【ジャガー XF 試乗】ドイツ製プレミアムカーの牙城を崩しうる潜在能力…武田公実

試乗記 輸入車
ジャガー XF 20d Prestige(左)とXF S(右)
ジャガー XF 20d Prestige(左)とXF S(右) 全 24 枚 拡大写真

2007年のデビュー以来、全世界で28万台を売り上げるヒット作となったジャガーのセグメントEアッパーミドルサルーン『XF』は、昨2015年春のニューヨーク・ショーにてフルモデルチェンジした第二世代をワールドプレミア。同年9月には我が国でもオーダー受付がスタートしていたが、このほどついに第一陣が日本上陸を果たした。

二代目となったジャガーXFだが、さらに一年前となる2014年にデビューしたセグメントDサルーン、妹分に当たる『XE』が登場したことによって立ち位置を上方移行。さらに高級サルーンとしての資質を高めたという。またXEで世界を驚かせた、ボディの構造体の75%をアルミ軽合金で構築するアーキテクチャーを採用したことで、テクノロジーの面でも最新世代のドイツ製ライバルたちにも勝るとも劣らない、世界の最先端へと躍り出ることになった。

ジャガーにとっては、既に日本国内でも大ヒットを博しているXEとともに「伝家の宝刀」たるスポーツサルーンの二枚看板となるべきXF。その進化のほどを、伊勢志摩を舞台としたテストドライブで検証してみよう。

◆ジャガーの伝統を現代に昇華

初めてジャガーXFを間近で見た時の第一印象は、なかなかに好ましいものだった。初代XFを特徴づけていたアグレッシブ、あるいはアクの強い印象は若干薄れたものの、よりスリークで流麗なスタイリングは、率直に言って美しい。

ドイツのライバルたちが、フォーマルな4ドアサルーンとスタイリッシュな4ドアクーペの二本立てでラインナップしているのに対して、保守本流である4ドアサルーンを4ドアクーペのごとくスタイリッシュに仕立ててきている。それは現在のジャガー・ランドローバー社の懐事情による選択なのかもしれないが、出来上がったクルマの美しさはジャガーの伝統に相応しいものと言えるだろう。

しかも流麗なスタイリングとは相反するように、高級車に相応しい後席スペースを獲得すべく、ホイールベースを先代から50mm延長(2910mm→2960mm)した効果はてきめんで、キャビンスペースは余裕しゃくしゃく。先代XFよりもさらにしっかりと造り込まれたインテリアの設えも相まって、前席・後席ともに快適な移動空間が実現している。

今回のテストドライブでは、最高出力340psを発生する3リットルV6スーパーチャージャーを搭載する上級モデル「XF35t」に、スポーティな艤装を施した「R-Sport」バージョン。同じく3リットルV6スーパーチャージャーを、380psまでチューンアップした最上級スポーツモデルの「XF S」。そして世界的なスキャンダルとなった「ディーゼルゲート」以後、日本国内では初めて当局から正式に認可されたという新時代の2リットルクリーンディーゼル「インジニウム」を搭載した「20d Prestige」の三台を、相次いで試す機会に恵まれた。

まずXF35t R-Sportは、先代XF中期まで設定されていた5リットルV8搭載車にとって代わることを見込まれたモデル。いわゆるダウンサイジングの賜物だが、スーパーチャージャーの効力でトルク感は申し分なく、静粛性も当代最新の基準をキッチリ満たす。つまり、高級サルーンとしての適性は充分以上と言えよう。

一方XF SのスーパーチャージドV6は、低・中速域でこそ35tの340psスペックと大きな変わりはないが、さらに高回転まで歌わせると一枚上の切れ味と炸裂するパワーを感じさせる。また加速時の豪放な咆哮や、アクセルを戻した際にブローオフバルブからかすかに聞こえてくる破裂音などが、実に痛快なドライブを演出してくれる。

しかし新型XFと言えば誰もが最も気になっているのは、きっと「インジニウム」ディーゼルを搭載した20dシリーズの走りっぷりに違いあるまい。排気量は2リットルと小さいものの、パワーは180psを発生。さらに最大トルクはスーパーチャージャー付ガソリンV6の450Nmに拮抗する430Nmを獲得しているなど、少なくともスペックの上ではなかなかの高水準にある。

◆本質から異なる「新時代のネコ脚」

今回のドライブでは、市街地や上り坂のワインディングロード、そして高速道路のクルージングを試すことができたが、いずれのステージでも「インジニウム」ディーゼルは好印象。1720kgというこのクラスでは比較的軽めの車両重量も相まって、あらゆる状況においても小気味よいトルク感を示してくれる。

もちろん現代のディーゼルらしく静粛性の点でも優秀で、キャビン内にてそれらしいノイズを感じるのは、アイドリングや低速からの加速時などの限られた状況のみ。スムーズにシフトアップする8速ATの能力も合わせて、ひとたび一定のスピードに乗ってしまえば、エンジンの存在が耳につくことは事実上皆無である。もしも改良の余地があるとするならば、スタート&ストップシステムの再始動時に、ちょっと大きめの振動が発生することくらいのものだろう。

そしてV6スーパーチャージャー版と「インジニウム」ディーゼル版の双方に言えることだが、野太いトルクを強調したパワーユニットを搭載し、それをストロークたっぷりのサスペンションで受けとめる。それは英国車、特にジャガーが最も得意としてきたチューニングの妙と思われる。

ここで古くからのジャガー・ファンなら思い出すに違いないのが、遥か昔、1968年にデビューした初代XJあたりからジャガーの象徴ともされてきた「ネコ脚」という単語だろう。しなやかな乗り心地と俊敏なハンドリングの両立を、この時代の常識を大きく超えたレベルで実現していたことから、自然発生的に生まれた代名詞である。

ただし、これまでのジャガーの「ネコ脚」は、比較的重いボディと強力なトルクのエンジン。そして、しなやかな4輪独立のサスペンションによってもたらされたものだった。しかし現代のジャガーにおいては、本質から異なるチューニングが行われていると言わねばなるまい。アルミ製ストラクチャーの利点を最大限に生かした軽量かつ高剛性のボディに、さらにサスペンションアーム周辺の剛性を高めることで、スプリングはソフトに設えてあってもロードホールディングに優れた足回りを実現した、いわば「新時代のネコ脚」。ロードノイズや振動を遮断する能力についても優れており、XFが所属するセグメントEにおいても出色の出来と感じられた。

エンブレムやボディスタイリングから、長らく「ビッグキャット」の異名とともに愛されてきたジャガー。そのニックネームに相応しいシャシーチューニングは、当代最新のXFにとっても、極めて重要なアドヴァンテージと考えるのだ。

◆ドイツ製プレミアムカーの牙城を崩しうる潜在能力

欧州における初代XFは、幹部社員のためのカンパニーカーとしての需要も多かったことから、新型XFについてもジャガー・ランドローバー社は「ビジネスサルーン」と標榜している。しかし、そのカテゴライズが少々ドライに感じられてしまうほどのエモーショナルな感動と、独特の「艶っぽさ」があるのも、またジャガーゆえのことだろう。先代以上に4ドアクーペ的となった流麗なスタイリングや、ゴージャスかつクールなインテリアも相まって、パーソナルカーとしても充分以上に魅力的と感じられる。

ドイツ勢が席巻する激戦区のセグメントEアッパーミドルセダンの中にあって、先代以上の風雲を巻き起こすだけのポテンシャルが、新型ジャガーXFには秘められている。その観測に間違いはないと確信しているのである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

武田公実|自動車ライター/イタリア語翻訳家
1967年名古屋市生まれ、法政大学法学部政治学科卒業。コーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)でセールス/広報を担当したのち単身イタリアに渡り、旧ブガッティ・ジャパンに就職。その後都内のクラシックカー専門店勤務を経て、自動車ライターに転身した。現在では複数の自動車博物館でキュレーションも担当するほか、「浅間ヒルクライム」などのクラシックカーイベントにも立ち上げから参画している。

《武田 公実》

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