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