【土井正己のMove the World】将棋の「駒」からレクサスのハンドルへ…変革する「天童」のモノづくり

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天童木工が手掛けたレクサス LSのハンドル
天童木工が手掛けたレクサス LSのハンドル 全 11 枚 拡大写真

山形市内からクルマで20分ほどのところに天童という町がある。天童は、昔から将棋の「駒」の産地として有名で、現在でも駒生産の約9割は天童で作られているという。この駒の町がレクサスの重要な部品を作っているというので、行ってみることにした。

その会社は、「天童木工」という。天童木工は、1940年に天童木工家具建具工業組合として設立され、戦時中は、弾薬庫や木製の「飛ばないおとり飛行機」などを作っていた。戦後に家具作り始め、今では、カーデザイナーの奥山清行氏(Ken Okuyama: 山形出身)がデザインした家具やレクサスのハンドルなどクルマのコンポーネントを数多く生産している。

◆何が変革をもたらしたか

将棋の「駒」の町が、どのようにしてクルマのコンポーネントまで手掛けられるようになったのか聞いてみた。案内してくれたオートモービル事業部 加藤徳俊次長の話は、次の様な内容だった。

「大きな転機は、1947年に当時の経営者が珍しさから、『高周波加熱用発振機』を日本で最初に導入したことでした。これが、薄く切った板を重ね接着させるのに欠かせない機械で、電波による熱により複数の板を短時間で強力に張り合わせることができる優れモノです。これは、当時の国鉄の初乗り運賃が0.5円だった時に25万円もしたらしく、大きな冒険だったようです。しかし、こうしてできた成形合板は、強度が普通の木材の3倍となり、また、プレスなどの加工がしやすく、いろいろなデザインも作り出すことができます。すなわち、薄さ、強度、デザイン性に優れた木工加工ができるようになったということです」。

最初に目を付けたのが丹下健三氏で、1953年に同氏設計の「愛媛県立会館」の客席椅子を天童木工が1400席納品した。

1987年にホンダが、量産車としては初めて、この成形合板の技術を取り入れた本杢(モク)内装パネルを生産。2000年に、トヨタがレクサス『ES』(日本名:ウィンダム)のハンドルを作りだした。現在では、レクサス『LS』のハンドルを生産している。その他にも、木製のシフトノブやセンターコンソールパネルなども作っており、今や日本の自動車にはなくてはならない部品会社になった。また、同社にとっても自動車部品が同社の売上の大きな部分を占めている。そして、自動車を通じて同社の製品は世界で使われている。これからは、世界ブランドの家具メーカーになるチャンスも大いにあるのではないかと期待したい。

◆伝統の継承と革新への挑戦

このように天童木工は、将棋の駒で培われた木工技術を伝承しながら、成形合板という革新的技術を取り入れ、「モノづくり」を守り、発展させてきた。「伝統の継承と革新への挑戦」、ここに成功の秘訣がある。日本の地方で守られてきた「モノづくり」には、必ずと言っていいほど、このキーワードが存在している。以前このコーナーで紹介した京都の西陣織メーカー「細尾(HOSOO)」が欧州で人気となってきているのも、伝統的な西陣織の技術を伝承しながら、欧州の規格サイズに合わせた織機を導入したことが、飛躍の秘訣だった。

◆これからの「日本ブランド」

これから世界で勝負できる「日本ブランド」とは何か。これをよく考えるのだが、私は、レクサスに見られるように「超先端技術」と「日本の伝統的ハンド・クラフト」の融合ではないかと思う。そして、後者は日本の地方に多く存在している。これらを再発掘し、製品に取り入れていくことが、「日本ブランド」を強くすることであり、また、ハンド・クラフト職人を守っていくことにも繋がる。「日本ブランド」はまだまだ強くなりそうだ。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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