帆船に乗り込み新人研修…企業が注目する「セイルトレーニング」

船舶 企業動向
グローバル人材育成機構の帆船「みらいへ」事業部の小原朋尚さん
グローバル人材育成機構の帆船「みらいへ」事業部の小原朋尚さん 全 4 枚 拡大写真

 公益財団法人日本生産性本部は2016年4月入社の新卒新入社員を対象に、人材研修プログラム「新入社員セイルトレーニングコース」を導入する。

 これは数日に渡って帆船に乗り込み、風や波が刻々と変化する船内環境を通じて、組織間の役割認識やチームワーク、行動の主体性を育むもの。2014年から帆船「みらいへ」で研修を実施している、一般社団法人グローバル人材育成機構が受託する体験型プログラムだ。

 今回、セイルトレーニングを研修に活用する意義や由来、プログラムの特徴について、グローバル人材育成機構の帆船「みらいへ」事業部の小原朋尚さんに、横浜港で停泊中の同船内にてお話を伺った。

■「みらいへ」が誕生するまで

 元々、大阪市が1993年に竣工したセイルトレーニングシップ「あこがれ」が前身であるという「みらいへ」。セイルトレーニングのほか、地域振興などにも活用。2000年には大阪オリンピック誘致のPRのため、約8ヶ月をかけ世界一周を達成したこともあるという。

 「この船ができた時にちょうど大学一年生だったんですよ」と語る小原さんは、高校時代からボート免許を取得するなど船への関心を抱き、同船のボランティア募集を見つけて応募。大学時代にはボランティアクルーとしてオーストラリア、インドネシアなどの海外航海に随行したという。

 大学卒業後には海を仕事にしようと、海や船に関する法律を扱う海事代理士の資格を取得。「海や船を活性化していきたい」と和歌山県及び和歌山大学で共同研究されていた「マリンスポーツを活用した教育旅行のプログラム開発」プロジェクトに参加し、和歌山大学の共同研究員としてヨットやダイビングを活用した企業研修などのプログラムを作成している。

 そんな折に大阪市が「あこがれ」に関する事業廃止を決定。同船が売却されることを知った小原さんは、「学生時代からお世話になった船ということもあり、スポンサー企業の協力を得て落札させて貰いました」と当時を振り返る。同船を「みらいへ」に改称しただけでなく、「営業の方法であったりプログラムであったり、新しく構築しています」と語っている。

 なお、元来セイルトレーニングとは、第二次世界大戦をきっかけにイギリスでできた教育プログラムとのこと。当時イギリスの一般商船がドイツのUボートに攻撃されて沈没させられる中、体力の有り余った若い船員よりも、年老いたベテランの船員が多く生き残っていた。これに注目した教育哲学者のクルト・ハーンが、若い人の困難に立ち向かう意志を養う目的で設立した冒険学校「アウトワード・バウンド」が、セイルトレーニングの発祥となっている。

■狙いに応じた様々な設定

 プログラムでは宿泊を行う場合に約30名が、日帰りの研修では約60名が参加。5名から8名でチームを構成し、船内活動にチャレンジするため、新入社員の少ない中小企業でも参加できる。研修期間は1日から10日程度。小原さんによれば「基本的に港があるところであればプログラムが実施可能」という。関西地域で実施の場合、日帰りでは大阪湾周辺を航海、2泊3日以上では瀬戸内海や太平洋が航行海域に設定される。

 「みらいへ」で行われるプログラムは多彩かつユニークだ。オリエンテーションではチームで乗船中の目標を共有し、“チャレンジネーム”と呼ばれる船内でのニックネームを各自で設定。その他、デッキブラシやロープを用いて帆船ならではの競技を行う「デッキアクティビティ」、甲板を全員で磨き上げる「デッキウォッシュ」、高さ30メートルのマストの中間にある見張り台までを登る「マストクライム」、全員でセイルを操作する「セイルハンドリング」など、船内を活用した様々なプログラムが用意されている。

 「非日常な心が揺さぶられる空間で潜在的な意識に気づくこと」や「思い通りにならない大自然と対峙して自分自身と向き合うこと」、「『本気を出さなければ達成できない課題』に挑むことでチームメンバーと本音を交わすこと」をプログラムの狙いとして挙げた小原さん。「昨今の若い参加者には『本音で語らない傾向』が見られますね」とのことだが、課題克服のためにチーム内で衝突することで、段々と本音のコミュニケーションが生まれてくるという。

 「新入社員研修の場合、まったく部署が異なる社員同士でも活動をともにするのが『みらいへ』のセイルトレーニングプログラムです。学歴や出身も異なり、入社後の業務では一緒になることのない社員同士が、同じチームとして協力しあえるのも同プログラムの特徴ですね」

■これからの「みらいへ」

 今後、同プログラムの展望として実施を検討しているのが「フォローアップ研修」。「心を揺るがす感動体験も半年したら忘れちゃうんですよ」と小原さん。「半年後に同じことをする必要はなくて、ただ、この船に1日でも帰ってきて貰えれば『あの時に感じた熱い思い』を思い出すはずなんです」とフォローアップの必要性を語った。

 個人として、組織人として、船内での活動を通じて大きな学びを得ることができるセイルトレーニング。今回、日本生産性本部が導入する人材研修プログラム「新入社員セイルトレーニングコース」に、これからも注目していきたい。

船内体験が新入社員を強くする!いま企業が注目する「セイルトレーニング」

《オフィス本折/H14》

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