【土井正己のMove the World】富山の伝統木工技術「組子」、伝統を世界へ、次世代へ

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タニハタの組子
タニハタの組子 全 9 枚 拡大写真

富山県南部の山間部では、古くから木工彫刻などが盛んだったが、今、富山の「組子」が世界の注目を集めている。「組子」というのは、釘を使わずに、一本、一本デザインされた木を組み付けて、障子や欄間を作り出す技術を言う。照明デザインと組み合わせることで、高級感のある独特の空間を作り出す日本古来の伝統工芸だ。

◆和室離れ

この世界が注目する「組子」づくりを行っているのが、富山市内にある「タニハタ」という会社で1959年の創業だ。和風の「組子」で一時は販売を伸ばしたが、「和室離れ」が始まった1990年頃から急速に販売が落ち込んだ。そうした中で、現社長の谷端信男氏は、就職先の東京から富山に戻り、父親の仕事を手伝いだした。そして、何とか販売を回復させようと「組子」から離れ、洋風の生垣や屋外の壁面の装飾として使う「ラチス」の生産販売を始めた。

ホームセンターなどで販売が順調に伸びたが、ある日、ベテランの職人がやって来て「私は組子の職人なので高みを目指す仕事がしたい」と言って会社を辞めていったという。谷端社長は「この時ほどショックを受けたことはない」と打ち明けてくれた。一方、その頃から中国製の「ラチス」が出回り、価格は大幅に安く、全く太刀打ちできないため、再び苦境に陥っていった。途方に暮れる中、谷端社長の心から一時も離れなかったのが、「高みを目指したい」という辞めていった職人の声だった。

◆高みを目指す

お客様からも「高級品」を求める声が届いてきた。そして、ついに原点の「組子」に戻ることを決意し、職人には「とことん高みを目指して欲しい」と檄を飛ばすようになった。「ラチス」は2万円程度、「組子」による高級欄間は20~200万円の価格で、手間もかかるが利益率も高い。職人の技術を信じ、そして、職人の技を徹底的に売りにしていくことこそが、自分たちの進むべき道であると確信を持って臨むことにしたという。

そして、「組子」の美しさ、伝統、職人の技を世界に伝える自社ウェブサイトが完成すると同時に、先代の社長(父親)が亡くなられたという。「いつも高みを目指す仕事をせよ、と言っていた父親にこのサイトを見せることができたのが唯一の救い」と谷端社長は語ってくれた。

◆ホテル ザ・リッツ・カールトン東京

その後、国内外のお客様の声をもとに「作り方」、「売り方」、「配送の仕方」に関して、改良に改良を重ね、量産ではなく「カスタムメイド」でお客様の満足度を高めていくことに重点を置いた。欄間の場合だと、空間との調和、一体感が重要となるため、デザインの調整だけで4か月を必要とすることもある。

そうした「カスタムメイド」のデザイン提案力を買われて、「ホテル ザ・リッツ・カールトン東京」のスウィートルームなどにも採用された。空港や駅などへの納品も多く、外国客からも引き合いが多く来るようになったという。アップルやツイッターの社屋にも使用され、「最近では、海外からの注文がない日はないのではないかいうくらい海外との取引が増えている」と谷端社長は語ってくれた。

◆「谷端モデル」で伝統を世界へ、次世代へ

谷端社長は、「廻り道もあったが原点を考える時間だったと思う。40年前に内閣総理大臣賞を受賞した職人(三人)が、弊社ではまだ現役で仕事をしており、三人の年齢を合わせると210才」と自慢げに話してくれた。こうした職人の技が、間違いなく世界に向けた日本の財産であろう。

この谷端社長が示してくれた「職人技の価値を再発見する力」、「世界に通じるデザインに仕上げる力」、そして、世界に「アピールする力」があれば、日本のモノづくりは、これからますます世界の注目するところになって行くと確信する。こうした世界から注目されるブランドには若い人も集まってくる。そうして、技術は継承されていくことになる。この「谷端モデル」が日本の地方伝統工芸のこれからの生きる道ではないだろうか。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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