【トヨタ プリウス 900km試乗】弱点を克服し、ロングツーリングカーに…井元康一郎

試乗記 国産車
トヨタ プリウス 新型(Aプレミアム ツーリングセレクション)フロントビュー。下栗の里にて。
トヨタ プリウス 新型(Aプレミアム ツーリングセレクション)フロントビュー。下栗の里にて。 全 26 枚 拡大写真

トヨタ自動車が昨年12月に発売したCセグメントハイブリッド『プリウス』の第4世代モデル(以下プリウス4)で900kmあまりツーリングしてみたので、レビューをお届けする。

プリウス4は内燃機関である1.8リットル直4ミラーサイクルこそ第3世代モデルの改良型だが、それ以外の部分についてはほぼ全面刷新され、トヨタのクルマづくりの最新技術が盛り込まれている。試乗車はトップグレードの「Aプレミアム ツーリングセレクション」にカーナビを追加装備したもので、総額は355万8000円となかなかの高級車である。

◆フルモデルチェンジ2世代ぶんのパフォーマンス

試乗ルートは東京を出発し、東海道経由で愛知の豊川へ。そこから国道151号線、国道473号線を使って南信濃の秘境遠山郷にアプローチ。帰路は諏訪湖方面から甲州街道を通って東京に戻るというもの。長野エリアでは従来のトヨタ型2モーターハイブリッドが苦手としていたアップダウンのきついワインディングロードが延々と続く、結構厳しいルートである。

そのルートにおいて、プリウス4はノンプレミアムのツーリングカーとして最上クラスという水準には及んでいないものの、第3世代からは通常のフルモデルチェンジ2世代ぶんに相当するのではないかと思えるくらいに良好なパフォーマンスを示した。

改良が最も顕著だったのはハイブリッドパワートレインだ。プリウス4といえばJC08モード走行時の燃費が最高40.8km/リットルという省エネルギー性が注目の的となっているが、それ以上に注目すべきはエンジンとモーターのパワーをまとめた出力制御が従来のトヨタのあらゆるハイブリッドシステムとは別物というくらいに良くなったことだ。

長野の山岳路のように道は狭く、アップダウンはきつくという環境下においては、これまでのトヨタのハイブリッドカーはお世辞にも走り心地が良いとは言えなかった。スロットルの踏み込み量と発生するパワーの相関関係があいまいで、急勾配を登っているときなど、しばしばパワー不足で失速したり、逆にパワーが出すぎたりといった具合で、ストレスフルなドライブを強いられるのが常だった。

プリウス4はその悪癖が嘘のように解消されており、スロットルの踏み込みで自分のイメージ通りのパワーを自在にコントロールできた。また、パワーを出した時のエンジンの回転感も旧型のガサガサしたフィーリングから一転、なかなか気持ちのよい伸びきりぶり。内燃機関と電気モーターという特性のまったく異なる2つのパワーソースをぴたりと協調制御するのは非常に難しいことなのだが、初代プリウスの先行開発期間から数えて20年以上の歳月を経たいま、トヨタはそのツボを深いところでつかみつつあるように感じられた。もちろん出力の絶対値は大したものではなく、もう少し強力なエンジンを積んでみても面白そうに思われたが、まあそれは他のモデル、たとえばプリウス4をベースに作られる次期「レクサスCT」などの役目だろう。

◆シャシー性能はきわめて高いが、味付けにもうひと工夫

長野の遠山郷は、かつては林業の一大集積地として栄えたエリアだが、80年代のプラザ合意後の円高によって国内林業が壊滅的な打撃を受けた後は過疎化が進み、今日ではすっかり寂れてしまっている。しかし、九州山地、紀伊山地などと並ぶ広大な大森林が広がり、遠方には3000m級の高山。また領家変成帯と三波川変成帯という2つの異なる地盤がぶつかる地点であり、あちこちで“日本のつなぎ目”を目視できるなど、地質学的なダイナミズム味わえる素晴らしい場所だ。遠山郷に湧き出る温泉が塩水なのは、1億年ほど前はこの地が深海であったことの名残である。

過疎地で交通需要が僅少であることと、中央構造線の中でもとくに地盤が弱い場所であることが、細くて荒れたワインディングロードが延々と続くというこの地の道路相を形成している。そんな道を安全に、速く、快適にツーリングするには足の良さが重要なファクターとなる。プリウス4のシャシー性能は、過酷な道路環境においても十分な高さであった。

旧型はとりわけ砂がところどころに浮いていたり、舗装の破損があったりといった悪路になるとタイヤグリップが失われがちで、曲率の高いコーナーではダダダッとだらしなくアンダーステアが出ることしばしばという感じだった。

それに対してプリウス4は、同じような道でもはるかに余裕を持って走り抜けることができた。ボディの低重心化とサスペンションの容量アップが効いているのか、コーナリングでも前外側のタイヤに荷重が集中せず、4輪でしっかりグリップを保てるようになったイメージだ。試乗車は215/45R17というサイズの高性能タイヤを履いていたが、ツーリングセレクションとノーマルはタイヤ以外、スプリングレートもショックアブゾーバーの減衰力も同一なのだそうで、ノーマルでもコーナリングスピードは低くなるであろうが、似た特性が与えられていると推測される。

改良すべき点もある。クルマにかかっている横Gや沈み込みなどのインフォメーションをドライバーの体に正確に伝達するためのシートチューニング、ステアリングチューニングは依然として後進的だ。クルマの動きがいちいちリアルタイムではなく一呼吸置いて伝わってくるという感じである。シートのホールド性が弱いことに加え、柔らかい足回りを好む顧客の評価を気にしてか、サスペンションのロール剛性が高いのにゴム類は柔らかくセッティングされているような感触があり、そのあたりが原因であるような気がした。

シャシー性能自体は高いためサーキットやテストコースなど、ルートがすべて明らかな場合は大した問題にならないだろうが、道路環境が刻々と変化するツーリングにおいては、インフォメーションの後れは味の悪さにつながってしまう。クルマの動きと体感の一致性が高いクルマは、初めて走るような道でも自然と走行ラインが見えてくるように感じられるものだし、そのほうが疲れもずっと少なくてすむ。せっかくクルマの性能を上げたのだから、味付けにもこだわってほしいところである。

◆トラブル込みでも実燃費は22.3km/リットル

ツーリング中の燃費は良好だった。燃費を計測した区間はトータルで911.2km、給油量は40.79リットルで、満タン法による平均燃費は22.3km/リットルとなった。燃費計表示は23.6km/リットルで、実燃費に対して6%弱の過大表示であった。

ただし、この燃費は実際よりやや低めであることをお断りしておきたい。国道152号線高遠付近を走行中、左前タイヤがパンク。走行抵抗が増した状態で数十kmを走行したうえ、夜間で救援が呼べなかったことから車内で一夜、暖を取るなどして燃料を浪費したぶんが含まれているのだ。約11時間停止中の燃料消費量は走行距離と区間平均燃費計の数値の変化からおおよそ2.8リットルと推算され、そのぶんを差し引くと約24km/リットルとなる。

内訳を見ていこう。取材で東京と神奈川の三浦半島を高速道路主体で往復した147.8kmが23.4km/リットル(燃費計表示25.1km/リットル)。世田谷から国道246号線経由で沼津に出て、そこから高速道路と一般道バイパスを併用して走行した305.5kmが23.8km/リットル(同25.6km/リットル)。南信濃の山岳路を含む地方道を走行し、その後茅野で“車中泊”を余儀なくされた後、山梨県韮崎までの299.2kmが17.9km/リットル(同18.6km/リットル)、そこから国道20号線および都心を経由して東京・葛飾までの158.5kmが32km/リットル(同33.4km/リットル)。

数値からお分かりいただけるであろうが、最後の区間のみエアコンON、エコモードによるエコラン志向でのリザルト。本来はJC08モード燃費37.2km/リットルを出してみようと思ったのだが、筆者はもともとエコランに徹し切るほど我慢強くないうえ、トヨタのハイブリッドカーのフィーリングが好きでなかったことからドライブ経験も浅く、都心が工事渋滞していたことがとどめとなってアタックにはあえなく失敗した。プリウス4は旧型と異なり、走りの気持ちよさが出てきたので、燃費向上に血道を上げるよりは、思い通りに走ってそこそこ良い燃費を享受するほうが、満足感が高いような気がした。

もう一点感心したのは、第3区間の車中泊。まさかパンクで一夜立ち往生するとは考えてもいなかったため、防寒対策をまったく取っておらず、燃料浪費を覚悟で車内で暖を取っていたのだが、バッテリーの電力残が少なくなった時と水温が下がった時だけエンジンがかかるため、一晩での燃料消費量はわずか3リットル未満と、普通のクルマの半分以下ですんだ。また、シートヒーターの具合がきわめて快適で、ダウンジャケットをかけて寝てみたらまるで温熱ヒーリングのような気持ちよさ。朝までぐっすり寝ることができた。

もちろん普通のクルマでもエンジンをかけっぱなしにしておけば同様の住環境を確保できるわけだし、遭難を前提にクルマを選ぶのは馬鹿らしいと考えるタチではあるのだが、いざというときにガソリン消費量が少なくてすむというのはちょっぴりトクした気分になるし、燃料の残りが乏しいときには安心感も得られるだろう。

総じてプリウス4は、歴代プリウスが持っていた弱点、すなわち経済的な移動体としては申し分ないが走りの性能は悪いという弱点を大幅に克服したという点で、新たな段階に入るモデルに仕上がっていた。初代GM「サターンクーペ」を連想させる、モロにアメリカンなルックスは好き嫌いが分かれそうだが、これまで走行性能でプリウスを忌避していた層、とくにロングツーリング志向の強いカスタマーの購入リストに入るレベルになってきたことで、エコカー市場の構図にどういう変化が出るか興味深い。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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