【中田徹の沸騰アジア】白く霞むインドの空、デリーは車両規制へ…中央政府は電動化促進

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ムンバイ都心部
ムンバイ都心部 全 7 枚 拡大写真

11月後半にデリーとムンバイを訪れたときのこと。首都の空も商都の空も白くかすんでいた。オートリキシャで市中を移動していると直ぐにのどに違和感を覚える。特にデリーの大気汚染問題は警戒レベルに達しており、健康被害を懸念する声も大きくなっている。

◆「ガス室のようだ」

デリー高等裁判所は12月3日、デリーの生活環境を「ガス室で生活しているようなもの(living in a gas chamber)」と表現した。PM2.5の許容量は最大60μg/m3と決められているようだが、汚染が深刻なデリー市内の複数地域では既にこの基準値を大きく上回る。

大気汚染物質の主な原因は、建設現場などからの粉塵や埃、ごみや葉を燃やした煙、自動車の排出ガスと言われる。自動車の場合、深刻化する渋滞が影響しているとの指摘があるほか、過積載のトラックも犯人だとされている。

翌12月4日、デリー政府は自家用車の走行規制を導入すると発表。ナンバープレートの末尾の数字(奇数か偶数か)によって車両を分け、1日おきにそれぞれの車両の使用を認める形を採る。2016年1月1日から実施される予定だ。既に中国の北京市では類似の規制が導入されているが、「ガス室」レベルに汚染されたデリーも同様の対策に乗り出した。デリー政府は加えて、サウスデリーに位置する操業40年のバダルプル石炭火力発電所の閉鎖なども決定した。

◆電動車普及策が始動

大気汚染問題が深刻化するなか、インド中央政府は排出ガス規制の強化を目指している。インドでは2010年に欧州排ガス規制ユーロ4に相当するバラットステージ4(BS4)が主要都市部で先行導入されているが、これを2019年までにユーロ5相当に、2023年までにユーロ6に引き上げる方針。排ガス規制の強化に当たって、車両メーカーには燃料噴射装置などの改良が必要となる一方、石油会社が燃料品質を向上させなければならないため、実施時期の正式決定に時間がかかっている。

中央政府は電動車普及促進にも取り組んでいる。マイルドハイブリッド車、フルハイブリッド車、電気自動車などの普及促進策であるFAME-Indiaを2015年3月に発表。翌4月から対象車種への補助金給付を開始した。

主な補助金対象モデルは、スマートハイブリッドシステム搭載のマルチスズキ『シアズ SHVSハイブリッド』と『エルティガ SHVSハイブリッド』、トヨタ『カムリ ハイブリッド』、マヒンドラレバ『e2o』。2015年9月1日に発売されたシアズSHVSハイブリッドの販売が好調なようだ。また、トヨタ カムリの販売台数に占めるハイブリッド比率は8割となっており、補助金効果が早くもみられる。

◆消費者の反応

筆者の友人A君はデリー出身で20代。富裕層の子息で、弁護士を目指して勉強中だ。そのA君もデリーの環境問題を懸念している。大気汚染の健康への悪影響、食の安全といったことに関心があり、行動をとらないといけない、と熱く語る姿が印象的だが、一方で、弁護士になったら中型セダンのVW『パサート』あるいはシュコダ『スーパーブ』を買いたいと話す。(将来の)顧客に対する説得力を持たせるためにもそうしたクルマが良いのだと言う。

また、インドのある電装部品メーカーは、インドの消費者が電動車に対してどれだけ追加の費用を払うか分からない、と話す。燃料代削減のメリットが明らかでなければ売れないだろうとの当然の指摘で、電動車の普及は着実に進むが時間がかかるとの見方だ。

燃料価格の低下基調が続く見通しのなか、「バリュー・フォー・マネー」を重視するインドの消費者に対して電動車をアピールするのは難しいかもしれないが、物品税優遇の無い全長4m以上の乗用車に簡易な電動システムを採用し補助金による価格引き下げを狙うマーケティング戦略はとりあえず効果的だろう。まさにマルチスズキが採用している方法だ。来年2月に行われるインド自動車ショーでは、こうした電動車が主役になりそうな雰囲気である。インド独自の新型電動車・環境技術が面白くなりそうだ。

《中田徹》

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