【VW ポロ GTI 800km試乗】“VWマジック”は影をひそめたが…井元康一郎

試乗記 輸入車
茨城北方、旧里美村のワインディングロードにて。幅員の狭い山岳路走破は得意項目だった。
茨城北方、旧里美村のワインディングロードにて。幅員の狭い山岳路走破は得意項目だった。 全 24 枚 拡大写真

フォルクスワーゲングループジャパンが今秋日本でのデリバリーを開始したコンパクトスポーツハッチ『ポロ GTI』6速MTモデル。9月下旬、そのポロで800kmあまりツーリングしてみる機会があったのでリポートする。

ポロGTIはEU市場におけるBセグメント(サブコンパクト)モデルのポロを高性能化した、いわゆるホットハッチ。欧州ではこの種のモデルは激戦区で、プジョー『208GTi』、ルノー『クリオ(日本名ルーテシア) R.S.』、フォード『フィエスタST』、オペル『コルサOPC』等々、渾身の力作が名を連ねる。かつてはBセグメントホットハッチといえば、ほどほどの出力のエンジンに高い能力のシャシーを組み合わせて作られるものであったが、現代では性能が先鋭化し、200ps超級も珍しくなくなった。ポロGTIはライバルより排気量がひとまわり大きな1.8リットル直4ターボを搭載。6速MTモデルのスペックは最高出力192ps、最大トルク320Nm(32.6kgm)。

試乗ルートは東京・葛飾を出発し、茨城、栃木、埼玉、山梨を巡って起点へ戻る約800kmのコースで、常磐自動車道三郷I.C.から同・石岡千代田I.C.までの約55km以外はすべてバイパスを含む一般道。一般道のおおまかな内訳は市街地3割、郊外道5割、山岳路2割。行程の3割は1名乗車、残りは2名乗車、エアコンは常時オートでドライブした。

◆「Sport Select」の効果

ドライブ前半は茨城北部方面の散策で、最遠で茨城・福島県境近くの旧里美村まで達した。そこでまずチェックしたのは、高速クルーズ時の乗り心地だった。6速MTモデルには「Sport Select」なる2段切り替え式ショックアブゾーバーが装備されている。筆者はそのことを知らず、9月初旬にお届けしたまったく同一の試乗車のショートドライブインプレッションで「シャーシチューニングが甘い」と書いた。それについてフォルクスワーゲングループジャパン(VGJ)から「ショックアブゾーバーの設定がSportになっていたのではないか。もう一度試してほしい」と言われたため、真っ先にチェックしてみたのだった。

シャシーコントローラーについて結論から言えば、VGJの主張とは反対に、スポーツモードに入れたときのほうが明らかに自然な乗り味であった。エンジンスタートのたびにノーマルに戻る仕様で、意図しないとスポーツにはならない。今回のドライブの冒頭で常磐道の高速クルーズにおいて両モードを試してみたが、ノーマルではアンジュレーション(路面のうねり)や段差でピッチングやブルつきが発生するのに対し、スポーツでは一転、ボヨンボヨンとしたフィーリングがなくなり、スッキリとした乗り味になった。スポーツのほうがVWが本来狙ったセッティングなのだろう。

スポーツにすると乗り心地は固い。筆者がこれまで日本で運転したBセグメントスポーツで最も固かったのはルノー『ルーテシアR.S.』のシャシーカップというハードサス仕様だが、それに近いくらい固い。この種のクルマに乗るカスタマーは、ダンピングさえしっかりしていれば乗り心地の固さを苦にしないという人が多数派であろうが、それでもデートドライブやファミリードライブの時にはもうちょっと柔らかいほうがいいと思ったりするものだ。街乗りや多人数乗車の時はノーマル、ツーリング時はスポーツという使い分けは有効であろうし、ノーマルがあるからこそスポーツ側を思い切ったハードセッティングにできたという側面もあるだろう。

ワインディングではこのスポーツセッティングはとても良く機能した。バンジージャンプの名所、竜神大吊橋や天体観望スポットとして知られるプラトー里美界隈には舗装が荒れた林道のようなワインディングロードが多数存在するが、そういうコンディションでのロードホールディングは良好。またフロントに大きな1.8リットルターボエンジンを搭載するわりには鼻先の動きは軽快。性能的には申し分ない水準にあった。

◆VW流ホットハッチに期待するもの

ただ、その走りにVWらしいテイストがあるかといえば、それはあまり濃厚ではないと感じられたのも事実。もともとVWのスポーツモデルはフロントを深くロールさせ、とても安定した前傾姿勢でコーナーを回るような味付けを身上としていた。初めて走る道でも挙動を予測しやすいという安心感は鉄壁のもので、悪い道における乗り心地の良さもライバルの追随を許さないものだった。

が、ポロGTIは限界性能は高いが、どんな道でもドンと来いというような気分に浸れるようなタイプの動きではなく、シャシー能力の高さも乗り心地とバーターだ。こういう味付けは何もVWでなくとも他メーカーでもできることだし、ロール角や荷重移動の連続的な掴みやすさなどドライビングプレジャーに直結する分野では、前述のルーテシアR.S.シャシーカップのほうがずっと上だったりと、ライバルにお株を奪われている部分もたくさんある。

Bセグメントホットハッチの性能競争が激化する今日においては、絶対性能と味の両立は難しくなる一方。チューニングの余地が小さい中でVW流を保ち続けるのは容易なことではないだろうが、ポロGTIを買うようなコアなVWファンは単に速ければいいというのではなく、困難な二律背反を克服するようなマジック、ミラクルを期待しているものだ。排出ガスで不正をしてまで無意味に世界一を目指すヒマがあったら、クルマの動かし方に関する膨大な見識を今のクルマにどう生かしていくかといったことに没頭すべきだったのではないか。

絶対性能はともかく味に乏しいシャシーとは反対に、スペックではトップランナーではないが味は極上という出来に仕上がっていたのはパワートレインだった。Bセグメントホットハッチの多くが排気量1.6リットルターボであるのに対して1.8リットルとひとまわり大きく、ターボ過給圧は低いという仕様で、プジョー『208GTi 30th アニバーサリーエディション』の208ps、ルーテシアR.S.の200psに対して最高出力は192psと若干劣る。

が、実際に運転してみると1000rpm台半ばでもパンチのあるレスポンスを示し、高回転に向けて湧き上がるようにパワーが出てくる。排気量が大きいぶんフライホイールを軽くすることができたのか、シフトアップ、シフトダウン時の回転落ちも今どきの直4エンジンとしてはちょっとライバルが見当たらない素晴らしい切れ味だ。パワーはあるがのっぺりとしたフィーリングの昨今のダウンサイジングターボとはおよそ趣を異にする、語弊を恐れずに言えば、ホンダの昔のスポーツVTECエンジンの回転限界を低めたようなフィーリングだった。

6速手動変速機はVWのMT車の伝統的な味である、ヌルッと入る感じのフィーリングだ。パシッとギアが噛み合うような精密機械的なテイストとはまったく異なるが、どんな回転域でもシフトアップ、シフトダウンの両方向で狙った段数に向けてシフトノブを押し付ければわずかな手ごたえの後に着実に入るというのは、スポーティなドライビングをより楽しいものにする。このエンジンと変速機のおかげで、ポロGTIは街の中での何の変哲もない加減速さえも楽しいというクルマになっている。

◆意外とツーリングに向いているポロGTI

北茨城周遊のマイレージは1日で300km。秋の連休、それも絶好の晴天というのにクルマでの行楽客は少なく、ドライブ旅行の衰退が如実に感じられた。竜神大吊橋など、ネットメディアやテレビが大々的に取り上げているスポットは混雑しているのだが、それ以外の絶景スポットは軒並みガラガラで、もったいないくらいだった。今回のドライブの最北地点、風力発電機が立ち並ぶ丘陵のプラトー里美は、夜になると天体観測にもってこいのスポット。この日も最近天体観測を始めたという父娘が日没前からビクセンの経緯台式アポクロマート天体望遠鏡を出し、談笑していた。筆者が子供の頃、高性能屈折望遠鏡は蛍石レンズを使うものが多く、きわめて高価だった。今日では光学技術が発達し、ガラスレンズのEDアポクロマートで素晴らしい性能を出せるようになったため、望遠鏡の価格的な敷居は大きく下がった。クルマを使う趣味としてはかなりおススメである。

小山で泊を取り、翌日は秩父経由で甲府盆地に向かった。お目当ては勝沼のぶどう。9月下旬の連休頃は実りの早い品種が完熟、遅い品種が出回り始めという、多種多様な味が楽しめる時季で、狙い目である。今年の秋は埼玉と山梨を結ぶ雁坂トンネルが11月末まで無料開放されていたため、普段は閑散としている国道140号線の交通量は結構多めだった。

今年は夏が高温だったこともあって、気温が高いほうが実がおいしくなる品種のぶどうの味は最高に素晴らしかった。ぶどうの味は実は園によってまちまちで、大量生産・大量販売で利益を狙う園、間引きをしっかりやって水やりにもこだわり、味でリピーターを獲得する園、高級果物店向けや贈答品向けを主眼に、味と見た目の両方が良いものを丁寧に作って高値で売る園などさまざまだ。筆者が毎年のように行くのは2番目のパターンの園のひとつ、福寿園。主人の味へのこだわりはものすごく、一枝に残す房の数だけでなく栄養が行き渡りやすいようなインターバルも考慮した間引きを行い、また糖度がきっちり出ていなければ、高値で売れるお盆前の出荷をスルーするほどだ。探せばほかにもこだわりの園があったりするので、収穫期に訪れて自分のお気に入りの園を探しに行ってみるのも楽しかろう。

清里に寄り道をし、さらに佐久穂にある山間の宿、臼石荘で長野県限定種の翡翠そばを食した後、関東へはワインディングロードの十石峠経由で帰投。佐久穂から埼玉県本庄までの間、約80kmにわたって山岳路が続くルートだが、こういう道では足の良し悪しで疲労度がまるで違ってくる。日本は公道の制限速度が低い国ではあるが、道を選ばず自由にツーリングをしたいという人にとっては、シャシー性能の優れたクルマに乗る意味は結構あるものだ。1日で一般道ばかりを約500km走った後の疲労感は小さく、ツーリングには向いていると言える。

2日間、807.8kmを走り終えた時の燃費計の数値は17.6km/リットル。合計給油量は45.40リットルで、満タン法による実燃費は17.8km/リットル。燃料はハイオクで、給油口のふたには欧州仕様の95オクタンと異なり96オクタン以上と書かれていた。レギュラーとハイオクの混合給油はやめたほうがよさそうだ。また、そんなことをしなくても、このくらいの燃費であればハイオクでもまあまあ諦めがつくというものであろう。

◆世界一をめざした戦略の影響

まとめに入ろう。ポロGTI 6速MTは、シャシー性能は高性能ハッチとしては十分なレベルにあるものの、日本をはじめ世界の自動車エンジニアが「VWマジック」と賞讃するようなハンドリングと乗り心地のバランスは影をひそめ、乗り味は没個性的であった。長距離ドライブ耐性については、こと疲労度に関して言えばユーザーから厳しい要求が突きつけられる欧州モデルとして及第点をつけられるものの、高性能化でドライブフィールがソリッドになったぶん、過去のGTIと比べると負けるかもしれない。また、運転を飽きさせないためのシャシーチューニングという観点では、ルーテシアR.S.やプジョー208GTiなどにむしろ後れを取っているように感じられた。

救いはパワートレインで、要求されたぶんだけエネルギーを出せればいいんだといわんばかりの普段のVWとはおよそ異なる官能性があった。車軸にエンジンパワーが伝わるだけで楽しいというクルマは今日めっきり少なくなったので、その一点で選択肢に入れていいモデルではある。

VWはおりしも、排出ガスの不正問題で創業以来最悪の危機に直面している。世界一を無理に目指したことが一因であろうことは言を待たないが、その拙速な戦略の影響はメカニカル面での不正だけでなく、クルマの味付けにも及んでいたのだなとあらためて感じられた。VWの再生は企業体質を正して公明正大なモノづくりに回帰することが絶対条件だが、そればかりでなく、世界のVWユーザーがVWに何を望んでいたのかを徹底的に再考すべきだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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